地球中心核へ運ばれた水の挙動 -中心核の表面のさび-(プレスリリース)
- 公開日
- 2020年10月02日
- BL10XU(高圧構造物性)
2020年10月2日
愛媛大学
高輝度光科学研究センター
【ポイント】
・地球中心核は主に金属鉄を主成分とし、超高温高圧の環境である。
・高温高圧下における水と金属鉄の化学反応を、放射光X線を用いた実験により観察した。
・反応に伴う金属鉄表面の酸化鉄の形成を確認した。
・地球内部の水循環が、地球中心核―マントル境界の酸化鉄の生産を引き起こす可能性がある。
愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター(GRC)の西真之准教授と東京大学の桑山靖弘助教らの研究グループは、超高温高圧下で進行する水と金属鉄の化学反応を詳細に調べ、金属鉄の表面に「さび(酸化鉄)」が生成されることを明らかにしました。湿度の高い環境下では、金属が容易にさびる(酸化する)ことが知られており、これは金属表面の物理的性質を大きく変化させます。本研究では、地球内部の高温高圧下でも水と金属鉄との化学反応に伴う酸化鉄の形成が起こることを確認しました。このことは、地球内部を循環する水が、金属鉄から成る地球中心核(注1)の表面に酸化鉄つくることを示唆します。本研究結果は、地球内部の対流運動や中心核―マントル境界の性質、地震波異常の起源などを知るうえで重要な知見となると期待されます。 【論文情報】 |
【詳細】
液体の水は岩石と比べて軽いため、地球の深くに入り込むことはできませんが、水を結晶構造中に含む鉱物(例えば含水鉱物)であれば地球内部に水を保有することが可能です。プレートの沈み込みに代表されるマントルの対流運動により、鉱物に含まれる水は地球の内部を循環します。しかしながら、超高温高圧環境である中心核付近に到達した水がどのような挙動をとるかはよく分かっておらず、中心核―マントル境界におけるプルームの発生や地震波超低速度層(注2)の起源、また液体金属鉄(中心核の構成物質)への水の溶け込みなど、水が地球深部環境に及ぼす様々な影響が活発に議論されています。
研究グループは、ダイヤモンドアンビルセルを用いた高圧発生技術と、大型放射光施設SPring-8(注3)の高圧構造物性ビームラインBL10XUに設置されたレーザー加熱システムおよび放射光X線を使用し、地球中心核―マントル境界付近に相当する120万気圧において、金属鉄と水の化学反応の様子を観察しました。数秒間隔で得られたX線回折パターンの時間変化や、電子顕微鏡による回収試料の組織観察から、高圧下における金属鉄と水の反応は水素化鉄および酸化鉄の生成を引き起こすことが分かりました。本研究結果は、地球深部の水循環により、中心核―マントル境界に酸化鉄に富む層が形成されることを示唆します。このような酸化鉄に富む層内では地震波の伝播速度が極めて遅いため、地震学的観測で広く認識されているこの領域の超低速度層の成因を上手く説明することも可能です。
図:地球深部の水循環および水―中心核間の化学反応の模式図
【研究サポート】
本研究は、以下のサポートを受けて行われました。
・日本学術振興会 科学研究費助成事業 科学研究費 基盤研究(B)JP19H01994
・日本学術振興会 科学研究費助成事業 科学研究費 新学術領域研究(研究領域提案型)JP15H05829
・SPring-8課題番号2019B1253
【用語解説】
1)地球中心核
地球の中心から半径3500 kmの領域で、固体鉄からなる内核と液体鉄からなる外核で構成されている。その周囲は岩石から成るマントルで構成されている。
2)地震波超低速度層
マントル最下部と中心核との境界付近に見られる、地震波の伝わる速さが非常に遅い領域。鉄に富む鉱物やマントルの部分的溶融物質などが存在すると考えられている。
3)大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来する。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げたときに発生する、指向性が高く強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジーやバイオテクノロジー、産業利用まで幅広い研究が行われている。
【本件に関する問い合わせ先】 (SPring-8 / SACLAに関すること) |
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