2017年秋の学校 講義・講習概要
基礎講義(必須)
基礎講義1.放射光発生の基礎 --- 金城 良太(理化学研究所)
放射光、特にシンクロトロン放射光は、高エネルギー電子が磁場により偏向を受けた時に発生する電磁放射で、指向性に優れ、輝度が高く、マイクロ波から赤外、可視光、紫外、真空紫外、軟X線、硬X線、ガンマ線までの幅広い波長領域をカバーする。本講義では、代表的なシンクロトロン放射である偏向電磁石放射、アンジュレータ放射、コヒーレントシンクロトロン放射、自由電子レーザーなどについて、その性質を述べるとともに発生原理の直感的な説明を試みる。
基礎講義2.ビームライン ~光源と実験ステーションを繋ぐもの~ --- 山崎 裕史(高輝度光科学研究センター)
放射光実験では光源からの放射光をそのまま利用することはほとんどない。放射光は実験ステーションに至るまでに様々な加工がなされ、単色性や指向性の優れた使い勝手のよいX線成分だけがユーザーに提供される。講義では、X線光学現象の定性的な説明を行い、それらを利用した放射光加工の機器類について紹介する。
基礎講義3.X線検出器の基礎 --- 雨宮 慶幸(東京大学)
X線は物質によって回折または散乱されるときは波(電磁波)として振る舞いますが、検出されるときは粒子(光子)として振る舞います。試料から回折・散乱されたX線の強度を測ることは、X線光子の数を数えることであり、その数を場所と時刻の関数として測定する装置がX線検出器です。最初に、光の波と粒子の二重性、及び、光子統計について解説します。次に、1)X線検出器でX線が検出される原理、2)放射光用X線検出器に求められる性能、3)各種のX線検出器の構造と性能、について平易に解説します。
基礎講義4.X線自由電子レーザー入門 --- 井上 伊知郎(理化学研究所)
X線の発見から約120年後の2009年に、米国のSLAC国立加速器研究所が人類最初のX線レーザーを実現させました。それから2年後の2011年には日本の理化学研究所が世界で2番目のX線レーザーを実現させ、SACLAと名付けました。現在ではX線レーザーの建設が世界各地で行われており、今まさにX線レーザーの時代が始まろうとしています。これらのX線レーザーは「自由電子レーザー」と呼ばれるタイプの光源で、私達が普段イメージするレーザーとは異なる方法で光を作り出しています。この講義では、X線レーザーの仕組みとX線レーザーによって可能になったサイエンスをSACLAの取り組みを交えながら紹介します。
基礎講義5.X線イメージング入門 --- 篭島 靖(兵庫県立大学)
X線の高い透過性はレントゲン写真のように物体内部の構造観察を可能にする。さらに、放射光X線の高輝度性は様々な新しい画像法(イメージング)を可能 にした。屈折コントラスト法による高コントラスト動的観察、X線顕微鏡トモグラフィによる三次元内部構造の顕微観察、走査型X線顕微鏡による微量元素の二 次元分布測定、マイクロビームX線による微小領域の構造・歪み解析等を例に挙げ、SPring-8における最先端の応用例を紹介する。
基礎講義6.X線分光入門 --- 水牧 仁一朗(高輝度光科学研究センター)
X線領域(数百eV程度から十数keV程度のエネルギー領域)の光は高エネルギーを持ち、特定の元素の内殻軌道の電子を伝導帯に励起させることが可能となる。これにより、物質構成原子の各々の電子状態を元素選択的に、詳細に知ることができ、これは他の分光法にはない特長である。講義では、X線分光の実験手法とその原理を解説し、元素選択的特長を用いた研究例を紹介する。
基礎講義7.X線回折入門 --- 高橋 功(関西学院大学)
物質の性質を理解するうえで、原子配列は最も基本的かつ重要な情報の一つであり、放射光を用いた回折・散乱実験はそれを明らかにする有力な手段です。本講義では回折・散乱現象の基礎から出発し、原子によるX線の回折・散乱とそれを用いることでいかにして原子配列についての理解が可能になるのかについて概観します。理想的な結晶によるX線回折はわかりやすい例ではありますが、今回の講義ではそれに加えて薄膜結晶や周期性を持たない非晶質材料の構造を理解するための放射光実験の例についても解説します。
グループ講習(以下9のテーマより3つを選択)
グループ講習1.単結晶構造解析 --- 橋爪 大輔(理化学研究所CEMS)/杉本 邦久(高輝度光科学研究センター)
物質を対象とする研究において、必要な情報は目的によって多岐に渡ります。しかし、物質の構造が研究に不要であることはほとんどありません。物質の構造を知る目的で多く用いられている手法が単結晶構造解析です。本講習では単結晶構造解析のための回折データ測定、解析法の基礎を概説し、実習として、単結晶試料の選び方実習(結晶選びタイムトライアル)、SPring-8の回折装置を用いた試料マウントを行います。さらにデモデータを用いた構造解析実習、解析結果についてdiscussionを行います。
グループ講習2.放射光粉末X線回折によるその場観測の実際 --- 笠井 秀隆(筑波大学)/河口 彰吾(高輝度光科学研究センター)
放射光粉末X線回折は物質の反応を追跡するその場観測に適している。SPring-8放射光を利用した微量粉末試料のX線回折について実習を行う。BL02B2ビームラインにおいて試料のハンドリングや測定システムの操作などの模擬実験を行う。その後、銅の酸化反応を追跡した回折データを用いて解析を行い、その結果について議論する。
グループ講習3.タンパク質結晶解析 --- 水島 恒裕(兵庫県立大学)/田中 良和(東北大学)
生体内で様々な役割を持つタンパク質の構造情報は、生命機能を理解したり、そのタンパク質を標的とした薬剤をデザインするために重要である。本講習ではタンパク質のX線結晶構造解析を行う上で必要となるタンパク質結晶の作製法、タンパク質結晶を用いた回折実験、およびデータ解析などに関して学ぶ。
グループ講習4.小角X線散乱 --- 雨宮 慶幸(東京大学)/増永 啓康(高輝度光科学研究センター)
小角X線散乱は物質中のナノ構造を観察する計測法で、高分子、液晶、金属、生体物質等、広い分野で応用されている。
本講義では、1)X線散乱法でナノ構造を見ることの基礎、2)小角X線散乱法で用いられるX線光学系・検出器系の構造と原理、3)小角X線散乱法の応用例、に関して平易に解説する。
グループ講習5.XAFS --- 水牧 仁一朗/新田 清文(高輝度光科学研究センター)
(1)XAFSの原理とその特長、(2)測定方法(BL01B1の見学・実際の測定器をみながら説明)、(3)データ処理と解析(EXAFS解析ソフト(フリーソフト)・Atena, Artemisを用いる)
グループ講習6.蛍光X線分析 --- 寺田 靖子(高輝度光科学研究センター)
蛍光X線分析は、物質解析の第一歩として必須となる元素情報を得る手段として用いられる。本講習では蛍光X線分析の原理と応用例について述べるとともに、放射光を用いた場合の実験装置を実際に見学し、測定の具体例について学ぶ。
グループ講習7.赤外分光分析 --- 池本 夕佳(高輝度光科学研究センター)
波長の長い赤外線を利用した分光測定について講習を行います。赤外分光では、物質の組成・結合に関する情報や、物質中の電子状態に関する情報が得られます。講習では、オフライン装置を利用して身近な素材の測定を行うほか、放射光の利用例なども紹介します。
グループ講習8.軟X線分光 ~軟X線分光で視る物質の世界~ --- 松田 巌(東京大学)
量子力学の講義で教わる電子状態や、化学反応の講義で習う中間体の化学種など、軟X線はこれらの状態を直接視ることのできる光です。最近ではそのダイナミクスもリアルタイムで追跡できるようになりました。本講習では、放射光やX線自由電子レーザーの軟X線分光実験で得られる物質情報を系統的に解説します。そしてビームラインにて各先端分光装置の見学と実際の操作を体験してもらう予定です。「軟X線分光の基礎」を学びたい方、そして講師の専門から「原子層科学」や「触媒表面化学」、そして「超高速現象」に興味のある方の参加もお待ちしております。
グループ講習9.X線イメージング --- 矢代 航(東北大学)
X線の高い透過性を利用して試料内部を三次元的に可視化するX線トモグラフィは、様々な研究に応用されているなくてはならない強力なツールです。本講習会では、その原理、測定方法、データ解析の方法について学ぶとともに、最先端の応用例についても紹介します。