窒化ガリウム(GaN)ウエハ全面の「ゆがみ」をすばやく詳細に可視化する新手法を開発(プレスリリース)
- 公開日
- 2018年05月16日
- BL20B2(医学・イメージングI)
2018年5月16日
国立研究開発法人 物質・材料研究機構
図:(a) GaN 半導体の2 インチウエハの結晶面のゆがみの方向。(b) そのゆがみの大きさを濃淡で表示。
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研究の背景
半導体結晶の格子歪や欠陥などの結晶性は、製品となる半導体デバイスの特性に影響を及ぼします。 そのため、良質な結晶性を有する半導体ウエハを作製するために、精力的に研究、開発が行われています。半導体デバイス製造の分野では、デバイスのサイズが小さくなるにつれGaN 結晶の転位と呼ばれる結晶欠陥の数(結晶欠陥密度)を観察し、その結果を結晶製造にフィードバックし、結晶を高品質にすることが産業上非常に重要です。
このような背景のもと、X 線回折顕微法(5)、電子顕微鏡法、フォトルミネッセンス法、陽電子消滅法など今でも種々の方法を駆使したり、それぞれの方法を高度化したりすることは今も進められています。もっとも基礎的な情報である半導体ウエハの全面、かつ局所的な結晶面に関する形状の情報を一度に評価する手法はありませんでした。産業上、結晶性に優れ、かつ広面積な半導体ウエハを作製するには、その評価のために比較的簡単な方法で、かつ短時間の評価方法を開発することは大変重要です。
研究内容と成果
今回、本研究チームは、結晶面の法線方向を数学的な平面にその結晶面の法線方向を投影する手法の原理、適用制限を考察し、大型放射光施設(SPring-8)を利用し、直径2インチウエハでそれを実証しました。
試料の表面法線周りの2つの方位角度で測定を行うところがポイントです。それぞれの方位で試料の各部位からの回折ピーク角度を記録します。結晶面の各部位の法線を試料表面内の角度成分を求めることができます。つまり、各部位の結晶面の法線の、試料表面にほぼ平行な理想的な面への投影を得ることができます。
試料は、直径2インチの GaN 半導体ウエハに GaN を厚さ 3µm 成長させたものです。表面全面にほぼ単色平行な X 線を照射し、結晶格子面から回折が生じるよう X 線の入射角θを調節しました。入射 X 線と試料表面のなす角は約 0.6°でした(図1a)。続いて、回折強度がもっとも大きくなる入射角 0.6°近傍で、入射角を 25 秒ステップ変える毎に回折像を2次元 X 線検出器に記録しました(図1b)。表面法線周りに試料をφ=120°回転し、同様な測定を繰り返しました。
図2は、GaN半導体の2 インチウエハの結晶面のゆがみの方向(結晶面の法線)を矢印で示したものです。もし結晶面に「ゆがみ」がなければ、矢印は無く点で表示されますが、今回調べた試料の場合、矢印が見えることから、結晶面は理想的に平坦な平面ではなく局所的な「ゆがみ」を持っていることが分かります。また、ゆがみの分布をみるために、矢印の傾きの絶対値を図2b で表示しています。この図から今回調べた試料の結晶面はおおよそ円筒状の形状をしていることが分かりました。
この解析から、結晶面の「ゆがみ」がどの程度であるかも定量的に表すことができました(図 3)。±0.03°の範囲でゆがんでいることが分かりました。度数の最大値の半分の幅が約 0.03°であることも定量できました。
今後の展開
今後は開発が進められているパワーデバイスの特性と GaN ウエハの結晶面の形状との関係について調べる予定です。GaN 結晶の高品質化を目指し、企業や大学が種々の基板作製法を提案していますので、それぞれの基板の作製条件と結晶面の「ゆがみ」の相関する関係を定量的な情報として提供します。さらに、本手法は、対象とする半導体の種類を限定しないため、他の半導体のウエハや基板の評価への展開が期待されます。
用語解説
(1)窒化ガリウム
ガリウム (Ga) と窒素 (N) からなる六方晶系を有する結晶。青色半導体レーザーの材料。将来のパワーデバイス材料としても開発研究が活発化している。
(2)X 線回折
波長1Å程度のX 線を用い、その波長が結晶格子の面間隔と同程度なので、ブラッグの条件によって回折される性質を利用してその回折像から結晶構造や原子配列を決定する方法の総称。
(3)結晶面、あるいは結晶格子面
結晶内の原子が作る面のことで、等間隔に平行に並んでいる多くの面の総称。
(4)大型放射光施設(SPring-8)
国立研究開発法人理化学研究所が所有する、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す施設。その運転管理と利用者支援は公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8 の名前はSuper Photon ring-8 GeV に由来する。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のことである。
SPring-8 では、この放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。SPring-8 は日本の先端科学・技術を支える高度先端科学施設として、日本国内外の大学・研究所・企業から年間延べ1 万4 千人以上の研究者に利用されている。
(5)X 線回折顕微法、X 線回折トポグラフィー法
結晶のある範囲からのX 線回折像を撮影し,局所的な反射強度の変化を観察する方法.回折像中のコントラストから、格子欠陥、転位、積層欠陥、不純物の析出,偏析,双晶,さらには磁性体や誘電体の分域構造などを観察できる。異なる格子面による回折像を比較して,ひずみの勾配の方向や転位のバーガー ス・ベクトルなどをきめることができる。
本件に関するお問い合わせ先 (報道・広報に関すること) (SPring-8 / SACLAに関すること) |
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