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プラスチック表面への多孔質材料コーティングに成功 交互に浸すだけの簡便な方法で金属有機構造体薄膜を作製(プレスリリース)

公開日
2020年11月04日
  • BL46XU(産業利用III)

2020年11月4日
東北大学 大学院工学研究科
東北大学 多元物質科学研究所

【発表のポイント】
● アクリル樹脂など汎用高分子材料の表面に金属有機構造体(MOF)の薄膜を成長させることに成功
● 室温・大気下で二種類の溶液に交互に基板を浸す、極めて簡易な方法でMOF薄膜が作製可能
● MOFを薄膜として得たことによって電子素子への応用展開が可能になる
● 多孔性を活かした機能材料開発への波及効果が期待される

 規則正しいナノサイズの空孔を持つ材料である金属有機構造体(注1)(以下、MOF)は、空孔への物質の吸脱着など、その「多孔性」に特徴があります。しかし、MOFの一般的な作製手法によって粉末試料を得ることはできますが、これを薄い膜として作製することは困難でした。今回、東北大学の大原浩明氏(研究当時:博士課程後期学生)、山本俊介助教、三ツ石方也教授らの研究グループは、岩手大学、(公財)高輝度光科学研究センターと共同で、アクリル樹脂などの高分子材料の表面にMOFの薄膜を簡便に作製する手法の開発に成功しました。この手法は大がかりな製造装置が不要で、基材となる高分子の板を二種類のMOF原料溶液に交互に浸すだけという、極めてシンプルなものです。本研究の成果は、多孔性を活かした機能材料開発の応用研究につながることが期待されます。

 本成果は2020年11月2日(米国時間)に米国化学会発行の科学誌「ACS Applied Materials & Interfaces」でオンライン公開されました。

【論文情報】
タイトル: Layer-by-Layer Growth Control of Metal–Organic Framework Thin Films Assembled on Polymer Films
雑 誌 名: ACS Applied Materials & Interfaces
著 者: Hiroaki Ohara, Shunsuke Yamamoto, Daiki Kuzuhara, Tomoyuki Koganezawa, Hidetoshi Oikawa and Masaya Mitsuishi
DOI: 10.1021/acsami.0c13016
URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsami.0c13016

【詳細な説明】
 活性炭や珪藻土、シリカゲルなどに代表される「多孔質材料」は、微細な大きさの空孔を持つ材料で、様々な物質を吸着しやすい性質を持ちます。これを活かして、家庭では脱臭剤や乾燥剤、また工業的には物質の分離など幅広い応用が行われています。多孔質材料の多くは無機物ですが、最近では、無機物と有機物を組み合わせた、「有機―無機ハイブリッド材料(注2)からなる多孔質材料も開発されています。その代表例に「金属有機構造体(MOF)」が挙げられます。MOFは金属イオンと有機分子がジャングルジムのように規則的に結合した物質で、内部に規則的なナノメートルサイズの空孔を持っています。また、数多くの金属と有機分子の組み合わせでMOFを組み上げることができ、自在な構造を設計・合成できる点も特徴です。

 これまでMOFの多くは粉末として得られてきました。これはMOFを合成する際に、原料となる金属イオンと有機分子を含む二種類の溶液を直接混合していたためです。この手法は簡便かつ大量のMOF粉末を合成するのに適した方法であり、この手法を使ってMOFの研究は飛躍的に進んできました。しかし、例えば「プラスチックの表面をMOFの薄い膜でコーティングしたい」など、「MOFを粉ではなく膜として作りたい」場面では利用しにくい手法でした。

 そこで本研究グループは、高分子の薄膜を得るのに使われる交互吸着法(注3)に注目し、この手法がMOF薄膜の作製に適用できないか検討しました。交互吸着法は基板を別々の二種類の溶液に交互に浸漬することで、基板表面に分子レベルの極めて薄い膜を連続的に作製できる手法です。本研究では、金属イオンの溶液と有機分子の溶液の二種類の溶液をそれぞれ用意し、これらに基板を交互に浸漬してMOF薄膜の作製を試みました。基板の材料としては、家庭でも用いられる一般的な高分子材料を四種類選びました。得られたMOF薄膜の構造を大放射光施設SPring-8(注4)を利用して分析した結果、高分子材料の極性(注5)に応じて異なる構造のMOF薄膜が得られることが分かりました。具体的には極性の低いポリスチレン(注6)の表面にはMOF膜はあまり成長しませんでしたが、極性の高いアクリル樹脂(注7)や、ポリビニルアルコール(注8)ナイロン(注9)の表面にはMOF膜を規則的に成長させることができました。さらに、MOFが薄膜として得られたことで電子機能素子への利用の道が拓けました。例として、本研究では活性層としてMOF薄膜を組み込んだ抵抗変化スイッチ(注10)を動作させることに成功しました。今後はMOF膜の成長原理のさらなる解明に向けた基礎研究と、電子素子への展開に向けた応用研究の両面から研究展開が期待されます。

図1 今回の研究で提案したMOF薄膜作製法を示すイメージ図。

図1 今回の研究で提案したMOF薄膜作製法を示すイメージ図。


図2 (a)今回提案する作製手法の概略図。

図2 (a)今回提案する作製手法の概略図。高分子基板を金属イオン(酢酸銅)溶液と有機分子(BTC)溶液に交互に浸漬する。
(b)得られたMOF薄膜をコーティングした基板。均一な膜厚を有しているため、光の干渉による均一な構造色が見られる。
(c)MOF薄膜の堆積量と浸漬関数の関係。極性の大きなポリビニルアルコール(PVA)表面ではMOF薄膜が多く堆積される。
(d) MOF薄膜の堆積量と高分子表面の極性の関係。


【用語解説】

注1) 金属有機構造体(MOF)
多孔性配位高分子(PCP)とも呼ばれる、金属イオンと有機分子が規則的に結合し、組みあがった物質。内部に細孔を持っており、①細孔が非常に高い規則性を持つ点と②細孔構造を自在に設計できる点が特徴。わずか1グラムのMOFの中にサッカーのコート1面分に匹敵する大きな表面積(6000 m2)を有するものもある。

注2) 有機―無機ハイブリッド材料
有機物と無機物をナノメートルレベルで複合化した材料。両者の特長を兼ね備え、有機物の持つ柔軟性、広い設計自由度と、無機物のもつ耐久性を同時に実現することができる。

注3) 交互吸着法
基板を二種類の溶液に今後に浸漬することで超薄膜を得る手法。元々は正と負の電荷をもつ二種類の高分子間に働く静電引力を使った手法であったが、その後様々な分子間に働く相互作用を使った手法に展開された。この研究は、金属イオンと有機分子の間に働く相互作用をうまく用いた方法と言える。

注4) SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市(佐用町、上郡町、たつの市)に所在する理化学研究所の大型放射光施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。極めて明るく、平行なX線が得られるため、物質の精密な構造解析に用いられる。

注5) 極性
分子での電荷の偏りのこと。水への溶けやすさと関係があり、極性の高いものは水に溶けやすい。

注6) ポリスチレン(PS)
スチロール樹脂とも呼ばれる汎用高分子で食品容器などに用いられている。発泡ポリスチレン(発泡スチロール)としても身近。

注7) アクリル樹脂
ポリメタクリル酸メチル(PMMA)。汎用高分子でアクリル板や水槽、メガネのレンズなどに利用されている。

注8) ポリビニルアルコール(PVA)
洗濯のりや文具として液状のりなどに利用される。演示実験として「スライム」を作るのにも使われている。

注9) ナイロン
汎用高分子。Nylon 6やNylon66などがあげられる。衣類やギターの弦、釣り糸などに利用されている。

注10) 抵抗変化スイッチ
端子間に加える電圧履歴に応じて抵抗値が変化する素子。神経の動きを模倣する神経模倣素子への応用が行われている。

【付記】 本研究は、科研費若手研究B (26810111)、科研費基盤研究B (16H04197)、東北大学多元物質科学研究所プロジェクト、村田学術振興財団、物質・デバイス領域共同研究拠点の支援を受けました。



【問い合わせ先】
(研究に関すること)
東北大学大学院工学研究科 バイオ工学専攻 機能高分子化学分野
担当:山本 俊介 助教
 TEL:022-795-7229 
 E-mail:syamaattohoku.ac.jp

(報道に関すること)
東北大学大学院工学研究科 情報広報室
担当:沼澤 みどり
 TEL:022-795-5898 
 E-mail:eng-pratgrp.tohoku.ac.jp

(SPring-8 / SACLAに関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課 
 TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
 E-mail:kouhou@spring8.or.jp

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