大型放射光施設 SPring-8

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隕石に由来する高機能磁性材料を人工作製することに成功 ~パルスレーザーとロボット制御による新製法の実現~(プレスリリース)

公開日
2019年02月20日
  • BL46XU(産業利用III)

2019年2月20日
東京理科大学
高輝度光科学研究センター
東京大学

▶ 隕石に由来する高機能磁性材料「L10型FeNi規則合金」の人工創製に成功しました。
▶ パルスレーザー蒸着装置を精密制御し、結晶構造を規則化させる新手法を開発しました。
▶ 次世代電子デバイスや電気自動車のモーター等、環境エネルギー技術への貢献が期待されます。
▶ 本論文は米国科学誌「Applied Physics Letters」に2月19日(米国時間)に掲載されました。

論文情報
雑誌名: Applied Physics Letters (2019年2月19日 オンライン掲載)
論文タイトル: Fabrication of L10-FeNi by pulsed-laser deposition
著者: M. Saito, H. Ito, Y. Suzuki, M. Mizuguchi, T. Koganezawa, T. Miyamachi, F. Komori, K. Takanashi, and M. Kotsugi
Volume 114, Issue 7, page 072404
DOI:10.1063/1.5087041

図1 本研究の概要

図1 本研究の概要


【研究の背景】
 希少資源の枯渇やエネルギー問題の深刻化を背景に、低環境負荷で高性能な磁性材料の実現が求められています。「L10型FeNi規則合金(L10-FeNi) 注1」はレアアースフリーで高い磁気機能を有することから、これらの期待に応えうる新しい機能性磁性材料です。本材料は鉄(Fe)とニッケル(Ni)が原子スケールで規則的に並んだ特殊な構造をもち、磁気モーメントや磁気異方性と呼ばれる磁気特性に優れています。
 L10-FeNiは元々鉄隕石に含まれるユニークな磁性材料で、その形成には46億年が必要とされていました。これまで我々は天然の隕石の解析や電子スピン状態の解析などを行ってきました。また近年では分子線エピタキシー法や巨大ひずみ加工法、脱窒素法など様々な材料作製手法が報告されており、世界的な研究開発が加速しています。
 その一方で、L10-FeNiの成長機構には未だ謎が多く、その作製技術には議論の余地が多く残されています。そこで本研究では超平坦な薄膜を作製可能なパルスレーザー蒸着法注2に着目し、L10-FeNiの人工創製を行いました(図1)。

【研究成果の概要】
 東京理科大学の小嗣真人准教授らの研究グループは、パルスレーザー蒸着装置を精密制御し、L10-FeNiの作製技術を開発しました。パルスレーザー蒸着法は原子層スケールでほぼ理想的な薄膜を作製できるのが特徴です。ArduinoTMによるハードウェアの高度化とLabVIEWTMによる制御ソフトウェアを開発し、表面形状や膜構成などを精密制御するシステムを構築しました(図2)。

図2 パルスレーザー蒸着装置

図2 パルスレーザー蒸着装置

 物性解析は、大型放射光施設SPring-8注3BL46XUを用いたX線構造解析と、東京大学物性研究所の超伝導量子干渉磁束計注4、また東京理科大学の原子間力顕微鏡注5を用いて行いました。一連の解析を様々な試料作製パラメーターについて系統調査し、プロセス条件を最適化しました。
 その結果、L10-FeNiの形成を確認すると共に、成長温度300 ℃でL10型構造の形成が最も促進していることを確認しました(図3)。本温度は従来法と異なる値で、パルスレーザー蒸着特有の膜生成が起こっていることが示唆されます。 表面自由エネルギー注6の観点から島の形状と結晶構造を議論した結果、パルスレーザーの瞬間的な昇華と高密度の生成核が起源となって、L10-FeNiの形成に至ることがわかりました。本研究を通じて、パルスレーザー蒸着がL10-FeNiの作製に有用であることを世界で初めて実証しました。

図3 作製された試料の特性

図3 作製された試料の特性

【今後の展望】
 L10-FeNiはレアアースフリーで高い磁気機能を示すことから、次世代のスピントロニクスデバイスや、電気自動車用途の高効率モーターなど、我が国の新しい環境エネルギー技術として、様々な社会展開が期待されます。


【発表者】
小嗣真人 東京理科大学 基礎工学部材料工学科 准教授
齊藤真博 東京理科大学大学院 基礎工学研究科材料工学専攻 修士二年
鈴木雄太 東京理科大学大学院 基礎工学研究科材料工学専攻 修士二年
伊藤久晃 東京理科大学大学院 基礎工学研究科材料工学専攻 修士一年
小金澤智之 高輝度光科学研究センター(JASRI)産業利用推進室 主幹研究員
宮町俊生 東京大学 物性研究所 助教
小森文夫 東京大学 物性研究所 教授
水口将輝 東北大学 金属材料研究所 准教授
高梨弘毅 東北大学 金属材料研究所 所長


【用語解説】

注1)L10型FeNi規則合金 :
FeとNiが単原子毎に規則的に積層した面心立方構造を有するFeNi合金。不規則相のFeNiと比較して極めて高い磁気異方性を示すことが特徴。

注2)パルスレーザー蒸着法 :
短いパルス幅のレーザーをターゲット材料に照射することで元素を瞬間的に蒸発・昇華させて薄膜を作製する手法。

注3)大型放射光施設SPring-8 :
理化学研究所が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す施設で、利用者支援はJASRIが行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。SPring-8ではこの放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。

注4)超伝導量子干渉磁束計 :
ジョセフソン接合を含む環状超伝導体を用いて、極めて高い感度で磁場を検出できる磁気センサー

注5)膜原子間力顕微鏡 :
試料と短針の原子間に作用する微弱な力を検出して、表面の凹凸をナノスケールで解析できる顕微鏡。

注6)表面自由エネルギー :
蒸着物に蓄えられた内部エネルギーの一種で、島の面積や結晶構造、温度などに依存する。一般に、表面自由エネルギーを最小にするように島の形状が変化する。表面張力もその一例。



【本研究内容に関するお問合せ先】
■東京理科大学 基礎工学部 材料工学科 
准教授 小嗣真人
 Tel: 03-5876-1412
 e-mail:kotsugiatrs.tus.ac.jp

【当プレスリリースの担当事務局】
■東京理科大学 研究戦略・産学連携センター(URAセンター)
 Tel:03-5228-7440 
 e-mail:uraatadmin.tus.ac.jp

■東京大学物性研究所 広報室
 Tel:04-7136-3207
 e-mail:pressatissp.u-tokyo.ac.jp

(SPring-8 / SACLAに関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課 
 TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
 E-mail:kouhou@spring8.or.jp

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