実習概要
下記の9件の実習課題を予定しています.受講者の皆さんにはこの中からふたつを選択していただきます.ただし,特定の実習に希望者が集中した場合,ご希望に添えるとは限りません.ご了承下さい.なお,装置故障等の不測の事態により予定が変更される場合があります.
実習1.高圧構造物性 BL10XU 大石泰生(JASRI)
数万気圧の高圧・高密度状態にある物質では特異な物性現象が発現し、結晶構造相転移や分子解離現象等の相変態が誘起されます。ダイヤモンドアンビルセル(DAC) は数百万気圧に至る高圧発生と同時にX線回折測定が行える装置ですが、その圧力発生領域は数十ミクロンにすぎず、SPring-8の高輝度放射光の利用が不可欠です。BL10XUではDACを用いた高圧X線回折実験によって、様々な圧力誘起構造相転移の発見や高圧現象の解明が行われています。本実習ではDACの操作と高圧X線回折測定を実施し、数十万気圧での物質の結晶構造解析を体験します。
実習2.光電子分光法による固体の電子状態観察 BL17SU 大浦正樹、堀場弘司、江口律子、松波雅治、山本和矢、竹内智之(理研)
光電子分光法とは、物質に単色光を照射し、光電効果によって物質中の電子を直接外部に取り出すことで、物質の性質を決めている電子の状態を直接的に観察する手法です。電子状態を詳細に分析するためには、照射する光の高い単色性・輝度が重要であり、SPring-8の高輝度放射光を用いた光電子分光は、世界最高レベルの電子分析を可能にします。本実習では光電子分光実験における一連の作業を行うことで、その威力や難しさを実際に体験して頂きたいと思います。
実習3.X線イメージング BL19B2 梶原堅太郎(JASRI)
X線イメージングとは物体の内部構造を画像化する測定手法である。よく知られているレントゲン写真はX線イメージングの一種であり、物体内の各部位におけるX線の吸収率の違いによって生じる透過X線の強度差をフィルムに記録したものである。一方、最近盛んに研究が行われている位相イメージングは、X線の位相差を検出し、物体の内部構造を画像化する手法であり、レントゲン写真などで検出できない僅かな密度差も検出できる。当日は、これらの手法を用いて身の回りの物を観察することで、X線や放射光を身近に感じてもらい、また、手法の原理についても理解を深めてもらう。
実習4.フレネルゾーンプレートによるX線の集光 BL20XU 鈴木芳生、竹内晃久(JASRI)
フレネルゾーンプレートは同心円状に透 明帯と不透明帯を交互に並べた構造のもので、X線領域で集光結像が可能な数少ない光学素子のひとつです。硬X線顕微鏡はここ10年で長足の進歩を遂げ、数 十nmの分解能が達成されていますが、その心臓部には多くの場合最新の微細加工技術の粋を集めたゾーンプレートが使われています。ここではSPring- 8のX線顕微鏡で実際に使われているフレネルゾーンプレートを用いて集光実験を行い、さらに様々な条件下での集光結像特性の実験により、光学の知識を深めて頂くこ とを計画しています。
実習5.放射光リアルタイム光電子分光で観る固体表面化学反応の”その場”観察 BL23SU 吉越章隆、寺岡有殿(原子力機構)
最先端の 表面化学反応の研究手法である高輝度・高分解能軟X線放射光を用いた光電子分光による”その場”観察実験を実習する。超音速分子線技術により気体分子の並 進運動エネルギーを制御して、規定した単結晶表面に気体分子を照射した際に起こる化学反応を調べる。本実験では、化学反応進行中に時々刻々と変化する吸着 状態(吸着量および化学結合状態)の様相を原子・分子レベルで観察し、そのデーターを解析することを通して化学反応のメカニズムを理解する。
実習6.Measuring Atomic Motion using High Resolution Inelastic X-Ray Scattering, BL35XU, Alfred Q.R. Baron and Satoshi Tsutsui (JASRI)
We will use x-ray scattering to investigate how atoms move inside of materials. Generally, x-ray scattering is most well known as a tool for investigating the static (or time-averaged) atomic structure of a material using, e.g., powder diffraction for simpler materials and x-ray crystallography for large biological. However, given a sufficiently strong x-ray source (SPring-8) and a special, if huge, instrument (BL35XU), it is possible to investigate not only the average positions of atoms, but also the details of how they are moving, or the atomic dynamics.
We will investigate atomic motions in a crystalline material (diamond), and a liquid (water). For both materials, we can expect propagating density modulations, analogous to sound waves. Thus we should be able to see the equivalent acoustic phonon modes, though sometimes scientists are surprised that acoustic modes are visible in a liquid. We will compare the two materials, and expect that in the liquid, the modes will be broadened (damped) due to the disorder.
Note: A. Q. R. Baron (English - Saturday), Satoshi Tsutsui (Japanese - Sunday)
実習7.構造生物学 BL41XU 清水伸隆(JASRI)
生命体の構築や様々な生命現象の基本となるタンパク質は、それ自身の形(構造) によって発現する機能が決定されています。従って、それを理解することは生命活動を理解するための必須の事項であり、X線結晶構造解析は蛋白質の構造を原 子レベルで明らかに出来る強力な手法です。BL41XUはアンジュレータの生み出す強力なX線と大型高速2次元検出器を有するタンパク質のX線結晶構造解 析のためとしては世界最高峰のビームラインの1つです。本実習では、数種のタンパク質の結晶からX線回折データを元に最終的に構造を得るまでの一連の作業 を実際に行って頂き、その構造を元に様々な議論を行ってみたいと思います。
実習8.微小領域高精度X線回折 BL24XU 津坂佳幸(兵庫県立大)
近年の半導体デバイスの構造は、高機能化、高集積化の要求にとも なって、極めて微細かつ複雑になりつつある。一方で、半導体デバイスの特性は、その結晶性に敏感であり、その評価には高精度X線回折が有用である。本実習 では、高輝度光源を用いることで初めて可能となる、微小領域の結晶性を高精度で評価する手法の取得を目指す。具体的には、微小領域高精度回折実験のための 光学系の形成と、その応用例としてシリコン基板の結晶性評価を行う。
[後援:(財)ひょうご科学技術協会]
実習9.テフロンの微細加工 NewSubaru BL6 神田一浩(兵庫県立大学)
ニュー スバルが得意とする軟X線は約1nmくらいの波長を持つ光である。この領域の光は原子の内殻軌道の電子のイオン化エネルギーに相当するエネルギーを持って いるので、非常に物質との相互作用が大きいという特長を持っている。軟X線のこの特長を利用して物質の加工成形や表面改質などに利用されている。本テーマ では微細加工が難しい材料として知られているテフロン(ポリテトラフルオロエチレン)を軟X線を利用して微細加工を行い、表面形状の観測を行う。ナノテク 産業の最先端である放射光プロセスの初歩を体験して貰いたい。