大型放射光施設 SPring-8

コンテンツへジャンプする
» ENGLISH
パーソナルツール
 

2022年秋の学校 講義・講習概要

基礎講義 グループ講習

基礎講義(必須)

基礎講義1.放射光発生の基礎 --- 正木 満博(高輝度光科学研究センター)
電子などの荷電粒子が加速度運動すると電磁波が放射される。特に、電子シンクロトロンと呼ばれる加速器で作られる高エネルギー電子が、磁場により偏向された際に発生する電磁波をシンクロトロン放射光と呼び、指向性に優れ、輝度が高く、マイクロ波から硬X線に至る幅広い波長領域をカバーするという特性を持つ。本講義では、代表的なシンクロトロン放射である偏向電磁石放射、アンジュレータ放射、コヒーレントシンクロトロン放射、自由電子レーザーなどについて、その発生原理と性質をなるべく直感的に理解できるように解説する。

基礎講義2.ビームライン ~光源と実験ステーションを繋ぐもの~ --- 仙波 泰徳(高輝度光科学研究センター)
放射光利用実験では光源からの放射光をそのまま利用することはほとんどなく、ユーザーの用途に合わせてビームライン光学機器で様々な制御(例えば光のエネルギーやサイズの調整など)がなされたX線が提供される。講義ではX線光学の定性的な説明を行い、それらを利用したビームライン光学機器類について紹介した後、熱対策などの技術的な問題について触れる。

基礎講義3.X線検出器の基礎 --- 上杉 健太朗(高輝度光科学研究センター)
X線は電磁波の一種です。目で見ることはできませんが、医療ではレントゲン写真やX線CT画像が日常的に撮影され、材料開発ではX線回折などで我々に有用な情報をもたらします。SPring-8でも多種多様なX線検出器が利用されています。この講義では、X線検出器でX線が検出される原理や各種X線検出器の構造と性能について解説します。

基礎講義4.X線自由電子レーザー入門 --- 久保田 雄也(理化学研究所)
X線の発見から約120年後の2009年に、米国のSLAC国立加速器研究所が人類最初のX線レーザーを実現させました。それから2年後の2011年には日本の理化学研究所が世界で2番目のX線レーザーを実現させ、SACLAと名付けました。その後世界各地でX線レーザーの建設が行われ、X線レーザーの時代が始まっています。これらのX線レーザーは「自由電子レーザー」と呼ばれるタイプの光源で、私達が普段イメージする可視光近傍のレーザーとは異なる方法で光を作り出しています。本講義では、X線レーザーの仕組みとX線レーザーによって可能になったサイエンスをSACLAでの取り組みを中心に紹介します。

基礎講義5.X線イメージング --- 篭島 靖(兵庫県立大学)
X線の高い透過性はレントゲン写真のように物体内部の構造観察を可能にする。さらに、放射光X線の高輝度性は様々な新しい画像法(イメージング)を可能にした。屈折コントラスト法による高コントラスト動的観察、走査型X線顕微鏡による微量元素の二次元分布測定、X線顕微鏡トモグラフィーによる三次元内部構造の顕微観察、コヒーレントX線回折イメージング等を例に挙げ、SPring-8における応用例を紹介する。

基礎講義6.回折・散乱の基礎と構造解析への応用 --- 藤原 明比古(関西学院大学)
物質の性質を理解する上で、原子配列は、最も基本的、かつ、重要な情報の一つです。本講義では、回折・散乱現象の基礎から出発し、原子によるX線の回折・散乱、回折・散乱実験による原子配列の解析について概観します。結晶構造解析はわかりやすい応用例ですが、結晶構造解析のみならず、薄膜結晶や周期性を持たない非晶質材料、集合体の構造の解析などを対象にして、放射光利用の優位性や放射光利用ならではの実験例についても解説します。

基礎講義7.XAFSの基礎 --- 田渕 雅夫(名古屋大学)
XAFS測定(X線領域の吸収分光測定)は、物質を構成する原子の化学的な状態(価数や電子軌道の状態)や局所的な構造(着目原子周辺の原子数、距離、原子種)を調べられる貴重な測定である。本講では、XAFSという現象がなぜ起こるのかにまでさかのぼることで、そこにどの様な情報が含まれているかを理解し、さらにはどうすればその情報を取り出すことができるか、を理解することを目指す。



グループ講習

※以下の18テーマより3〜4テーマを受講:グループ講習のいくつかは個人でPCを持参いただくものもあります、ご不明な点がございましたら、事務局までご連絡ください。
※実際の放射光を用いた実習はございません。

グループ講習1.単結晶構造解析 --- 橋爪 大輔・足立 精宏(理化学研究所CEMS)
物質を対象とする研究において、必要な情報は目的によって多岐に渡ります。しかし、物質の構造が研究に不要であることはほとんどありません。物質の構造を得る目的で多く用いられている手法が単結晶構造解析です。本講習では、有機小分子化学物結晶の構造解析について概説し、SPring-8 における単結晶回折装置(BL02B1)を見学、デモデータを用いた構造解析実習を行います。特に実習に重点を置きます。なお、受講される方は各自PCをご用意下さい

グループ講習2.粉末X線回折によるその場観測の実際 --- 中平 夕貴(量子科学技術研究開発機構)/漆原 大典(名古屋工業大学)
放射光粉末X線回折は、微量試料、雰囲気制御の簡便などから物質の反応を追跡するなどのその場観測に適している。SPring-8の高輝度放射光を利用した粉末試料のX線回折について実習を行い、BL02B2において試料のハンドリングや測定システムの操作などの模擬実験を行う。その後、銅の高温環境下での酸化反応を追跡した回折データを用いて解析を行い、その結果について考察する。

グループ講習3.タンパク質結晶構造解析 --- 水島 恒裕(兵庫県立大学)/河村 高志(高輝度光科学研究センター)
生体内で様々な役割を持つタンパク質の構造情報は、生命機能を理解したり、そのタンパク質を標的とした薬剤をデザインするために重要である。本講習ではタンパク質のX線結晶構造解析を行う上で必要となるタンパク質結晶の作製法、タンパク質結晶を用いた回折実験、およびデータ解析などに関して学ぶ。

グループ講習4.小角X線散乱 --- 増永 啓康・関口 博史・八木 直人(高輝度光科学研究センター)
小角X線散乱は物質中のナノ構造を観察する計測法で、高分子、液晶、金属、生体物質等、広い分野で応用されている。本講義では、1)X線散乱法でナノ構造を見ることの基礎、2)小角X線散乱法で用いられるX線光学系・検出器系の構造と原理、3)小角X線散乱法の応用例(特にタンパク質・溶液散乱)、に関して平易に解説する。受講される方は各自PCをご用意下さい。

グループ講習5.放射光を利用した応力・ひずみ計測 --- 菖蒲 敬久・冨永 亜希(日本原子力研究開発機構)/城 鮎美(量子科学技術研究開発機構)
安全・安心な要素設計には、部材要素に作用する応力・ひずみを把握することが不可欠です。特に部材中に隠れている残留応力は、強度に大きな影響を及ぼすため、高精度に評価する必要があります。本講習では、応力・ひずみ測定の基礎的な原理・手順を理解することを目指します。そのため、ひずみ測定の最も基礎的な手法であるひずみゲージ法、さらには、X線回折を利用した応力・ひずみ解析法について、実体験を通して理解することを目的とします。受講される方は各自PC(EXCELソフトがインストールされていることが望ましい)をご用意下さい。

グループ講習6.X線回折・散乱を用いた薄膜構造評価 --- 小金澤 智之(高輝度光科学研究センター)
私たちの生活に欠かせない存在である半導体デバイスは、様々な機能性薄膜で構成されています。膜厚が数nmから数百nm程度の機能性薄膜の構造評価には、高輝度X線源である放射光が強力な評価ツールとなります。本講習では薄膜構造評価法であるX線回折測定やX線反射率測定の原理と応用例を紹介し、BL46XUに設置されている多軸X線回折計において測定手順を見学していただきます。可能な方はPCをご用意下さい

グループ講習7.X線吸収分光法 --- 大山 順也(熊本大学)/山添 誠司(東京都立大学)/細川 三郎(京都工芸繊維大学)/片山 真祥(高輝度光科学研究センター)
X線吸収分光法(XAS)は、特定原子(元素)の内殻電子の励起に伴う吸収スペクトルからその原子の電子状態や局所構造を知ることができる手法で、様々な分野で応用されている.本講習では、実際に利用されている測定機器に触れながら、XASの原理、特長、測定法及びXASスペクトルの解析の基礎について説明します。受講される方は各自PCをご用意下さい。指定のソフトのダウンロードが必要です。

グループ講習8.赤外分光分析 --- 池本 夕佳(高輝度光科学研究センター)/岡村 英一(徳島大学)
波長の長い赤外線を利用した分光測定について講習を行います。赤外分光では、物質の組成・結合に関する情報や、物質中の電子状態に関する情報が得られます。本グループ講習では、赤外分光の基礎と放射光の特徴・利用例に関する講義のほか、オフライン装置を利用して身近な素材の測定を行います。

グループ講習9.光電子分光(HAXPES) --- 保井 晃・高木 康多(高輝度光科学研究センター)
光電子分光は物性を支配する電子を直接取り出し調べる手法であり、物質中の電子の状態を詳細に解析できるため、基礎物性研究のみならず製品開発研究まで幅広く利活用されています。本講習では特に、SPring-8で開発された硬X線光電子分光法を中心に解説を行います。また、光電子分光の基礎的な解析方法の実習を行うとともに、先端研究事例を紹介します。

グループ講習10.メスバウアー分光入門 --- 藤原 孝将(量子科学技術研究開発機構)
メスバウアー分光法は neVレベルの非常に優れたエネルギー分解能を有し、電子が及ぼす原子核環境のわずかな変化も検出できる測定手法です。実習では鉄化合物のスペクトルの解析を通して、化合物中の価数、配位環境、磁性などの情報が選択的に得られる測定手法であることを体験していただきます。また、放射光を使った研究事例についてもご紹介いたします。

グループ講習11.結像型X線顕微鏡による顕微CT --- 高山 裕貴(兵庫県立大学)
結像型X線顕微CTは、試料内部を100 nm前後の分解能で三次元観察できる強力な手法です。X線領域では物質の屈折率がほとんど1のため、結像素子には屈折レンズではなく回折を利用した“レンズ”(ゾーンプレート)が多く用いられます。指向性の高い放射光を用いれば、吸収差が僅かな構造もその境界での屈折効果により明瞭に観察できます(屈折コントラスト)。本実習では、兵庫県BL24XUのX線結像顕微鏡装置の見学と複合繊維CTデータの解析実習を通じて、ゾーンプレートの結像特性や屈折コントラスト、CT再構成の原理を学びます。

グループ講習12.高圧力の発生と高圧下の物質科学 --- 太田 健二(東京工業大学)
講習では高圧下の物質科学と放射光X線を利用した評価に関する簡単な講義と合わせて、ダイヤモンド・アンビル・セルを用いた高圧発生技術を習得します。単結晶の高圧氷の生成、ヨウ化銀の相転移の観察、ルビー蛍光法による圧力評価などの実習を行う予定です。受講される方は各自PCをご用意下さい。

グループ講習13.ドーパント原子配列解析 --- 松下 智裕(奈良先端科学技術大学院大学)
結晶中のドーパントの原子配列を解析できる、蛍光X線ホログラフィーと光電子 ホログラフィーの最前線の研究成果を紹介し、そのデータ解析について平易に解説します。データ解析として、原子分解能ホログラムのシミュレーションおよび立体原子配列の再構成方法について実習します。なお、受講される方は各自PC(Windows)をご用意ください。指定のソフトのダウンロードが必要です。

グループ講習14.GeV光ビームの生成とサブアトミック科学 --- 村松 憲仁(東北大学)
GeV光ビームは、X線に比べて10万倍程度高いエネルギーを持ち、原子より極微の世界である原子核や素粒子などのサブアトミック科学の研究に利用されています。本講習では、レーザー光をSPring-8蓄積電子と逆コンプトン散乱させて高エネルギー光ビームを生成する手法を解説し、得られたGeV光ビームを用いて行われている研究の一端を、実験装置の見学・説明を含めて紹介します。

グループ講習15.ソフト界面の構造解析 --- 谷田 肇(日本原子力研究開発機構)/矢野 陽子(近畿大学)/今井 洋輔(九州大学)
気/液、液/液界面などの柔らかい界面(ソフト界面)に形成される分子薄膜 は,エマルションや生体膜などのソフトマターの構造と機能の解明にむけたモデ ル系として有用な研究対象です。ソフト界面の構造評価にはX線反射率法やX線吸 収分光法が有用ですが、界面を傾けることができないため特殊な測定装置が必要 になります。本講習では、ソフト界面のX線反射率測定とX線吸収分光法の実際と 解析について初歩者を対象に解説します。受講される方は各自PCをご用意下さい。指定のソフトのダウンロードが必要です。

グループ講習16.コンプトン散乱 --- 櫻井 浩(群馬大学)/辻 成希 (高輝度光科学研究センター)
2023年でコンプトン散乱発見から100年になります。コンプトン散乱は、一般に、静止した電子と光の弾性衝突として説明され、光の粒子性を表す現象として知られています。現実の物質中の電子は常に運動しているため、コンプトン散乱により得られるデータには、電子の運動量が反映されています。その解析から、物質の電子構造を調べることができるのです。試料が強磁性体の場合には、磁化を担う電子のみの情報を得ることも可能です。なお、コンプトン散乱イメージングは「後方散乱X線イメージング」としてすでに実用化しています。さらに物質の電子情報を反映したイメージングができないか、そんなプトン散乱を利用した新しいイメージング測定技術も紹介します。受講される方は各自PCをご用意下さい。

グループ講習17.X線磁気分光と磁気イメージングによる磁性材料の解析 --- 鈴木 基寛(関西学院大学)/大河内 拓雄(高輝度光科学研究センター)
磁石の性質の源は、物質中の電子にあります。X線磁気分光法では、円偏光した放射光によって電子のスピンや軌道運動を元素ごとに測定し、磁性材料を電子状態レベルで解析することができます。また、X線ナノビームや光電子顕微鏡と組み合わせることで、光学顕微鏡よりも高い分解能の磁気イメージングが行えます。講習では、装置と測定原理の説明につづいて、X線磁気分光スペクトルの解析方法と磁気イメージング画像処理の実習を行います。受講される方は各自PCをご用意下さい。

グループ講習18.放射光軟X線光電子分光による表面化学反応の”その場”観察 --- 吉越 章隆・津田 泰孝(日本原子力研究開発機構)
気体と固体表面の化学反応(表面化学反応)は、材料プロセス、表面改質、錆などの腐食劣化現象、排ガス浄化や電池の電極反応など、デバイス製造、インフラ開発、環境・エネルギー触媒などの身の回りの多くの課題と関係しています。本テーマでは、表面化学反応の原子・分子レベルの”その場”観察を実現する放射光軟X線光電子分光に関して、超高真空などの関連技術を交えながら紹介します。