世界最強のポータブル磁場発生機を完成、 77テスラで量子ビーム実験に成功(プレスリリース)
- 公開日
- 2022年04月18日
- SACLA
2022年4月18日
国立大学法人 電気通信大学
国立研究開発法人 理化学研究所
公益財団法人 高輝度光科学研究センター
【ポイント】
*世界最強ポータブルパルス強磁場発生装置を完成
*77テスラで物質の結晶構造変化観測に成功
電気通信大学大学院情報理工学研究科の池田暁彦助教は、東京大学物性研究所松田康弘教授らと共同で、ポータブル超強磁場発生機PINK-01[1]を完成させました。PINK-01は可搬型であるため、量子ビーム施設での実験に利用できます。池田暁彦助教らはPINK-01をX線自由電子レーザー施設SACLA[2]に持ちこみ、理化学研究所放射光科学研究センターの久保田雄也基礎科学特別研究員ら、高輝度光科学研究センターの犬伏雄一主幹研究員らと共同で、世界最高超強磁場77テスラ[3]中で物質の結晶構造変化のミクロ観察に成功しました。今後、さまざまな物質における、結晶状態への磁場効果の解明が進むと期待されます。 (論文情報) |
【背景】
非常に強い磁場中では、物質の新規な電子・磁気・結晶状態が生まれると考えられており、世界的に研究が盛んに行われています。従来、100テスラ級の非常に強い磁場を発生するためには大型の施設が必要であり、世界の限られた施設でしか利用することができませんでした。先進的量子ビームを利用すれば、超強磁場中での物質のミクロな電子・磁気・結晶状態観測をすることが可能です。しかし、これらの施設も同様に大型であり、また、強磁場施設と併設されていないために、超強磁場中でのミクロ観察は従来困難でした。
【手法】
今回、池田助教を中心とする研究グループでは、小型パルス超強磁場発生装置PINK-01を完成しました。PINK-01は全体重量として1トンを下回るため、ポータビリティを備えつつ、100テスラに迫る77テスラ超強磁場を発生することができます。これは従来のポータブル磁場発生装置の最高磁場である40テスラを大きく上回る磁場値であり、PINK-01は現状で世界最強のポータブル磁場発生装置です。PINK-01では従来の一巻きコイル法装置に比べて、コンデンサエネルギーを100分の1程度に縮小し、一巻きコイルの直径を10分の1程度に縮小することで、ポータビリティを実現しています。
【成果】
池田助教らはPINK-01をX線自由電子レーザー施設SACLAに搬入し、理化学研究所放射光科学研究センターの久保田基礎科学特別研究員ら、高輝度光科学研究センターの犬伏主幹研究員らと協力することで、X線レーザービームを利用したX線実験を行いました(図1)。この実験で77テスラ超強磁場を発生した瞬間の物質のX線回折実験に成功しました(図2)。実際に磁場がかかる前とかかっている最中で、大きく結晶状態が変化していることを見いだしました。これにより世界に先駆けて、77テスラ超強磁場での物質の結晶構造変化をミクロ観察することに成功しました(図3)。100テスラ級の超強磁場は持続時間100万分の1秒程度であり、その短い時間内でデータを取得する必要があります。SACLAのX線レーザーは、それよりもずっと短い100兆分の1秒でX線回折実験ができるという特徴があり、今回の実験はPINK-01とSACLAを組み合わせることによって、初めて可能となりました。
【今後の期待】
PINK-01の成果により100テスラに迫る超強磁場を持ち運ぶことが可能になりました。また、今回の実験で、物質科学の基本手法であるX線回折実験が超強磁場条件下で可能であることが示されました。これまでに、100テスラで磁場による結晶状態変化が予想されている物質は多くあります。今後、これらが一気に解明されると期待されます。
また、PINK-01を利用することで、X線にとどまらず、これまで不可能であったテラヘルツやパルスレーザーなどのシングルショットプローブと超強磁場を組み合わせる研究を推進することができると期待されます。このため、今後、超強磁場の物質科学に研究手段が増大することが期待されます。これにより日本を中心として強磁場における物質科学が大きく進展すると考えられます。
図1 PINK-01と量子ビームを利用した本実験の模式図
図2 PINK-01の磁場波形
図3 PINK-01をSACLAに持ち込んで行った、超強磁場中X線レーザービーム実験
(外部資金情報)
東電記念財団研究助成(基礎研究)18-001
文部科学省卓越研究員事業 JPMXS0320210021
科研費挑戦的開拓20K20521
【用語説明】
[1]PINK-01:
Portable INtense Kyokugenjibaの略。01は1号機を意味する。
[2]SACLA:
理化学研究所と高輝度光科学研究センターが共同で建設した日本で初めてのXFEL施設。2011年3月に完成し、SPring-8 Angstrom Compact free electron LAserの頭文字を取ってSACLAと命名された。2011年6月に最初のX線レーザーを発振、2012年3月から共用運転が開始され、利用実験が始まっている。大きさが諸外国の同様の施設と比べて数分の1とコンパクトであるにもかかわらず、1オングストローム(100億分の1メートル)以下という世界最短波長のレーザー生成能力を持つ。
[3]テスラ:
1テスラは地磁気の約2万倍の強さの磁場強度である。
【連絡先】 |
- 現在の記事
- 世界最強のポータブル磁場発生機を完成、 77テスラで量子ビーム実験に成功(プレスリリース)