放射光を使ってミクロの糸球体を見る/SGLT2阻害薬による糖尿病マウス糸球体1万個への作用を明らかとする(プレスリリース)
- 公開日
- 2018年10月18日
- BL20B2(医学・イメージングI)
2018年10月18日
旭川医科大学
名古屋工業大学
九州大学
背景
日本の糖尿病患者は現在1000万人、そのうちの30%が合併症である糖尿病腎症を患います。2016年の最新の報告では、人工透析を始めた方の43.2%が糖尿病で、この年、糖尿病患者1万7000人が人工透析となりました。
新しい糖尿病治療薬のSGLT2阻害薬は、最近の大規模臨床試験の結果、糖尿病患者における腎症の進行を抑えることがわかりました。腎臓の糸球体は、体の中の老廃物を濾過する重要な働きをしております。ヒトでは一つの腎臓に100万個ありますが、糸球体の大きさは100ミクロン程と小さいため、現在の画像検査では観察は不可能です。生体検査によって組織を採取し、初めて観察が可能となりますが、糸球体10個程度が限界です。糸球体の数と大きさが、糖尿病では、どうなっているのか?それを知ることは、糖尿病の治療と腎症の進行度を予測する上で、大変重要なことです。
研究手法と成果
肥満2型糖尿病モデルマウスの腎臓のCT撮影を、大型放射光施設SPring-8の医学・イメージングIビームライン(BL20B2)で行いました。糖尿病マウスの糸球体は正常マウスと比べると、数は変わりませんが大きくなっていました。SGLT2阻害薬は、糖尿病による腎肥大を正常化しましたが、糸球体の数・大きさは変わりませんでした。
大きく変わったのは、腎臓の90%以上を占める尿細管の大きさでした(全糸球体体積は、腎体積の1.5%未満)。SGLT2阻害薬の腎保護効果は、尿細管を標的としていることが明らかとなりました。
図:SPring-8 BL20B2にて撮影したマイクロCT像と糸球体の3次元解析像
今後の展望
糖尿病は、血糖が高くなることにより、全身の血管を障害する血管病です。SPring-8の放射光を用いたマイクロCTは、マウス全身の血管撮影と解析が可能です。現在、糖尿病と合併の多い脂肪肝、糖尿病患者の死亡原因第1位である癌について、その血管構造の変化、異常血管新生の研究を進めています。今後は、糖尿病とその合併症の病態をミクロ単位で明らかにすることにより、ヒトでの糖尿病の病態の理解を進め、新しい治療法と診断法の開発を目指します。
掲載誌
Impacts of Diabetes and an SGLT2 Inhibitor on the Glomerular Number and Volume in db/db Mice, as Estimated by Synchrotron Radiation Micro-CT at SPring-8.
EBioMedicine 36C (2018) pp. 329-346.
https://doi.org/10.1016/j.ebiom.2018.09.048
【本研究に関するお問合せ】 【本プレスリリースに関するお問合せ】 名古屋工業大学企画広報課 九州大学広報室 (SPring-8 / SACLAに関すること) |
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