2020年秋の学校 講義・講習概要
基礎講義(必須)
基礎講義1.放射光発生の基礎 --- 正木 満博(高輝度光科学研究センター)
電子などの荷電粒子が加速度運動すると電磁波が放射される。特に、電子シンクロトロンと呼ばれる加速器で作られる高エネルギー電子が、磁場により偏向された際に発生する電磁波をシンクロトロン放射光と呼び、指向性に優れ、輝度が高く、マイクロ波から硬X線に至る幅広い波長領域をカバーするという特性を持つ。本講義では、代表的なシンクロトロン放射である偏向電磁石放射、アンジュレータ放射、コヒーレントシンクロトロン放射、自由電子レーザーなどについて、その発生原理と性質をなるべく直感的に理解できるように解説する。
基礎講義2.ビームライン ~光源と実験ステーションを繋ぐもの~ --- 仙波 泰徳(高輝度光科学研究センター)
放射光実験では光源からの放射光をそのまま利用することはほとんどない。放射光は実験ステーションに至るまでに様々な加工がなされ、単色性や指向性の優れた使い勝手のよいX線成分だけがユーザーに提供される。講義では、X線光学の定性的な説明を行い、それらを利用した放射光加工の機器類についての紹介した後、熱対策を中心とした技術的な問題について触れる。
基礎講義3.X線イメージング --- 篭島 靖(兵庫県立大学)
X線の高い透過性はレントゲン写真のように物体内部の構造観察を可能にする。さらに、放射光X線の高輝度性は様々な新しい画像法(イメージング)を可能にした。屈折コントラスト法による高コントラスト動的観察、X線顕微鏡トモグラフィーによる三次元内部構造の顕微観察、走査型X線顕微鏡による微量元素の二次元分布測定、マイクロビームX線による微小領域の構造・歪み解析等を例に挙げ、SPring-8における最先端の応用例を紹介する。
基礎講義4.X線自由電子レーザー入門 --- 大坂 泰斗(理化学研究所)
X線の発見から約120年後の2009年に、米国のSLAC国立加速器研究所が人類最初のX線レーザーを実現させました。それから2年後の2011年には日本の理化学研究所が世界で2番目のX線レーザーを実現させ、SACLAと名付けました。現在ではX線レーザーの建設が世界各地で行われており、今まさにX線レーザーの時代が始まろうとしています。これらのX線レーザーは「自由電子レーザー」と呼ばれるタイプの光源で、私達が普段イメージするレーザーとは異なる方法で光を作り出しています。この講義では、X線レーザーの仕組みとX線レーザーによって可能になったサイエンスをSACLAの取り組みを交えながら紹介します。
基礎講義5.回折・散乱の基礎と構造解析への応用 --- 藤原 明比古(関西学院大学)
物質の性質を理解する上で、原子配列は、最も基本的、かつ、重要な情報の一つです。本講義では、回折・散乱現象の基礎から出発し、原子によるX線の回折・散乱、回折・散乱実験による原子配列の解析について概観します。結晶構造解析は分かりやすい応用例ですが、結晶構造解析のみならず、薄膜結晶や周期性を持たない非晶質材料、集合体の構造の解析などを対象にして、放射光利用の優位性や放射光利用ならではの実験例についても解説します。
基礎講義6.XAFSの基礎 --- 伊奈 稔哲(高輝度光科学研究センター)
X線吸収微細構造(XAFS)法は、対象となる元素の原子価やその周囲の局所構造を得られる測定法である。XAFS法は結晶性を有する試料のみならず非晶質の試料も測定できるため、その測定対象は多岐にわたる。本講義ではXAFSの基礎から測定の概略、SPring-8における測定事例について紹介する予定である。
基礎講義7.X線検出器の基礎 --- 上杉 健太朗(高輝度光科学研究センター)
X線は電磁波の一種です。目で見ることはできませんが、医療ではレントゲン写真やX線CT画像が日常的に撮影され、材料開発ではX線回折などで我々に有用な情報をもたらします。SPring-8でも多種多様なX線検出器が利用されています。この講義では、X線検出器でX線が検出される原理や各種X線検出器の構造と性能について解説します。
グループ講習
※以下の18テーマより3テーマを受講:グループ講習のいくつかは個人でPCを持参いただくものもあります、ご不明な点がございましたら、事務局までご連絡ください。
※実際の放射光を用いた実習はございません。
グループ講習1.単結晶構造解析 --- 橋爪 大輔(理化学研究所CEMS)/杉本 邦久(高輝度光科学研究センター)
物質を対象とする研究において、必要な情報は目的によって多岐に渡ります。しかし、物質の構造が研究に不要であることはほとんどありません。物質の構造を得る目的で多く用いられている手法が単結晶構造解析です。本講習ではSPring-8 における単結晶回折装置(BL02B1)を見学し、単結晶構造解析のための回折データ測定、解析法の基礎を概説する。実習として、デモデータを用いた構造解析実習、解析結果についてdiscussionを行う。なお、受講される方は各自PCをご用意下さい。
グループ講習2.粉末X線回折によるその場観測の実際 --- 河口 彰吾・山田 大貴(高輝度光科学研究センター)
放射光粉末X線回折は、微量試料、雰囲気制御の簡便などから物質の反応を追跡するなどのその場観測に適している。SPring-8の高輝度放射光を利用した粉末試料のX線回折について実習を行い、BL02B2において試料のハンドリングや測定システムの操作などの模擬実験を行う。その後、銅の高温環境下での酸化反応を追跡した回折データを用いて解析を行い、その結果について考察する。
グループ講習3.タンパク質結晶構造解析 --- 水島 恒裕(兵庫県立大学)/河村 高志(高輝度光科学研究センター)
生体内で様々な役割を持つタンパク質の構造情報は、生命機能を理解したり、そのタンパク質を標的とした薬剤をデザインするために重要である。本講習ではタンパク質のX線結晶構造解析を行う上で必要となるタンパク質結晶の作製法、タンパク質結晶を用いた回折実験、およびデータ解析などに関して学ぶ。
グループ講習4.小角X線散乱 --- 増永 啓康・関口 博史(高輝度光科学研究センター)
小角X線散乱は物質中のナノ構造を観察する計測法で、高分子、液晶、金属、生体物質等、広い分野で応用されている。本講義では、1)X線散乱法でナノ構造を見ることの基礎、2)小角X線散乱法で用いられるX線光学系・検出器系の構造と原理、3)小角X線散乱法の応用例、に関して平易に解説する。
グループ講習5.PDF法を用いたガラスの構造解析 --- 尾原 幸治・山田 大貴・廣井 慧(高輝度光科学研究センター)
ガラスや液体の原子・分子レベルの構造観察手法として、PDF(Pair distribution function、二体分布関数)解析が挙げられる。本講習では、PDF解析のための高エネルギーX線回折データ測定、PDF解析の基礎について概説する。また石英ガラスのデモデータを用いて、PDF解析を体験する。
グループ講習6.X線非弾性散乱入門 --- 筒井 智嗣・Baron Alfred(高輝度光科学研究センター)
物質の硬さや物質中の熱の伝わり方は原子の動き(振動状態)と大きく関わっている。原子の振動状態を知るためには散乱によるX線のわずかなエネルギーの変化を計測することが必要である。本講習では、原子の振動状態を知る手段であるX線非弾性散乱の計測法とその利用例について紹介する。
グループ講習7.応力・ひずみ解析 --- 菖蒲 敬久・冨永 亜希(日本原子力研究開発機構)/城 鮎美(量子科学技術研究開発機構)
安全・安心な要素設計には、部材要素に作用する応力・ひずみを把握することが不可欠です。特に部材中に隠れている残留応力は、強度に大きな影響を及ぼすため、高精度に評価する必要があります。本講習では、応力・ひずみ測定の基礎的な原理・手順を理解することを目指します。そのため、ひずみ測定の最も基礎的な手法であるひずみゲージ法、さらには、X線回折を利用した応力・ひずみ解析法について、実体験を通して理解することを目的とします。受講される方は各自PCをご用意下さい。
グループ講習8.X線回折・散乱を用いた薄膜構造評価 --- 小金澤 智之(高輝度光科学研究センター)
私たちの生活に欠かせない存在である半導体デバイスは、様々な機能性薄膜で構成されています。膜厚が数nmから数百nm程度の機能性薄膜の構造評価には、高輝度X線源である放射光が強力な評価ツールとなります。本講習では薄膜構造評価法であるX線回折測定やX線反射率測定の原理と応用例を紹介し、BL46XUに設置されている多軸X線回折計において測定手順を見学していただきます。可能な方はPCをご用意下さい。
グループ講習9.X線反射率法(とその発展形)による界面構造解析 --- 若林 裕助(東北大学)
物質の表面は様々な現象が生じる場です。平滑な表面近傍の構造を観測する表面X線回折法と、X線反射率法について説明し、表面X線回折ビームラインBL13XUの装置を見学します。その後、反射率データの解析実習を行います。時間があれば、最新の研究結果についての解説も行います。受講される方は各自PCをご用意下さい。
グループ講習10.X線吸収分光法 --- 山添 誠司(東京都立大学)/新田 清文(高輝度光科学研究センター)/別府 孝介(龍谷大学)
X線吸収分光法(XAS)は、特定原子(元素)の内殻電子の励起に伴う吸収スペクトルからその原子の電子状態や局所構造を知ることができる手法で、様々な分野で応用されている.本講習では、実際に利用されている測定機器に触れながら、XASの原理、特長、測定法及びXASスペクトルの解析の基礎について説明します。受講される方は各自PCをご用意下さい。
グループ講習11.リアルで視る軟X線分光 --- 松田 巌(東京大学)
軟X線領域を用いた分光法は物質の性質を決める電子状態を「直接視る」ことができ、さらに電池や触媒などの物質の機能発現時における状態変化も「その場で視る」こともできます。このような研究はオペランド実験と呼ばれ、本講習では光電子分光法を中心にその最前線を紹介します。またオフラインとして実際の装置を使った電子状態分析の体験もしてもらう予定です。
グループ講習12.赤外分光分析 --- 池本 夕佳(高輝度光科学研究センター)/岡村 英一(徳島大学)
波長の長い赤外線を利用した分光測定について講習を行います。赤外分光では、物質の組成・結合に関する情報や、物質中の電子状態に関する情報が得られます。本グループ講習では、赤外分光の基礎と放射光の特徴・利用例に関する講義のほか、オフライン装置を利用して身近な素材の測定を行います。
グループ講習13.光電子分光(HAXPES) --- 保井 晃・高木 康多(高輝度光科学研究センター)
光電子分光は物性を支配する電子を直接取り出し調べる手法であり、物質中の電子の状態を詳細に解析できるため、基礎物性研究のみならず製品開発研究まで幅広く利活用されています。本講習では特に、SPring-8で開発された硬X線光電子分光法を中心に解説を行います。また、光電子分光の基礎的な解析方法の実習を行うとともに、先端研究事例を紹介します。
グループ講習14.メスバウアー分光入門 --- 藤原 孝将(量子科学技術研究開発機構)
メスバウアー分光法は neVレベルの非常に優れたエネルギー分解能を有し、電子が及ぼす原子核環境のわずかな変化も検出できる測定手法です。実習では鉄化合物のスペクトルの解析を通して、化合物中の価数、配位環境、磁性などの情報が選択的に得られる測定手法であることを体験していただきます。また、放射光を使った研究事例についてもご紹介いたします。
グループ講習15.X線CT入門 --- 上杉 健太朗・八木 直人(高輝度光科学研究センター)
X線CTは、生体から金属まであらゆる試料の構造研究に利用できる非常に汎用的な計測手法です。CTの原理・撮影装置・画像再構成法に関する講習と、ビームライン見学を行います。受講される方は各自PCをご用意下さい。
グループ講習16.結像型X線顕微鏡による顕微CT --- 高山 裕貴(兵庫県立大学)
結像型X線顕微CTは、試料内部を100 nm前後の分解能で三次元観察できる強力な手法です。X線領域では物質の屈折率がほとんど1のため、結像素子には屈折レンズではなく回折を利用した“レンズ”(ゾーンプレート)が多く用いられます。指向性の高い放射光を用いれば、吸収差が僅かな構造もその境界での屈折効果により明瞭に観察できます(屈折コントラスト)。本実習では、兵庫県BL24XUのX線結像顕微鏡装置の見学と複合繊維CTデータの解析実習を通じて、ゾーンプレートの結像特性や屈折コントラスト、CT再構成の原理を学びます。
グループ講習17.高圧力の発生と高圧下の物質科学 --- 石松 直樹(広島大学)/町田 晃彦(量子科学技術研究開発機構)
講習では高圧下の物質科学と放射光X線を利用した評価に関する簡単な講義と合わせて、ダイヤモンド・アンビル・セルを用いた高圧発生技術を習得します。単結晶の高圧氷の生成、ヨウ化銀の相転移の観察、ルビー蛍光法による圧力評価などの 実習を行う予定です。
グループ講習18.ドーパント原子配列解析 --- 松下 智裕(奈良先端科学技術大学院大学)
結晶中のドーパントの原子配列を解析できる、蛍光X線ホログラフィーと光電子 ホログラフィーの最前線の研究成果を紹介し、そのデータ解析について平易に解説します。データ解析として、原子分解能ホログラムのシミュレーションおよび立体原子配列の再構成方法について実習します。なお、受講される方は各自PC(Windows)をご用意ください。