大型放射光施設 SPring-8

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講義概要

基礎講座

基礎講座1.放射光の発生 安東愛之輔(兵庫県立大)

放射光発生の基本的機構とその特徴を簡単な数式をベースに直感的に理解できる様概説する。その後厳密な式を用い、SPring-8 と NewSUBARU について定量的に説明する。最後に放射光の光軸や強度の安定性を維持する上での必用事項(加速器屋の縁の下の努力など)を数値例を用いて解説する。

基礎講座2.挿入光源 原徹(理化学研究所)

挿入光源とは、加速器のなかの直線スペースに挿入した周期的な磁場構造をもつ装置で、電子ビームが通過すると強力な光を発生させる。SPring-8をはじめとする最新の放射光施設では、光の干渉効果を利用して高輝度光を発生させる挿入光源(アンジュレータ)が光源の主役になっている。本講では主にこのアンジュレータを取り上げ、その放射の原理、得られる光の特性、偏光制御の手法などについて解説する。

基礎講座3.ビームライン 後藤俊治(JASRI)

ビームラインは, 挿入光源や偏向電磁石から放射されるシンクロトロン放射光を, 利用者が必要とする光に加工して実験ステーションに導くためのものである.ビームラインは, 真空ポンプを用いて真空に保たれ, 遮蔽ハッチなどで機器を囲うことにより放射線遮蔽がほどこされている. さらに, 分光器,ミラー, シャッタ, スリットなどの機器が並べられて構成される. これらを用いて, 波長およびバンド幅, 偏光, 空間的・角度的ビーム広がりなどが制御される.本講義では, ビームラインの全体像について概説し, 結晶分光器とミラーというX線ビームラインにおいて用いられる主要光学系について説明する.

基礎講座4.X線の強度を測る 多田順一郎(JASRI)

X線ビームの強度(単位時間に単位面積あたりに入射するX線の光子数またはX線のエネルギー)は、放射光利用実験で得られたデータを規格化するとき必須な情報である。X線ビームの強度は、光子を1個ずつ計測できるような非常に弱いビームであれば、全吸収型のパルス測定で得ることも可能であるが、放射光ビームのように強度の高いビームでは、バルクな測定法によらざるを得ない。すなわち、X線ビームを何らかの物質と作用させ、その物質が受ける作用の大きさを定量することによって、間接的にX線ビームの強度を測定する方法である。
この方法が実行可能であるためには、X線ビームのエネルギー・スペクトルがa prioriに分かっていることと、X線と物質の作用の起こり易さ(すなわち相互作用の断面積)を知っていることとが必要である。放射光利用実験では、使用するX線ビームは多くの場合単色X線なので、前者の条件は自動的に成立している。また、光子と物質の主な相互作用には、光電効果、コンプトン散乱、レーリー散乱、電子・陽電子対生成があるが、それぞれ物質の種類とX線のエネルギーごとに、相互作用の断面積がデータ化されている。
本講座では、最も広く利用されている電離箱を用いたX線ビーム強度の測定について、その原理と実際を概説する。

応用講座

応用講座1.生体イメージング 梅谷啓二(JASRI)

医学利用研究での一つの方法として生体イメージングがあり、小動物を使ってガン、心臓病、脳血管疾患などの病巣を画像観察し、薬効評価や新たな治療法の研究に役立てている。生体イメージングとは動きのある生体内部を鮮明に画像化するための高速・高解像度イメージングであり、このためにSPring-8で開発された撮影装置について解説する。また、生体イメージングと対をなす摘出病巣部位の標本イメージングの役割についても紹介する。

応用講座2.核共鳴弾性・非弾性散乱 小林寿夫(兵庫県立大学)

原子核によるX線の散乱は、電子による散乱に比べて10-7 程度と小さいため通常は無視される。ところが、共鳴条件とその励起準位の寿命を利用することにより原子核からの散乱のみを観測することができる。この弾性散乱からは、原子核と電子との相互作用を通じて電子状態を、 一方非弾性散乱からは格子振動などの情報を得ることが可能である。今回の講座では、具体的な実験例を用いて核共鳴散乱の最先端を分かりやすく紹介する。

応用講座3.高温·高圧科学 佐多永吉(海洋研究開発機構)

地球内部について知ることは、我々の惑星系がどのような状態にあるか、どのように進化してきたかを考える上で大切な情報である。どのような物質が、どのような状態で存在するかを推定するために、地球を構成する物質について、地球内部に相当する高温高圧条件下で、物性測定が行われている。この講義では、マントル最下部での新しい相転移の発見など、SPring-8で行われた最新の実験結果と今後の展望について紹介する。

応用講座4.光電子分光 木下豊彦(JASRI)

物質に紫外線やX線を照射すると、光電効果により、内部の原子に束縛されていた電子が光のエネルギーを受け取り、放出される。これらの光電子の運動エネルギー、放出角度分布、スピン偏極度などを測定することで、物質の電子状態の情報を詳しく調べることができる。電子状態を理解することは物質の性質を理解することに他ならない。講演では、この実験手法、研究例を紹介するほか、最近注目を浴びている、放出光電子の空間分布を測定する光電子顕微鏡についても紹介する。