木質バイオマス内部の非定常熱分解挙動のリアルタイム計測
秋田県立大学 システム科学技術学部 大徳忠史, 大上泰寛
はじめに: 固体の熱分解速度や燃焼速度は,固体燃焼における重要な特性値である.また,可燃性固体の内部構造や内部での現象の観測は困難であり,現象の解明には内部の観測が求められる.
ある程度の大きさを有する固体の熱分解現象では,固体表面への入熱により固体表面から内部へ熱分解が進行していくはずである.
本研究では,植物由来の可燃性固体としてセルロース繊維で構成される木質を対象とする.固体の燃焼現象のメカニズムについて,熱分解現象および伝熱特性を解明することを目指し,特に本課題では,熱分解過程のリアルタイム可視化計測の可能性を検討することを目的とした.
測定方法: 計測試料は市販のひのき材を用いた.試料は,ビームの観測視野に収まるように直径4 mmとした.試料の熱分解過程のリアルタイムX線透過計測では,試料は断熱容器内に設置し,ノンフレームトーチからの高温窒素加熱により熱分解させた.このとき,断熱容器内は窒素雰囲気となるため試料から火炎は生じない.X線照射方向の窓は,X線の透過を考慮しアルミ箔を用いた.また,熱分解前後の計測試料の内部様相をX線CTにより観測した.本実験における検出器の空間分解能は,結像におけるピクセルサイズが2.76 µm相当である.X線のエネルギー値は,木材の主構成成分であるセルロース(軽元素の炭素)の計測を主眼として15 keVを選択した.
結 果: 計測結果の一例として,昇温速度50°C /minにおける熱重量計測の温度と試料の重量変化の結果に,同じく昇温速度50°C /minで熱分解する過程のリアルタイムX線透過計測による透過像を温度で対応させ,図1に示した.熱重量計測による試料の初期重量は,今回のリアルタイムX線透過計測で用いた試料の初期重量と比較的近いものを用いている.熱重量計測の結果から300℃から重量が減少を始め,350℃付近でさらに大きく重量が変化していることが分かる.400℃に達すると初期重量の約60 %まで重量が減少している.X線透過計測による透過像と対応させてみると,透過像AからCでは試料の変化は観察されない.図1からは分かりにくいが,透過像DではCに対して収縮していた.また透過像Eは,明らかに収縮しており,熱重量計測による重量変化と対応している.本実験では試料が熱分解する過程で,上述のように試料が収縮・変形するため,X線CTで再構成が困難な状況であった.円柱状の試料を用いたことから,軸対称と仮定しX線透過像に対して逆アーベル変換を試みた.図2(a),(b)に,昇温速度10°C/min,50°C/min におけるX線透過像に対して逆アーベル変換を行なった結果を示す.試料断面の吸光度分布ε(r)[-] は木材試料断面の密度分布を示していると考えられる.いずれの条件においても雰囲気温度上昇に伴いε(r)[-] は減少している.350°C以上になると昇温速度50°C/min の場合ではε(r)[-]は大きく減少するのに対し,昇温速度10°C/min では緩やかに減少していくことが分かる.特に昇温速度50°C/min の場合,試料外側の変化が大きいように思われるが,木目付近でX線の吸収量が大きくなるなどの影響もあり,更なる実験および計測手法の改善が望まれる.(課題番号:2014A1588, 2014B1636, ビームライン:BL20B2)
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