ハードディスク用書き込みヘッドの新たな解析技術を開発(プレスリリース)
- 公開日
- 2020年11月26日
- BL25SU(軟X線固体分光)
2020年11月26日
株式会社 東芝
公益財団法人 高輝度光科学研究センター
国立大学法人 東北大学
株式会社 東芝、公益財団法人 高輝度光科学研究センター(JASRI)、国立大学法人 東北大学は共同で、大型放射光施設SPring-8(*1)の放射光(*2)を用い、ハードディスクドライブ(HDD)用書き込みヘッド(*3)の磁化の挙動を100億分の1秒の精度で画像化することに世界で初めて成功しました。今回開発された手法により、書き込みヘッドの動作解析が高精度にできるようになることで、次世代書き込みヘッドの開発が加速し、HDDのさらなる大容量化が期待できます。今回の研究成果(*4)はJournal of Applied Physics で10月6日に発表され、12月14日より開催される第44回日本磁気学会学術講演会でも発表される予定です。 IDC(International Data Corporation)によると、2018年から2025年のわずか7年間で世の中のデータ量が5倍以上になると予測され、世界は「データ爆発の時代」を迎えています。主要なストレージデバイスであるHDDの2020年の年間総出荷容量は1ゼタ(1021)バイトに達し、売上は200億米ドルにのぼると見込まれています(*5)。今後、HDDのさらなる容量の増加と、データ転送速度の向上を実現するためには、書き込みヘッドの動作を正確に把握して合理的な設計にする必要があります。しかし、書き込みヘッドは100ナノ(*6)メートル以下の微細な構造をもち、1ナノ秒以内で高速な磁化反転が行われるため、実際にその動作を観察することはこれまで困難でした。動作の把握は、磁化挙動シミュレーションによる解析や、磁気記録媒体に書き込みを行った際の特性を用いた間接的な解析によって推測する手段しかなく、ヘッドの動作を正確に把握できる新しい手法の開発が望まれていました。 そこで、東芝、JASRI、東北大学は共同で、大型放射光施設SPring-8のビームラインBL25SUに設置された走査型X線磁気円二色性顕微鏡(*7)装置を用いたHDD書き込みヘッドの新規解析技術を開発しました。本技術では、SPring-8の蓄積リングから周期的に生成されるX線パルスに同期させて、その10分の1の周期で書き込みヘッドの磁化を反転させるタイミング制御を行い、時間分解測定を実現しました。これにより、集光したX線を書き込みヘッドの記録媒体対向面上で走査し、磁気円二色性を利用することで磁化の時間変化の画像化に成功しました。時間分解能、空間分解能はそれぞれ50ピコ秒(*8)、100ナノメートル(*9)を達成し、書き込みヘッドの微細な構造、高速な動作の解析を可能にしました。今後、X線の集光に用いる素子の改良などを重ねることで、さらに高い分解能を達成するポテンシャルがあります。 論文情報 |
図1:SPring-8の外観の写真(国立研究開発法人 理化学研究所 提供)
図2:今回開発した解析技術の概略
図3:書き込みヘッドの磁化変化の様子
東芝は次世代のHDD技術であるエネルギーアシスト磁気記録の開発を行っており、今回開発された解析手法、ならびに本手法により得られた書き込みヘッドの動作に関する知見を、エネルギーアシスト磁気記録向け書き込みヘッドの開発に応用することを目指します。
【用語解説】
*1. 大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある、世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設。その利用支援等は高輝度光科学研究センターが行っています。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来しています。SPring-8では、放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われています。
*2. 放射光
電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波。放射光には次のような特徴があります。“極めて明るい”、“細く絞られ広がりにくい”、“X線から赤外線までの広い波長領域を含む”、“偏光している”そして“短いパルス光の繰り返しである”。
*3. 書き込みヘッド
HDDでは、書き込みヘッドを用いて局所的な磁場(書き込み磁場)を発生し、磁気記録媒体にデジタル記録を行います。HDDの記録密度、記録スピードは、書き込み磁場の分布、書き込みヘッドの動作スピードによって決まります。
*4. 今回の研究成果
米国物理学協会の学術雑誌「Journal of Applied Physics」オンライン版に10月6日付で掲載されました。
doi.org/10.1063/5.0022571
*5. 出展:日本HDD協会2020年1月セミナーレポート
*6. ナノ:10億分の1
*7. 走査型軟X線磁気円二色性顕微鏡X線磁気円二色性とは、磁性体の円偏光X線の吸収係数が左・右円偏光で異なる現象です。走査型軟X線磁気円二色性顕微鏡では、集光された軟X線を用い、照射位置を二次元的に走査して左・右円偏光による吸収の差を測定することにより、非常に高感度かつナノスケールでの磁化情報を調べることが可能です。本装置は文部科学省の元素戦略プロジェクト(研究拠点形成型)<磁性材料研究拠点>で開発されました。
*8. 50ピコ秒の時間分解能
200億分の1秒の時間変化を捉えられることを示します。
*9. 100ナノメートルの空間分解能
100ナノメートル間隔の点をそれぞれ異なる点として認識できることを示します。
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