大型放射光施設 SPring-8

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グアニンヌクレオチド交換因子SmgGDSによる脂質修飾された低分子量Gタンパク質の認識および新規GEF機構を解明(プレスリリース)

公開日
2018年09月07日
  • BL44XU(生体超分子複合体構造解析)

2018年9月7日
東京大学
武蔵野大学
明治薬科大学

発表のポイント:
◆ファルネシル化RhoAとSmgGDS-558という2つのタンパク質の複合体結晶構造を決定しました。
◆RhoAに対するSmgGDSのグアニンヌクレオチド交換促進機構および翻訳後脂質修飾の認識機構を明らかにしました。
◆本研究成果は、低分子量Gタンパク質やSmgGDSを標的とした抗癌剤の開発に繋がることが期待されます。

 東京大学大学院薬学系研究科の清水光 大学院生、藤間祥子 助教、清水敏之教授、堅田利明(武蔵野大学薬学部 教授)、紺谷圏二(明治薬科大学薬学部 教授)らの研究グループは、低分子量Gタンパク質RhoAのグアニンヌクレオチド交換因子であるSmgGDS-558による脂質修飾されたRhoAの認識機構を、世界で初めて明らかにしました。
 低分子量Gタンパク質はGDP結合型/GTP結合型を行き来することで分子スイッチとして働き、細胞増殖や骨格形成といった重要な細胞機能を制御するタンパク質です。グアニンヌクレオチド交換因子(Guanine-nucleotide exchange factor: GEF)はGDP/GTPの交換を促進することでこの低分子量Gタンパク質の活性を管理しています。SmgGDS-558はRhoAに対するGEFであり、既知のGEFにみられる活性ドメインを持っていないことや低分子量Gタンパク質の翻訳後脂質修飾を認識することなど特異な性質を持つことが知られています。しかし、どのようにしてSmgGDS-558がRhoAに対してGEFとして働くのか、脂質修飾を認識するのかは明らかになっていませんでした。
 本研究グループは、X線結晶構造解析によりSmgGDS-558によるRhoAの認識機構を明らかにしました。SmgGDS-558はRhoAと1:1複合体を形成し、RhoAのグアニンヌクレオチド認識部位を大きく構造変化させることでRhoAからのGDPの解離を促進していました。またSmgGDS-558はRhoAとの結合時に自身の構造を変化せることで隠されたポケットをあらわにしRhoAの脂質修飾部位を認識していました。本知見は、構造解析によってはじめて得られたものであり、今後低分子量Gタンパク質やSmgGDSを標的とした治療薬の開発に寄与すると考えられます。本研究成果は2018年9月6日付でProceedings of the National Academy of Sciences, USA (オンライン版)に掲載されました。

発表雑誌:
雑誌名:Proceedings of the National Academy of Sciences, USA
論文タイトル:GEF mechanism revealed by the structure of SmgGDS-558 and farnesylated RhoA complex and its implication for chaperone mechanism
著者:清水光*, 藤間祥子, 堅田利明, 紺谷圏二, 清水敏之†(*筆頭著者、†責任著者)
DOI番号:10.1073/pnas.1804740115

<研究の背景>
 低分子量Gタンパク質は細胞内シグナル伝達のスイッチとして働くタンパク質群であり、GTP結合型とGDP結合型を行き来することで細胞増殖や骨格形成といった重要な機能を制御しています。低分子量Gタンパク質のGDP/GTP交換はグアニンヌクレオチド交換因子(guanine-nucleotide exchange factor: GEF)によって制御されており、これらの機能異常は癌などの重大な疾患に繋がります。SmgGDSは低分子量Gタンパク質RhoAに対するGEFの一つであり、GEFの中では唯一アルマジロリピートモチーフ(Armadillo-repeat motif: ARM, 注1)と呼ばれる構造単位のみで構成されていることで知られています。既知のGEFにみられる活性ドメインを一切持たず、どのような仕組みでGEFとして機能するのかについては長きにわたり不明でした。また、SmgGDSはARM数の異なる2つのスプライスバリアント(注2)アイソフォーム(SmgGDS-558, SmgGDS-607)から成っています(図1)。近年になりSmgGDS-558は翻訳後脂質修飾を受けたRhoAをSmgGDS-607は未修飾のRhoAを強く認識しGEF活性を発揮するということが見出されてきました。しかし、これら脂質修飾の認識に関してもSmgGDSの構造解析が進んでいないため、その詳細な分子機構については不明なままでした。

<研究の内容>
 本研究グループは、大型放射光施設 SPring-8(注3)BL44XUおよび高エネルギー加速器研究機構 Photon Factory の強力な X 線を用いて、SmgGDS-558と脂質修飾したRhoAの複合体のX線結晶構造解析に成功しました。構造解析の結果、SmgGDS-558はRhoAと1:1の複合体を形成していました。SmgGDS-558によるRhoA認識部位は主に二か所あり、一つはRhoAのSwitch IIと呼ばれるグアニンヌクレオチドの結合に重要なモチーフで、もう一つはRhoAの脂質修飾部位でした(図2)。SmgGDS-558はRhoAのSwitch II大きな構造変化を誘起し、グアニンヌクレオチド結合部位を不安定化することでGDP/GTPの交換を促進していることが明らかになりました。また、RhoAの脂質修飾部分はSmgGDS-558の疎水性ポケットに収容されており、これは構造上SmgGDS-607には存在しないARM BとDの境界部部分でした。 SmgGDS-558とSmgGDS-607がARM1つの違いによってRhoAの脂質修飾有無を区別しGEF活性を発揮するということが分子構造上初めて明らかとなりました。

<今後の展開>
 低分子量Gタンパク質は多くの癌において創薬上重要なターゲットの一つとされています。本研究により低分子量Gタンパク質やSmgGDSを標的とした治療薬の開発に寄与すると考えられます。
 本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)、科学研究費補助金、公益財団法人 武田科学振興財団助成金、公益財団法人 上原記念生命科学財団、公益財団法人 内藤記念科学振興財団などの外部資金支援を受けて行われたものです。


図 1. SmgGDSのドメイン図
図 1. SmgGDSのドメイン図

図中A-M までのアルファベットはそれぞれ一つのARMを表す。数字はアミノ酸番号。


図 2. SmgGDS-558(緑)/ファルネシル化RhoA(橙)複合体全体構造
図 2. SmgGDS-558(緑)/ファルネシル化RhoA(橙)複合体全体構造

RhoAのSwitch IIは青色で、脂質修飾部位周辺は紫色で表示した。点線は結晶中では揺らいでおり、観測されなかった部分。


用語解説:
注1) アルマジロリピートモチーフ
タンパク質にみられる構造単位。3つのαへリックスからなる繰り返し構造であり、蛋白質間の相互作用に重要であると考えられている。

注2) スプライスバリアント
真核細胞においてRNA前駆体からイントロンを除去しエキソン同士を繋げる反応がスプライシングであるが、このスプライシングには多様性があり、同一の遺伝子から構造の異なる複数のタンパク質が生産されることがある。

注3) 大型放射光施設SPring-8
SPring-8の施設名はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来します。兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設であり、その運転と利用者支援などは高輝度光科学研究センターが行っています。



問い合わせ先:
<研究に関すること>

東京大学大学院薬学系研究科 薬学専攻
助教 藤間祥子(とうま さちこ)
 Tel:03-5841-4842 Fax:03-5841-4891
 E-mail:tomasatmol.f.u-tokyo.ac.jp

教授 清水 敏之(しみず としゆき)
 Tel:03-5841-4840 Fax:03-5841-4891
 E-mail:shimizuatmol.f.u-tokyo.ac.jp
 HP:http://www.f.u-tokyo.ac.jp/~kouzou/index.html

(SPring-8 / SACLAに関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課 
 TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
 E-mail:kouhou@spring8.or.jp

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