シンクロトロン技術を使い微小管の構造変化を解明(プレスリリース)
- 公開日
- 2020年03月17日
- BL05XU(施設開発ID)
- BL40XU(高フラックス)
2020年3月17日
中央大学
ALBA(スペイン・バルセロナ)
CSIC(スペイン高等科学研究評議会)
県立広島大学
高輝度光科学研究センター
【本研究成果のポイント】
1.微小管の微細な構造変化を生きた状態で捉えた。
2.副作用が少なく効果の高い抗ガン剤の開発へと道が開けた。
分裂中の細胞が染色体を分けるとき、神経細胞が長い突起を伸ばすときなど、細胞が大きく変形する場面では、細胞の中にある繊維、微小管が大切なサポート構造としてはたらきます。増殖が盛んなガン細胞は、この微小管がうまく構成されないと細胞分裂が進まずに死滅するので、微小管に結合する薬剤は、強力な抗ガン剤の候補にもなります。 今回、私たちは、2つのシンクロトロン施設、スペイン・バルセロナ市にあるALBA※1と兵庫県にある大型放射光施設SPring-8※2(BL05XU、BL40XU)との共同研究を通して、この微小管の構造が繊細な制御を受けて変化する事実を発見しました。研究成果のポイントとなる技術は、日本側の研究グループが開発した数10万本の微小管を一方向へ揃える流動配向技術、シンクロトロンで得られる非常に強度が高く性能の優れたX線を使う繊維回折法という構造解析技術、さらに、微小管を作るタンパク質となるチューブリンを多量に高純度で精製し、その化学反応特性を綿密に解析するスペイン側CSIC(スペイン政府の管轄する科学技術研究機構)の研究室(J.F. Diaz博士, M.A. Oliva博士)の生化学技術です。従来の電子顕微鏡・結晶解析などを使ったものと同等以上の精度で、しかも、真空中ではなく水溶液内の構造変化を刻々と検査できる新手法です。本研究では、繊維構築のエネルギー源となるGTPをチューブリン分子が分解する途中過程をリン酸類似物質で停止させ、その時の構造を詳細に調べることに成功しました。 構造変化がわかると、その構造により適合し結合できる薬剤を探索し、その中から少量で副作用の低い抗ガン剤の種類を選び、投与する組み合わせも工夫できるようになります。最終的には、健常な細胞は傷つけずに、ガン細胞だけを狙い撃ちできる薬剤の新処方を開発する研究へと発展できることを信じています。 本研究成果は、2020年3月10日に国際科学誌eLIFEに掲載されました。 【論文情報】 |
微小管の形成過程とチューブリン分子の構造変化から予測される微小管キャップモデル。
微小管(A/S)に加え、新しく2つの中間状態(微小管E/T)があると考えられる。
【用語説明】
※1 ALBA
スペインのバルセロナ市にある最新のシンクロトロン施設。スペイン政府、および、カタロニア州政府の共同出資によるCELLS(シンクロトロン光科学コンソーシアム)が運営し、2011年から一般利用が開始された。その中のBL11/NCD-SWEET(非結晶試料専用SAXS・WAXS解析ライン)の設備を使い、スペイン側の研究グループが本研究を実施した。ALBAはスペイン語で「夜明け」の意味。
※2 大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来する。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、指向性が高く強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジーやバイオテクノロジー、産業利用まで幅広い研究が行われている。その中のBL05XU・BL40XU(SAXS設備)使い、日本側の研究グループが本研究を実施した。
【お問い合わせ先】 【報道担当】 (SPring-8 / SACLAに関すること) |
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