「放射光XAFSで観るレアメタルフリークロスカップリング反応」
京都大学化学研究所 高谷 光
鉄は地殻含有量が最も高い遷移金属であり,安価で毒性が低いため触媒元素戦略の要となる元素である。
そのため,従来まで化学工業で用いられてきたパラジウム,ロジウム,ルテニウム,白金の貴金属触媒を鉄へ置き換える研究が世界規模で盛んに行われるようになったが,反応機構に関しては未知の点が多い。
これは,鉄錯体が水や酸素に対して不安定であることに加えて,鉄の常磁性によってNMRスペクトルが複雑化・広幅化するために触媒中間体の同定や構造決定が困難であることに起因している。
我々は常磁性鉄触媒の研究手法として,元素選択性・感度に優れた放射光X線を用いるXAFSに着目し,反応溶液中の有機鉄中間体の同定と構造解析に関する研究を行った。
その結果,優れたクロスカップリング触媒となる鉄錯体FeBr2SciOPPとマグネシウム反応剤,ハロゲン化アルキルの反応様式を分子レベルで決定することに成功し,溶液XAFSが元素戦略の要となる鉄触媒反応の機構研究に極めて有効であることを明らかにしたのでその詳細について報告する。