惑星深部の超高圧環境に耐える新しい含水鉱物を発見(プレスリリース)
- 公開日
- 2019年12月11日
- BL04B1(高温高圧)
- BL10XU(高圧構造物性)
2019年12月11日
愛媛大学
高輝度光科学研究センター
水素は宇宙で最も豊富に存在する元素であり、その特性は惑星内部の構造や進化に多大な影響を及ぼしていると考えられています。愛媛大学GRCの西真之講師、土屋旬准教授、東京大学の桑山靖弘助教らは、高圧実験と理論計算に基づき、水酸化アルミニウムが約190万気圧の高圧下で新しい高圧相に相転移することを初めて明らかにしました。本研究結果は、天王星などの氷惑星や太陽系外のスーパーアースの内部構造と水の分布を考えるうえで重要な知見となると期待されます。 論文情報① 論文情報② |
詳細
水素(H)は宇宙で最も豊富に存在する元素です。そのため、宇宙空間において氷や水(H2O)を主成分とする氷惑星は、岩石型惑星やガス惑星とならんで主要な惑星の1つです。私たちが住む岩石型惑星である地球も表層の7割は海に覆われており、水の惑星と呼ばれています。さらに地球の内部には海水の数倍の量の水が貯蔵されていると見積もられています。地球深部のマントルを構成する鉱物が、結晶構造の中に水を取り込むことがあるためです。特に多量の水成分を含む鉱物は含水鉱物と呼ばれており、プレートの沈み込み運動により地球深部に水成分を運びます。しかし、地球より大きな惑星深部の超高圧力環境で、水と共存する鉱物がどのようにふるまうかはよくわかっていません。
図1.(図:超高圧下で出現した新含水相εAlOOHの結晶構造図)
研究グループは、様々な化学組成の含水鉱物を実験試料として用い、大型放射光施設SPring-8 (注1) 設置のマルチアンビル型装置とレーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセルにより、含水鉱物の超高温高圧下でのふるまいを調べました。その結果、地球深部の含水鉱物は周囲の環境に応じてその化学組成を大きく変えることや、水素と酸素とアルミニウムからなる水酸化アルミニウム (AlOOH) は190万気圧で結晶構造が変化(相転移)することがわかりました。水酸化アルミニウムの相転移は第一原理電子状態計算に基づく数値シミュレーションでも検証されました。また、地球マントルの底の約2倍の圧力(270万気圧)・2000度を超えても水酸化アルミニウムは脱水分解することはありませんでした。
本研究結果により、これまで実験的に検証されることのなかった地球マントル圧力を超える超高圧に耐える含水鉱物が存在することが分かりました。地球より大きな惑星の内部はこのような超高圧環境が想定されます。たとえば太陽系の外惑星である天王星、海王星のような氷惑星の内部構造は、氷や水のマントルと岩石質の中心核からなるとするモデルが広く支持されており、含水鉱物の材料となる水と鉱物はいくらでもあります。従来、超高圧下で分解すると考えられてきた含水鉱物は、これらの氷惑星の内部構造モデルにおいて考慮されていませんでした。本研究から分かる通り、含水鉱物が脱水分解する圧力は全くの未知であり、氷惑星の中心核は含水鉱物を多量に含むかもしれません。また、近年の観測技術の発展により次々と報告されている太陽系外惑星のスーパーアースにも、地球と同じく沈み込みによるマントル深部への水の輸送があるかもしれません。
用語解説
1):大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来する。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げたときに発生する、指向性が高く強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジーやバイオテクノロジー、産業利用まで幅広い研究が行われている。
研究サポート
・JSPS科研費 JP19H01994, JP15H05469, JP25220712, JP15H05829, JP16H06285, JP26800274, JP26400516, JP15H05834.
・実験は大型放射光施設SPring8のBL04B1 (課題番号 2010A0082, 2015A0075)とBL10XU (2016A1476, 2017B1110)で行われました。
お問い合わせ先 (SPring-8 / SACLAに関すること) |
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