2011年夏の学校 講義概要
講義1.放射光発生の基礎 --- 北村 英男(理化学研究所/兵庫県立大学)
放射光とは、高エネルギー電子が磁場あるいは電場中で偏向を受ける時に発生する電磁放射で、指向性に優れているため輝度が高く、赤外から可視光、紫外、真空紫外、軟X線、X線を経てガンマ線に至る広大な波長域をカバーする。放射光源をその発生原理で大別すると、偏向部放射光、アンジュレータ放射光、および自由電子レーザーとなるが、いずれも高エネルギーの電子加速器が必要となる。本講義では、「はやぶさ」が持ち帰ったイトカワ粒子を例として、高輝度放射光の本質について述べるつもりである。
講義2.X線光学の基礎 --- 後藤 俊治(高輝度光科学研究センター)
X線は電磁波の一種であるが、振動数が極めて高いことから媒質中での屈折率が1よりわずかに小さくなり、可視光領域とはきわめて異なる光学的な振る舞いを示す。本講義では, 波動としてのX線について扱い、電子および原子によるX線の散乱から出発し、続いて、屈折、開口による回折、媒質表面における反射、複数の散乱源・回折源からのX線の干渉、三次元の周期的構造を有する結晶からのBragg反射などについて説明する。さらに、これらの基本的な性質を用いたX線光学素子の実際の使用例について、全反射ミラーや結晶分光器を中心に説明する。
講義3.X線の強度を測る --- 八木 直人(高輝度光科学研究センター)
ほとんどすべての放射光実験は、X線の強度を測定する実験です。それではX線の強度を測るにはどんな方法があるでしょうか?X線検出器はどのような原理に基づいてX線強度を測定しているのでしょうか?そもそもX線の強度とは何でしょうか?X線強度を正確に測定するには、何に気をつけたらよいでしょうか?測定したX線強度は、どのような過程を経てデータ処理されるのでしょうか?等々の疑問にお答えします。
講義4.X線自由電子レーザー --- 新竹 積(理化学研究所)
SPring-8にX線自由電子レーザー施設「SACLA(さくら)」が完成しました。このX線レーザーを使えば、これまで結晶化が困難なためX線構造解析が不可能とあきらめられていた膜タンパク質など生理学上重要な
物質の3次元構造の解析が可能となります。この講義では、X線FELの歴史的な位置付けと国際的な状況、その動作原理、加速器構成、運転の状況、そして得られる光の特徴と応用分野について、初心者にもわかりやすく説明します。
講義5.回折散乱の基礎 ---水木純一郎(関西学院大学理工学部)
「ものを原子レベルで観る」ことは「観えなかったものが見える」ことで大変エキサイティングなことです。これを可能にするのがX線を利用した回折です。本講義ではX線回折は電磁波と電子との相互作用であるところから理解をするために、その定量的な取り扱いを数学的な表現法で解説を行います。さらに放射光X線回折の特長であるエネルギー可変性を利用した異常分散法、偏光の利用法についても解説いたします。
講義6.XAFS --- 西畑 保雄(日本原子力研究開発機構/関西学院大学)
XAFSとは、物質中にある注目する元素の内殼電子がX線により励起され、周囲の原子と相互作用するために現れる吸収スペクトルの微細構造である。それを解析することにより、X線吸収原子の電子状態や、その周囲の局所構造を知ることができる。講義では、XAFSの基本原理と実験及び解析方法を述べ、応用例を紹介する。
講義7.軟X線スペクトロスコピー入門 --- 松田 巖(東京大学 物性研究所)
物質は内側の「バルク」と外側の「表面・界面」から構成され、それぞれ特有の物性を示します。そしてそれら「物性」を理解するには物質の原子配列や電子構造、スピン状態などを知る必要があります。軟X線領域の光による分光法は、これら全ての情報を直接取り出すことができる重要な光波長領域です。本講ではそれら軟X線スペクトロスコピーを解説するとともに、先端分光実験による物質科学の研究を紹介します。