高エネルギー密度とコバルトフリー構成を両立する実用的ニッケル系電池材料の開発 構造欠陥の制御により高性能電極材料開発を実現(プレスリリース)
- 公開日
- 2024年02月08日
- BL19B2(X線回折・散乱 II)
2024年2月8日
横浜国立大学
本研究のポイント
・高エネルギー密度で長寿命・実用的なコバルトフリーの電池材料の発見
・簡便な合成法を利用して構造欠陥の制御に世界で初めて成功
・構造欠陥を利用することでコバルトフリーでありながら劣化を抑制
横浜国立大学 藪内直明教授、総合科学研究機構 石垣徹主任研究員、物質・材料研究機構(NIMS)、住友金属鉱山株式会社らの研究グループは、新しいニッケル系層状材料 (Li0.975Ni1.025O2) を開発し、本材料がコバルトフリー構成でありながら、高エネルギー密度・長寿命の電池正極材料となることを発見しました。また、高性能化は材料の欠陥構造の制御により実現しており、材料の合成方法も従来手法を利用できるため、当該材料は実用的な電池材料としての利用が期待できます。 論文情報 |
【研究成果と社会的な背景】
世界的に脱炭素社会実現への動きが加速しており、電気自動車などに用いられているリチウムイオン蓄電池の市場が急拡大している。同電池のさらなる高エネルギー密度化と低コスト化を目指して、世界中で活発な研究開発競争が行われている。近年、電気自動車の販売台数が世界中で増えているが、電気自動車用途にはコバルトを含むニッケル系層状酸化物が正極材料として広く用いられている。コバルトは資源が偏在しており、主に政情不安定な国で産出されるためその削減が急務であり、世界中で活発な材料開発競争が行われていた。電気自動車のさらなる普及において、コバルトフリー構成の正極材料開発は急務であり、コバルトフリーと高性能を両立する材料の開発が求められていた。
本研究成果は従来のニッケル系層状材料で10–20%程度含まれているコバルトの役割について詳細に検討し、コバルト非含有材料では充電状態にニッケルイオンが移動することが劣化の要因であることを明らかにしている。さらに、構造欠陥 (層状材料においてイオンが入れ替わったアンチサイト欠陥) を含有するモデル材料を合成し、構造欠陥を有する材料では充電状態におけるニッケルイオンの移動を抑制可能であることを明らかにした。これらの知見に基づき、実用的な合成法を用い構造欠陥を意図的に導入することを目的として、2–3%の極少量のニッケルイオンを過剰な組成とした材料 (Li0.975Ni1.025O2) を合成した。この材料について詳細に結晶構造を解析した結果、実際に構造欠陥を有しており、さらに、充電中のニッケルイオンの移動を抑制できることを明らかにしている。また、コバルト含有試料以上の高いエネルギー密度とサイクル特性を実現しているだけでなく、優れた急速充電特性と出力特性も有している。本研究成果は次世代の電気自動車用の電池材料としての応用が期待できるものである。これらの成果は、横浜国立大学 理工学府博士課程後期3年生 小沼樹氏、理工学部4年生 藤村陽大氏によって見出されたものであり、大型放射光施設SPring-8※1 (BL19B2)、フォトンファクトリー、大強度陽子加速器施設 J-PARC※2 MLF (BL20, iMATERIA)における実験によって明らかにしている。
【今後の展開】
今回発見された材料はコバルトフリー材料として高性能な電気自動車用の材料として実用的に利用可能な性能を有することを明らかにしている。今後、実際に高性能な電気自動車用電池材料としての利用が進むことが期待される。しかし、ニッケルは比較的高価な元素であり、低価格な電気自動車用用途には適していない。今後、コバルトだけではなく、ニッケルフリー構成を実現する電池材料も必要であり、また、そのような材料は今回発見された材料と同様に実用的な合成法で大量生産可能であることが求められる。現在、今回の知見をもとにコバルト・ニッケルフリー構成を実現する実用的な材料開発も進めており、次世代の低価格と高性能を両立するリチウムイオン電池の実現に繋がることが期待できる。
本研究は横浜国立大学、総合科学研究機構、NIMS、住友金属鉱山株式会社の産学連携共同研究成果であり、科研費新学術領域「蓄電固体界面科学」および再生可能エネルギー最大導入に向けた電気化学材料研究拠点 (DX-GEM) による助成を受けて実施したものである。
横浜国立大学、総合科学研究機構、NIMS、住友金属鉱山株式会社の研究グループにおけるコバルトフリーニッケル系層状材料に関する研究成果の概要図
【用語解説】
※1. 大型放射光施設(SPring-8)
SPring-8は、兵庫県の播磨科学公園都市にある理化学研究所が所有する世界最高クラスの放射光を生み出す大型放射光施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)の略。放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。
※2. 大強度陽子加速器施設(J-PARC)
J-PARCは、日本原子力研究開発機構(JAEA)と高エネルギー加速器研究機構(KEK)が茨城県東海村で共同運営している大型研究施設で、素粒子物理学、原子核物理学、物性物理学、化学、材料科学、生物学などの学術的な研究から産業分野への応用研究まで、広範囲の分野での世界最先端の研究が行われている。J-PARCの物質・生命科学実験施設(MLF)では、大強度の陽子ビームを用いて発生した世界最高強度のパルス中性子ビームおよびミュオンビームを利用した物質科学、生命科学などの学術的な研究ならびに産業分野への応用研究が進められている。
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