Speaker : 魚住 孝幸
Language : 日本語
Affiliation : 大阪府立大学大学院工学研究科
Title : 動的平均場を考慮した内殻X線分光の理論解析
Abstract:
内殻光電子分光(XPS)をはじめとするX線分光は,3d遷移金属酸化物などの電子状態研究に重要な役割を果たしてきた.近年の実験技術の進歩は目覚ましく,バルク敏感化,高分解能化,偏光利用などが進み,磁気・軌道の長距離秩序を含む,強相関系特有の電子状態がスペクトル微細構造として直接観測されるようになり,今後の研究をさらに強力に牽引していくものと期待される.
内殻スペクトルには,強い相関をもつ価電子状態と内殻励起に伴う価電子応答の情報が含まれ,その解析は量子多体問題としての取り扱いが必要である.従来のMO6型クラスタ模型などの不純物模型は,3d電子間相互作用や内殻励起に伴う電荷移動,多重項相互作用,偏光を含む励起過程の取り扱いなど,スペクトル解析に必要なエッセンスを含み,果たしてきた役割は大きい.しかしながら,多数の調節パラメータを含むために定量的曖昧さが付きまとうことや,磁気・軌道等の長距離秩序が十分には記述出来ない等,高分解能スペクトルの解析に十分には対応できない側面もあるため,拡張された解析枠組みの構築が望まれる.
このセミナーでは,ごく最近我々が提案した,動的平均場を考慮した内殻X線分光解析の枠組み[1]について紹介する.動的平均場理論は強相関電子系を扱う優れた手法のひとつであるが,内殻分光への応用は軌道自由度や磁気秩序を無視したごく簡単な場合に限られていた.我々の枠組みは,現実的結晶構造を考慮するLCAOバンド計算と不純物アンダーソン模型(IAM)を組み合わせたものであり,動的平均場を自己無撞着に決める過程で多体効果や長距離秩序がIAMの混成関数に繰り込まれるため,IAMを用いたスペクトル計算に効率よく遷移元素間の相関効果を取り込める点が特色である.
具体的な例として,銅酸化物系やNiO,CoOなどなどを挙げ,絶縁性キャラクタや反強磁性構造などの電子構造に絡む2pXPS微細構造などの解析について紹介し,動的平均場を考慮した手法の特色について議論する.この手法は,従来の枠組みが抱える上述の問題点を解消した上で,長距離秩序やそれに伴う微細構造が記述できる点において,今後の高分解能スペクトル解析において重要な役割を果たす手法であると期待する.
[1] A. Hariki et al., J. Phys. Soc. Jpn. 82 (2013) 043710.
担当者 : 水牧 仁一朗
Mail : mizumaki@spring8.or.jp
PHS : 3870
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