アミノエチルチオコハク酸ジアンモニウム のうねりの改善メカニズムを解明 ―毛髪内部のIntermediate Filament(IF)に変化が起きることを発見―(プレスリリース)
- 公開日
- 2024年06月28日
- BL40XU(高フラックス)
掲載元:2024年6月12日 ロート製薬株式会社 研究開発リリース
ロート製薬株式会社(本社:大阪市、社長:杉本雅史)は、ロートグループ総合経営ビジョン2030である「Connect for Well-being」の実現に向け、うねり・白髪・ぱさつきなど毛髪の加齢による不可逆な悩みを解決すべくヘアケア領域の研究をすすめています。今回、国立大学法人 神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科 辻野 義雄特命教授 ・ 神戸大学大学院 海事科学研究科 堀田研究室との共同研究にて毛髪のうねりに関する研究を進めた結果、アミノエチルチオコハク酸ジアンモニウム※1が毛髪のコルテックス細胞を形成する「Intermediate Filament※2」(以下、IF)というケラチン線維のねじれをほどき毛髪のうねりを改善するというメカニズムを解明しました。
1. 研究成果のポイント
◆ アミノエチルチオコハク酸ジアンモニウムの毛髪うねり改善メカニズムの一つを解明した
◆ 大型放射光施設SPring-8にて解析を行い毛髪内部IF構造の変化をミクロレベルで分析したことにより、うねり改善のメカニズムを解明することができた
◆ 加齢による毛髪のうねりに悩む女性に向けた製品へ応用していく
これまでの調査*で、くせ毛に悩む女性の多くが年齢を重ねるにつれて髪質の変化やうねりを感じていることがわかりました。毛髪は多数の組織で成り立っていることが知られており、うねりは組織のゆがみで生じることが知られています。
一方で毛髪組織の詳細な内部構造の解析や毛髪に作用する成分の作用メカニズムについての知見は少なく、うねり改善効果があると知られている成分であるアミノエチルチオコハク酸ジアンモニウムについても効果を裏付ける作用メカニズムや浸透の状態は明らかにされていませんでした。
今回の研究では、アミノエチルチオコハク酸ジアンモニウムが毛髪内部に及ぼす影響をミクロレベルで解明するために、物質の原子・分子レベルの形や機能を調べる事ができるSPring-8にて毛髪の解析を行い、アミノエチルチオコハク酸ジアンモニウム塗布前後の毛髪内構造変化を評価しました。
さらに、アミノエチルチオコハク酸ジアンモニウムの毛髪内部浸透状態の確認と、形状観察を行いました。
図1 毛髪内部構造のイメージ図
3. 結果
1)SPring-8における解析により、アミノエチルチオコハク酸ジアンモニウムの毛髪うねり改善メカニズムの一つを解明
くせ毛の評価として、カールの強い縮れ毛を用いて毛髪のうねり改善評価を行いました。
縮れ毛にアミノエチルチオコハク酸ジアンモニウムで処理したものをSPring-8にてX線構造解析を行い、内部構造の乱れを表した可視化画像よりIFの乱れ幅を計測しました。未処理毛ではIFの乱れ幅が大きく(図1-1)、処理毛では小さく出ていました(図1-2)。乱れ幅がねじれの程度を反映しているため、未処理ではIFのねじれが強く、処理したものについてはIFのねじれが小さくなっていることがわかりました。
図1-1 未処理毛の構造解析結果
図1-2 アミノエチルチオコハク酸ジアンモニウム処理毛の構造解析結果
縮れ毛を精製水で処理した未処理毛とアミノエチルチオコハク酸ジアンモニウムで処理した処理毛を用意した。これらの毛髪についてSPring-8のBL40XUにてX線照射を行い、IFの乱れに対する解析を行った。(SPring-8で実施)
2)イメージングマスで毛髪内部へのアミノエチルチオコハク酸ジアンモニウムの浸透を確認
SPring-8で得られた結果より、アミノエチルチオコハク酸ジアンモニウムが毛髪内のIFに作用していることがわかりました。そこで、アミノエチルチオコハク酸ジアンモニウムが毛髪内部のどこまで作用しているかを確認するため、当社にて浸透試験を行いました。ブリーチ毛にアミノエチルチオコハク酸ジアンモニウムを浸漬させ、イメージングマスで計測しました。その結果、浸漬させたものは毛髪内部までアミノエチルチオコハク酸ジアンモニウムが浸透していることがわかりました(図2)
図2 イメージングマスの計測結果
ブリーチ毛にアミノエチルチオコハク酸ジアンモニウムを浸漬させ、その後流水でしっかりすすぎ、イメージングマスで解析した。アミノエチルチオコハク酸ジアンモニウムが浸透するほど赤色で示される(m/z アミノエチルチオコハク酸ジアンモニウム)。(ロート製薬研究所実施)
3)アミノエチルチオコハク酸ジアンモニウムを含むヘアケア製剤においてうねり改善を確認
アミノエチルチオコハク酸ジアンモニウムを配合したヘアケア製剤を作製し、縮れ毛へ塗布、ドライヤーブローを行ったところ、同箇所のうねり改善が見られました(図3)。
図3 縮れ毛の顕微鏡観察結果
縮れ毛のうねっている箇所の前後に目印をつけ、対象箇所を顕微鏡にて撮影した。その後アミノエチルチオコハク酸ジアンモニウムを配合したヘアケア製剤を塗布、お湯で洗い流した後ドライヤーブローで同箇所を観察した。 (ロート製薬研究所で実施)
4.今後の展望
本研究成果により、アミノエチルチオコハク酸ジアンモニウムが毛髪内部のIntermediate Filament (IF)のねじれを整えることにより、毛髪のうねりを改善するということを解明しました。この発見は、当社が毛髪の加齢による不可逆な変化を解決するための第一歩となり、今後のヘアケア商品の開発へつながることが期待されます。今後も毛髪構造を理解し、悩みの原因を探り、最適なアプローチ方法を探求していくことで、ヘアケア領域における新しい試みに挑戦してまいります。
【用語解説】
※1. アミノエチルチオコハク酸ジアンモニウム
毛髪のねじれ・うねりの補正効果が期待されている、近年開発された新たなヘアコンディショニング剤。
※2. Intermediate Filament (IF)
コルテックス細胞を形成するケラチン繊維のこと。髪の弾力や形状に関与すると知られている重要な部分。
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