融合タンパク質技術を用いた全く新しい結晶化(プレスリリース)
- 公開日
- 2018年10月10日
- BL44XU(生体超分子複合体構造解析)
2018年10月10日
徳島大学
徳島大学先端酵素学研究所の真板宣夫准教授は、多孔性結晶を作るタンパク質にユビキチンを融合させて、多孔性結晶の孔内部にユビキチンを固定させる新しい方法で、ユビキチンの結晶構造決定に成功しました。この成果は10月10日に米国化学会誌(Journal of the American Chemical Society)にオンライン掲載されました。 掲載誌 |
研究の背景
タンパク質の結晶構造解析では良質の結晶を作ることが必須ですが、結晶化条件を見つけるためには数多くの条件を試さなければなりません。そのため結晶化が一番のボトルネックになっています。そこで、あらかじめ空隙の大きい結晶格子を作り、その内部に構造解析したいタンパク質をうまく結合させることが出来れば、結晶化の困難が解消されます。この方法は低分子化合物においては“結晶スポンジ法”ですでに実現されていますが、分子量の大きなタンパク質ではこれまで成功していませんでした。
研究内容と成果
タンパク質で結晶スポンジ法を適用するにはタンパク質が入るのに充分な大きさの孔をもつ結晶格子が必要です。また、出来た結晶格子内にタンパク質を効率よく結合させることも必要になります。そこで大きな空隙を持つ結晶格子を作るタンパク質に解析したい別のタンパク質を遺伝子工学手法で融合させたものを作れば、これらの条件を満たすことが出来ます。そのなかですでに構造解析が行われたタンパク質結晶で空隙の大きな結晶格子を作るタンパク質に着目しました。R1ENは内径110Å(11nm)の大きな孔のハニカム構造の結晶を作る(図1)ので、R1ENに別のタンパク質を融合させれば孔の内部に配置され、結晶構造解析が出来ると考えました。この手法のテストケースとして、ユビキチン(分子量8500 Da)をR1ENのC末側に融合させてR1EN単独の場合と同じ結晶化条件で結晶化を試みました。最初は結晶が得られませんでしたが、R1ENだけの結晶を種にミクロシーディング(注1)を行うとR1ENの結晶化条件と同じ条件でR1EN-ユビキチンの結晶が得られました。
この結晶をフォトンファクトリーおよび大型放射光施設SPring-8のBL44XUでX線を照射し、最高1.7ÅのX線データを取得することが出来ました。さらにデータを処理し、新規にユビキチンの結晶構造を決定することが出来ました(図2)。ユビキチンの構造をこれまでに報告されているものと比較したところ、最大で0.53Åの違いしかなく、この方法での構造解析が有用であることが示されました。
今後の展望
既存のタンパク質結晶の空隙に新たにタンパク質を導入することによる結晶構造解析に初めて成功しました。また、R1EN単独の場合と同じ結晶化条件で結晶が得られたことから、今まで結晶化が困難だったタンパク質の結晶構造解析が進むことが期待されます。今後は、解析可能なタンパク質の分子量の上限を上げること。さらにはこの方法での新規構造のタンパク質の解析を目指して改良を行います。
その他参考となる事項
本研究は、科学研究費補助金(挑戦的萌芽研究)の外部資金支援を受けて行われました。
図1 (左)R1ENの結晶格子。(右)R1EN-ユビキチンの結晶格子。
図2 (左)R1EN-ユビキチンの全体構造。R1ENを緑、ユビキチンを桃色で示す。
(右)ユビキチン部分の電子密度。
用語解説
(注1)ミクロシーディング:
結晶の核が形成されにくい場合に、溶液に微結晶を混ぜて結晶を得られやすくする方法
問い合わせ先: (SPring-8 / SACLAに関すること) |
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