日 時 : 2005年5月6日 13:30-14:30
講演者 : 中迫 雅由 助教授 所 属 : 慶應義塾大学 理工学部 物理学科
講演要旨 蛋白質は、生命活動の素過程を担う分子機械であり、全世界的に蛋白質の立体構造が解明されつつある。現在の蛋白質立体構造に関する博物学的進展を踏まえた場合、次世代の物理化学研究では、"蛋白質がどのような物理化学原理に基づいて機能しているのか?"という動作機構の解明に力点が集中すると考えられる。立体構造の中に誘起されるどのような分子内部運動が蛋白質の生理学的機能と密接に関わるのかを実験的に検討するためには、数百マイクロ秒から秒の時間領域において、数Å~数十Åの空間領域での蛋白質分子内部運動の発展を実験的に追跡する必要がある。飛躍的発展を遂げた顕微鏡下での一分子生理学では原子レベルでの運動要因の解明は非常に困難であり、また、凝縮系の時間発展測定に利用される中性子準弾性散乱でも蛋白質分子内運動の原子レベル追跡には大きな困難が予想される。 われわれは、将来、干渉性X線を利用したスペックルパターンの時分割測定による蛋白質内部運動の時間相関測定を試みたいと考えている。干渉性X線を試料に入射した場合、試料中の散乱体の運動に由来したスペックルパターンが出現する。スペックルパターンの時間変化を追跡することで、これまでに合金系の相転移や、数十~数百ナノメートスサイズ粒子の拡散運動の中間散乱関数を通した時間相関解析がなされてきたが、蛋白質に対する実験例は国内外ともにまだない。われわれは、多重ドメイン構造を持つ巨大蛋白質のサブミクロンサイズ結晶の回折実験によって、蛋白質内のドメイン運動に由来したスペックルパターンの時間発展を追跡し、蛋白質内部運動のドメインレベルでの中間散乱関数測定を開拓したい。このような測定が実現できれば、これまでの実験手法が未だ到達し得ていない蛋白質の時間空間領域へのアプローチが可能となる。セミナーでは、蛋白質の運動研究の現状と、昨年から2度にわたって行ったBL40XUでの散乱実験の結果と問題点を紹介し、上記測定方法の可能性について議論していただきたい。
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