XAFS(ザフス)-手法と事例-
(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門 宇留賀朋哉
X線を物質に照射すると、その一部が吸収される。X線のエネルギーを変えながら、吸収量を計測したものをX線吸収スペクトルと呼ぶ。物質を構成する元素は、元素毎に異なる特有のX線エネルギーでX線吸収量が急激に増加する。このエネルギーをX線吸収端と呼ぶ。X線吸収端近傍のエネルギーで吸収スペクトルを詳細に計測すると、振動構造が観察される。これをX線吸収微細構造(XAFS(ザフス、X-ray Absorption Fine Structure))と呼ぶ(図1)。XAFSは、吸収端の極近傍(‐50~+50 eV程度)のXANES(ゼーンズ、X-ray Absorption Near Edge Structure)と、吸収端から離れた領域(+50~+1500 eV程度)のEXAFS(イグザフス、Extended X-ray Absorption Fine Structure)に分けて解析が行われる。XANESからは、測定対象元素の電子構造(価数、化学種)や配位構造に関する情報が得られる。図2に様々なTi化合物のTi K端XANESスペクトルを示す。XANESスペクトルの形状は化学種により変わるので、指紋照合的に化学種の特定に利用することができる。また、試料が複数の化学種から構成される混合物の場合、成分比の決定に利用することができる。一方、EXAFSからは、測定対象元素の周りの局所構造(配位原子数、原子間距離、配位原子種等)に関する情報が得られる。
XAFS法は以下のような特徴をもつ。(1) 結晶だけでなく非結晶物質の構造情報が得られる(液体・ガラス状試料にも適用可能)、(2) 元素選択して情報が得られる(極微量元素(ppmオーダー)の計測可能)、(3) 様々な形状・状態の試料を非破壊計測できる(木片、焼き物、絵画、土壌等に適用可能)、(4) X線の高い透過性により反応容器内の対象を非破壊でその場計測できる(焼成過程等に適用可能)。文化財関係の試料は、複雑かつ不均一な組成・形状で、測定対象元素が微量・希薄であり、非破壊で計測することが要求されているものが多い。そのため、上記の特徴をもつXAFS法が有効な分析ツールの一つとして利用されることが期待される。発表では、XAFS法の概要と文化財関係試料に対する応用事例について紹介する。