SPring-8の放射光発生施設
SPring-8の放射光発生施設を“電子の加速と蓄積”、“放射光発生”と“放射光の加工”の3段階に区分して、眺めてみましょう。
(a)電子の加速と蓄積
はじめに電子銃で、高真空中に打ち出された電子は、つづくマイクロ波空洞内で波長の谷間に約1000億個づつ集まった電子の固まりとなり、(1) 線型加速器(140m)を通る間に10億電子ボルト(光速の99.99999%)まで加速されます。
次いで楕円軌道の (2) シンクロトロン(一周396m)に入り何度も廻りながら、世界の放射光施設の中で最も高いエネルギーである80億電子ボルト(光速の99.9999998%)まで加速されます。こうして目的のエネルギーを与えられた電子は、いよいよ一周1,436mの (3) 蓄積リングに入射されます。
蓄積リングは、入射された約1000億個の“電子の固まり”を、個々の電子が“固まり”全体のエネルギーから速くなりすぎたり遅くなったりしてバラバラにならないよう、全体を80億電子ボルトに質よく保ちながらリング中に蓄え、周回させます。
蓄積リング(合流点)
“電子の固まり”はリング中を1秒間に20万回周回し、放射光を発生するごとにエネルギーを徐々に失います。蓄積リングは、4ヵ所のマイクロ波空洞により、電子が失ったエネルギーを補うようになっており、一度入射されると電子ビームは、約70時間廻り続ける性能を有しています。
(b)放射光の発生(特徴ある挿入光源類)
蓄積リング一周に電子を円軌道に曲げる偏向電磁石が88基あり、各偏向電磁石のところで電子は角度約4度ずつ曲げられ、広い波長域の放射光(白色光)を発生します。
偏向電磁石部と次の偏向電磁石部の間は、電子ビームは直進します。この直進部に非常に強力な永久磁石を組み合わせた装置“挿入光源”が設置されます。
挿入光源は、電子を大きく波打たせ、偏向部からの光よりエネルギーが高い白色光を発するウィグラーと、非常に小さく何回も波打たせることにより波長幅が非常に狭く輝度が太陽光の1億倍にも達するX線を放射するアンジュレーターの2種類です。
この挿入光源類を世界一数多く設置するとともに、SPring-8で新しく開発された高性能のアンジュレーター、特に真空封止型アンジュレーターや8の字アンジュレーターなどが生み出す高輝度光、単色化された超強力な短波長領域のX線、またそれらの広い範囲での波長可変性、偏光特性、干渉性などがSPring-8の特徴です。
(c)放射光の加工(ビームライン)
発生した放射光は、挿入光源に直接接続した (4) ビームラインの中を進み、蓄積リングを納める収納部の隔壁を通して、実験ホールに設けられた (5) 実験ハッチに導かれます。
光源に近いビームラインのフロントエンド部で、実験に不要で邪魔になるエネルギー領域がそぎ落とされます。そして、蓄積リング本体の超高真空とビームラインの真空の部分を隔てるベリリウム窓を通り収納部を出た光は、光学ハッチに納められた輸送チャンネル部の二結晶分光器やミラーなどで、波長の選択・平行性の向上・さらなる集光などの高度な操作が行われ、実験に最適な光となって実験ハッチに導かれ、実験に用いられます。
光学ハッチ(XAFS)内ビームライン