大型放射光施設 SPring-8

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赤外放射光を利用した文化財研究

赤外放射光を利用した文化財研究
(公財)高輝度光科学研究センター 池本夕佳

文化財試料を対象とした赤外分光は、素材の同定や状態解析を行う手法として広く利用されている。放射光を利用した赤外分光では、輝度が高い特性を利用して、顕微赤外分光が行われる。図1は、赤外分光で一般的に利用されるグローバーランプ等の熱輻射光源と、赤外放射光の輝度を比較したグラフである。熱輻射光源はプランクの式で、放射光はSPring-8、BL43IR(赤外ビームライン)のパラメータを利用して計算した[1]。分光に利用する遠赤外から近赤外の広い領域にわたって、赤外放射光の方が熱輻射光源より2桁以上輝度が高いことがわかる。顕微赤外分光にこれらの光源を利用すると、輝度の高い赤外放射光では、微小領域で多くの光を利用することが出来るため、効率の良い測定を行う事ができる。図2には、視野絞りを利用して、焦点位置のビームサイズが2 x 2 μm2角となるようにして測定した酢酸タリウム微粒子の吸収スペクトルを示す[2]。BL43IRの顕微分光ステーションで測定しており、波数分解能、積算回数はどちらも8 cm-1、256回とした。青はグローバーランプ、赤は放射光の結果である。青では判別が難しいピークが、赤では明瞭に観測されていることがわかる。このような高輝度特性を活かして、赤外放射光を利用した文化財研究では、微小な試料の状態解析や、様々な成分の空間分布を高い空間分解能で測定する研究などが報告されている。

図1 熱輻射光源と赤外放射光の輝度の比較。

 


[1] Y. Ikemoto et al. Opt. Commun. 285, 2212 (2012).
[2] T. Moriwaki et al. SPring-8/SACLA Research Report Section A 3,346 (2015).