酵素の機能改変で自然界にないイソプレノイドを合成 - 新規バイオポリマー合成酵素の開発に期待 -(プレスリリース)
- 公開日
- 2022年03月03日
- BL26B2(理研 構造ゲノムII)
- BL32XU(理研 ターゲットタンパク)
2022年3月3日
東北大学大学院工学研究科
金沢大学
理化学研究所
住友ゴム工業株式会社
【発表のポイント】
•高分子の合成に重要なイソプレノイド重合酵素の結晶構造と重合反応の制御機構を解明
•重合酵素の機能改変により、自然界にはない重合度14のポリイソプレノイドの合成に成功
•本成果をもとに、新規バイオポリマー合成酵素のデザインが可能となる
イソプレノイドと総称される天然化合物は、生体防御に関わる低分子化合物から分子量100万以上の天然ゴムに至るまで、全て炭素数5の基本構造を有する化合物が重合することで生合成されます。しかし、それらを合成する酵素がどのように重合度を制御しているかはほとんど未解明でした。この度、東北大学大学院工学研究科(高橋征司准教授ら)、金沢大学理工研究域(山下哲准教授ら)、理化学研究所放射光科学研究センター(竹下浩平研究員、山本雅貴GDら)、住友ゴム工業株式会社による共同研究グループは、トマトの生体防御物質前駆体であるネリル二リン酸(重合度2)を合成する重合酵素(NDPS1)の結晶構造を決定し、それをもとに重合反応の制御機構を解明しました。また、酵素の構造を改変し、より長鎖(重合度14)の自然界には存在しないイソプレノイドを合成することにも成功しました。今回の成果は、新規バイオポリマー合成への発展が期待できます。 【論文情報】 |
図1 NDPS1の結晶構造
【詳細な説明】
イソプレノイドは、炭素数5の化合物(イソペンテニル二リン酸、IPP)、およびその重合体から生合成される天然有機化合物の総称であり、自然界には5万種以上のイソプレノイドが存在しています。植物が作るイソプレノイドの中には、産業的に重要な化合物が多く含まれます。例えば、天然ゴムは重合度が15,000以上にもおよぶポリマーであり、タイヤをはじめとするゴム工業製品に不可欠です。また、重合度の低い(2〜3)化合物は、それを作る植物にとっては草食動物や微生物に対する防御物質となるため、農業生産において重要である一方、我々ヒトはそれらをビタミン類や、抗がん剤、抗マラリア剤などの医薬品、エッセンシャルオイルなどとして活用しています。イソプレノイドの生合成の中でとりわけ重要なのはIPPの重合反応ですが、重合度は酵素(プレニルトランスフェラーゼ)によって厳密に制御されています。酵素機能を利用したカーボンニュートラルなモノづくりを推進するうえで、産業的に有用なイソプレノイドを合成する重合酵素の機能解明と応用は極めて重要ですが、その反応制御機構については未解明な点が多く残されていました。
これまでに、東北大学、埼玉大学、住友ゴム工業株式会社の共同研究グループは天然ゴム合成酵素を同定し、世界で初めて試験管内での天然ゴム合成に成功しています。実は、重合度15,000以上にもおよぶ天然ゴムの合成酵素と、重合度2のイソプレノイドであるネリル二リン酸(NPP)の合成酵素は同じグループに属する酵素であり、アミノ酸配列も似ています。しかし、そのような大きな重合度の違いがどのアミノ酸で決定されているかは未解明でした。また、IPPの重合反応では開始基質が必要となりますが、どのような開始基質を受け入れるかも、各重合酵素間で異なっています。この開始基質特異性を決定づけるアミノ酸についても、全くの未解明でした。
今回、東北大学、金沢大学、理化学研究所、住友ゴム工業株式会社の共同研究グループは、トマト由来のNPP合成酵素(NDPS1)の結晶構造の決定に初めて成功し(図1)、それをもとに、重合度制御と開始基質認識に関わるアミノ酸の特定にも成功しました。それらのアミノ酸を別のアミノ酸に置き換えた変異型NDPS1は、本来受け入れない開始基質を利用可能となり、また、重合度14までのポリイソプレノイドを合成することが可能となりました。この酵素反応生成物は自然界からは見出されていない新規の構造のポリイソプレノイドです(図1)。さらに、今回作製したNDPS1の変異酵素は、野生型酵素よりも活性が100倍近く上昇しました(図3)。
本研究によって解明された基質認識と重合度制御の原理をもとに、天然ゴム合成酵素の機能改変を行うことで、自然界には存在しない構造のバイオポリマーの酵素合成が可能となります。この様な機能デザインされた酵素が導入された植物を作り出し、大気中のCO2を産業的に有用な有機化合物に転換するシステムを構築することは、カーボンニュートラル社会の実現に大きく貢献します。
図2 各酵素による重合反応
図3 NDPS1変異体の構造モデルと特性の比較
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