X線照射で始まる超高速反応の観測に成功 レントゲンによるX線の発見から120年で初(プレスリリース)
- 公開日
- 2019年05月17日
- SACLA BL3
2019年5月17日
東北大学多元物質科学研究所
東北大学大学院理学研究科
京都大学大学院理学研究科
広島大学大学院理学研究科
理化学研究所
高輝度光科学研究センター
【発表のポイント】
• X線照射により極めて短時間に起こる現象を観測。
• 放射線損傷機構の解明に期待。
東北大学多元物質科学研究所の福澤宏宣助教と上田潔教授、東北大学の河野裕彦名誉教授(元・東北大学大学院理学研究科教授)、フィンランド国トルゥク大学のクック・エドウィン教授、ドイツ国ハイデルベルグ大学のクレフ・アレクサンダー教授とローレンツ・セダーバウム教授、フランス国パリ・サクレ大学のミロン・カタリン所長代理、京都大学大学院理学研究科の永谷清信助教、広島大学大学院理学研究科の和田真一助教、理化学研究所放射光科学研究センターXFEL研究開発部門ビームライン研究開発グループ矢橋牧名グループディレクター及び高輝度光科学研究センターXFEL利用研究推進室先端光源利用研究グループ登野健介グループリーダー等による合同研究チームは、X線を気相の孤立した多原子分子に照射してから数10フェムト秒(1フェムト秒は千兆分の1秒)で完結する超高速反応を観測することに成功しました。また、観測した超高速反応の中にも、メカニズムが異なる反応が存在することが明らかになりました。レントゲンがX線を発見してから120年が経ちますが、X線が誘起する孤立した多原子分子中での超高速反応の観測に成功した研究は初めてのものです。 論文情報 |
背景
X線はエネルギーの高い光で、放射線の一つです。物質にX線を当てると、物質を構成している原子に強く束縛されている電子がたたき出され、不安定な状態になります。不安定な状態の物質は安定な状態へ緩和していきます。緩和していく最中には、さらに電子を放出したり、物質の変形が起きたりしますが、緩和にかかる時間は極めて短く、その詳細を知ることがとても難しくなります。一方でX線は、私たちの生活には無くてはならない道具として、医療や材料の開発等、幅広く用いられています。X線を物質に当てて起こる現象を詳細に知ることは、私たちの生活をよりよくするためにも必要なのです。
本研究では、重元素を含む分子にX線を照射することで始まり、超短時間に終わる過程を観測することに成功しました。物質に重元素を混ぜることは、物質をX線に対して敏感にさせるためで、放射線を用いた治療などでも用いられる方法です。
研究の手法と成果
本研究の実験では、最も小さい有機分子であるメタン分子の中の2つの水素原子をヨウ素原子で置換したジヨードメタン分子にX線を照射して起こる過程を観測しました。ここで起こる一連の過程を図1に示します。分子にX線を照射すると、エネルギーが高く不安定な状態の分子になります。不安定な分子は、電子を放出しながら、よりエネルギーが低く、より安定な状態へ緩和していきます。このような過程はオージェ過程と呼ばれます。緩和していく最中に分子は電子をいくつも放出するので価数が高い分子イオンになります。最後にはバラバラになって、イオン化した原子が飛び出してきます。エネルギーが高い状態から低い状態へ緩和していく途中で別のレーザー光を照射すると、分子は少しエネルギーが高い状態になり、最後に飛び出してくるイオンが変化します。研究グループは、分子がバラバラになって飛び出してくるイオン化した原子を検出して、レーザー光を照射するタイミングによってどのような変化が起こるかを調べました。そして、緩和過程途中の状態がどれだけの時間存在しているかが分かりました。その時間は数10フェムト秒程度です。また、オージェ過程の他にも、分子内の2つのヨウ素原子間で起こる、原子間クーロン緩和*1と呼ばれる過程が関与していることが分かりました。
図1. X線照射によって起こる一連の過程の模式図
極めて短時間で起こる現象を観測するには、極めて短い時間だけ照射できるX線が必要です。このような実験はX線自由電子レーザー*2を用いることで初めて可能になりました。研究グループは日本のX線自由電子レーザー施設SACLA*3で実験を行うことで、本研究成果を得ることが出来ました。
今後の展望
本研究では、X線を照射することで起こる現象を捉えることに成功しました。X線を生体分子に照射すると放射線損傷と呼ばれる分子の破壊が起こりますが、そのメカニズムは解明されていません。放射線損傷を制御できれば、例えば放射線を用いたがん治療を正確に効率よく実施することが可能となります。今回の研究成果を引き金として、放射線損傷機構解明に向けた大きな発展が期待されます。
本研究で用いたX線自由電子レーザー照射による数10フェムト秒の時間スケールで起こる超高速過程を捉える測定法は、これまで捉えることが困難だった他の超高速現象の観測にも応用できると期待されます。
本研究は、東北大学の上田潔教授を代表とする文部科学省X線自由電子レーザー重点戦略研究課題、5附置研究所間アライアンス、多元研プロジェクトの支援を受け、遂行されました。
用語解説
*1 原子間クーロン緩和
励起された原子・イオンの近くに他の原子集団が存在すると励起原子・イオンの脱励起に伴って他の原子集団の電子緩和が起きることが多々ある。この緩和過程は原子間クーロン過程と呼ばれ、原子間のエネルギー移動・電子移動を司る重要な機構の一つである。
*2 X線自由電子レーザー(XFEL)
X線領域で発振する自由電子レーザーであり、可干渉性、短いパルス幅、高いピーク輝度を持つ。自由電子レーザーは、物質中で発光する通常のレーザーと異なり、物質からはぎ取られた自由な電子を加速器の中で光速近くに加速し、周期的な磁場の中で運動させることにより、レーザー発振を行う。
*3 SACLA
理化学研究所と高輝度光科学研究センターが共同で建設した日本で初めてのX線自由電子レーザー施設。科学技術基本計画における5つの国家基幹技術の1つとして位置付けられ、2006年度から5年間の計画で整備を進めた。2011年3月に施設が完成し、SPring-8 Angstrom Compact free electron LAserの頭文字を取ってSACLAと命名された。
【問い合わせ先】 東北大学多元物質科学研究所 東北大学 広島大学大学院理学研究科 (報道に関すること) 東北大学大学院 理学研究科 広報・アウトリーチ支援室 京都大学総務部広報課 国際広報室 広島大学 広報グループ 理化学研究所 広報室 報道担当 (SPring-8 / SACLAに関すること) |
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