カーボンの中に金属が規則配列した触媒 -CO2削減や燃料電池の白金代替に期待-(プレスリリース)
- 公開日
- 2017年07月25日
- BL14B2(産業利用II)
- BL19B2(産業利用I)
2017年7月25日
東北大学 多元物質科学研究所
九州大学 先導物質化学研究所
(地独)大阪産業技術研究所
兵庫県立大学 大学院工学研究科
【研究成果のポイント】
• 錯体結晶のように規則正しい構造をもち、金属原子が整然と配列した炭素系触媒を開発しました。
• 開発した合成手法では、錯体結晶のように緻密な構造設計が可能なため、高活性な触媒を実現できます。
• 炭素系触媒の利点である耐熱性、耐薬品性、導電性を併せ持つ触媒です。
• 今回の手法を用いれば、錯体結晶と炭素系触媒の利点を併せ持つ材料が得られるため、CO2削減や燃料電池の白金代替など、様々な新規触媒の開発に繋がります。
東北大学多元物質科学研究所の西原洋知准教授、九州大学先導物質化学研究所の谷文都准教授、大阪産業技術研究所の丸山純研究主任、兵庫県立大学大学院工学研究科の松尾吉晃教授らを中心とする研究グループ注1)は、錯体結晶のように規則正しい骨格構造をもち、その中に金属原子が埋め込まれた新規炭素系触媒を開発しました。 【論文情報】 |
【詳細な説明】
金属と有機物が結びついた化合物である錯体は、新素材、エネルギーなど多くの分野で利用されています。錯体は自然界にも多く存在し、例えば血液が酸素を運ぶのも、植物が光合成をするのも、錯体が中心的な役割を果たしています。錯体は触媒としても非常に有用であり、地球温暖化ガスであるCO2を有用な物質に転換する触媒や、燃料電池自動車に使用される白金の代替となる触媒の開発が進んでいます。しかし、錯体は有機物を含むため熱や薬品に弱い欠点がありました。また、導電性が無いため電気化学的な触媒反応には利用が困難でした。これらの問題を克服する材料として、錯体を炭素化注2)して得られる炭素系触媒が期待されています。フタロシアニンやポルフィリンなどの錯体を炭素化して得られる材料はカーボンアロイ注3)とも呼ばれ、耐熱性や耐薬品性に優れ、導電性も持ちます。ところが、有機物を炭素化する際に元の構造が大きく変化してしまうため、狙った化学構造をもつ材料の合成がこれまでは困難でした。炭素系触媒の活性は他の触媒に比べるとまだ低く、その向上が求められていますが、これを実現するには錯体のように化学構造の緻密な制御が必要となります。これまでに様々な有機結晶、錯体結晶、有機金属構造体注4)の炭素化が試みられていますが、どの前駆体注5)を用いても、図1aに示すように元の構造が熱分解してしまい、得られるのは乱雑な構造をもつ材料ばかりでした。本研究では図1bに示すように、前駆体の化学構造を合理的に設計すれば錯体結晶のように規則的な構造をもつ炭素系触媒が調製できることを見出しました。このようにして得られる材料を、私たちは「規則性炭素化物構造体; Ordered Carbonaceous Framework (OCF)」と名付けました。
図2にOCFの具体的な調製方法を示します。前駆体には、図2aに示すような錯体結晶を用いました。この結晶は、図2bに示す錯体分子により構成されています。重要な点は、熱に強い機能性のNi-N4ブロック注6)(ポルフィリン環の中心)と、熱重合してから炭素骨格に変化するジアセチレン鎖をもつことです。この結晶を加熱していくと、ジアセチレン鎖が重合し、図2cに示す結晶性高分子が生成します。Ni原子は規則正しく配列しており、この結晶の(020)面(d値が14.6 Å)を形成しています。図2dに示すこの結晶の透過型電子顕微鏡(TEM)写真においても、(020)面がはっきりと観察されます。さらに加熱を続けると、Ni-N4ブロック以外の部位が炭素質構造に変化し、図2eに示すOCFが生成します。その際、Ni原子の位置はほとんど変化しないため、そのTEM写真(図2f)は炭素化前の図2dから殆ど変化しません。全体の操作としては、前駆体の錯体結晶を単に600~700 °Cで炭素化するだけという極めて簡便なものです。
(a) 前駆体の錯体結晶の構造、(b)は(a)を構成する錯体分子の構造、(c)は(a)の熱重合により生じる結晶性高分子の構造、(d)は(c)のTEM写真、(e)は(c)の炭素化により生じるOCFの構造、(f)は(e)のTEM写真。(a, c, e)の構造図中、炭素は黒色、窒素は緑色、水素は水色で示し、Niは紫色の球で表している。
OCFは炭素材料の導電性とNi-N4ブロックに由来する触媒活性を併せ持つため、電気化学的にCO2を選択的にCOに還元することができます。まさに、錯体結晶のような炭素系触媒と言えます。図3に従来の触媒と比較したOCFの利点を纏めます。錯体系触媒や炭素系触媒は、CO2を有用な化学物質に転換する触媒や、燃料電池の白金触媒の代替材料として従来から多くの研究がなされていますが、それぞれ図3に示す欠点が問題でした。本研究で発見した図1bの合成ルートは今回とは別の錯体結晶および有機結晶にも原理的に適用が可能であるため、今後、多くの有用な触媒の開発に繋がるものと大いに期待されます。
【注釈】
注1)研究グループについて
今回の研究は、冒頭に紹介しました4名の他に、東北大学多元物質科学研究所の芥川智行教授、星野哲久助教、陣内浩司教授、樋口剛志助教、笠井均教授、小関良卓助教、東北大学研究教育基盤技術センター先端電子顕微鏡センターの早坂祐一郎技術専門職員、株式会社リガクの小中尚博士、千葉大学大学院工学研究科の山田泰弘助教、大阪大学太陽エネルギー化学研究センターの神谷和秀助教、および関連する学生・技術職員から成る研究グループにより実施しました。
注2)炭素化
有機物や、有機物と無機物の混合物を酸素が無い状態で高温で焼成し、炭素質の物質を得ること。
注3)カーボンアロイ
カーボン(carbon)は炭素、アロイ(alloy)は合金の意味。カーボンアロイはこれらを組み合わせた造語であり、炭素原子を主体とした多成分系から成る材料のこと。
注4)有機金属構造体
有機リガンドと金属イオンの配位結合から成る構造体で、細孔もしくは潜在孔をもつ物質のこと。
注5)前駆体
炭素化物を得るための原料のこと。
注6)Ni-N4ブロック
Niはニッケル原子、Nは窒素原子の意味。ポルフィリン中心には4個の窒素原子があり、形式的にそのうちの2個は負電荷をもつが、4個の窒素原子は対称性から等価であるため、4個の窒素原子の全てが2価の正電荷を持つニッケル原子に配位した状態となる。これをここではNi-N4ブロックと表記している。
本研究のX線回折データおよびX線吸収微細構造データは、公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI/SPring-8)における研究課題2015A1956, 2015A1666, 2016A1750によって得られたものです。また、13C CP-MAS NMR測定はナノテクノロジープラットフォームにおける東北大学ナノテク融合技術支援センターの支援を受けて実施しました。
なお本研究は、科学技術振興機構(JST)さきがけ「超空間制御と革新的機能創成」研究領域(研究総括:黒田一幸早稲田大学理工学術院教授)における研究課題「応力で自在に変形する超空間をもつグラフェン系柔軟多孔性材料の調製と機能開拓」(代表者:西原洋知)の支援を受けて実施しました。研究を実行するにあたり、「物質・デバイス領域共同研究拠点」展開共同研究Bに基づき学際的な研究グループを組織しました。また本研究の一部には、科学研究費補助金: 国際共同研究強化の支援を受けました。
物質・デバイス領域共同研究拠点では、拠点を構成する5附置研究所(北海道大学電子科学研究所、東北大学多元物質科学研究所、東京工業大学化学生命科学研究所、大阪大学産業科学研究所、九州大学先導物質化学研究所)において共同研究を濃密に深化させ、新規共同研究の新たな枠組みを構築し、研究成果を人・環境問題に資するイノベーションに展開する「人・環境と物質をつなぐイノベーション創出ダイナミック・アライアンス」事業を、平成28年度より開始しました。 |
お問い合わせ先 九州大学 先導物質化学研究所 (地独)大阪産業技術研究所 兵庫県立大学 大学院工学研究科 (報道関連) 九州大学 広報室 (地独)大阪産業技術研究所 森之宮センター 兵庫県立大学 経営戦略課 (SPring-8 / SACLAに関すること) |
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