2013年夏の学校 講義概要
講義1.放射光発生の基礎 --- 北村 英男(理化学研究所)
放射光とは、高エネルギー電子が磁場あるいは電場中で偏向を受ける時に発生する電磁放射で、指向性に優れているため輝度が高く、赤外から可視光、紫外、真空紫外、軟X線、X線を経てガンマ線に至る広大な波長域をカバーする。放射光源をその発生原理で大別すると、偏向部放射光、アンジュレータ放射光、および自由電子レーザーとなるが、いずれも高エネルギーの電子加速器が必要となる。本講義では、干渉性を含めた高輝度放射光の性質について述べると共に、X線レーザー発生原理の直感的理解を与えるつもりである。
講義2.X線光学の基礎 --- 山崎 裕史(高輝度光科学研究センター/兵庫県立大学)
放射光ビームラインの多くには光学系と呼ばれる区域があり、分光器やミラー(反射鏡)等が配置されている。分光器は広帯域の放射光の中から特定の 波長成分だけを抜き取る装置である。ミラーは、分光器で取りきれない高次光の除去や、集光の用途で用いられる。分光器やミラーは、散乱・屈折・反 射というX線光学現象の基本要素の応用である。本稿では、X線光学現象の説明から始めて、分光器とミラーの原理を紹介する。
講義3.回折散乱の基礎 --- 水木 純一郎(関西学院大学理工学部)
私たちが日常的に行っている観察とは“観察の対象に可視光領域の電磁波を照射し、回折・散乱されてくる電磁波を目という器官を用いて検出・結像すること”であると言えるのではないでしょうか。電磁波の一種であるX線を用いて原子や電子を観察する場合でも、回折・散乱が重要なキーワードになります。本講義では高校レベルの電磁気学や波動の復習から話を始めて、X線の回折・散乱現象の基本となる考え方とその数学的な表現法についての解説を行う予定です。
講義4.X線自由電子レーザー --- 片山 哲夫(高輝度光科学研究センター)
2011年3月、SPring-8にX線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA(さくら)」が完成、6月にはレーザー発振を達成しました。XFELは高強度、超短パルス、コヒーレンスという特徴を持った新しい光源です。このXFELにより、化学反応などの高速現象の観察、膜タンパク質など生理学上重要な物質の3次元構造の解析、また高強度X線による極限状態生成など、これまでに困難とされてきた研究が可能となることが期待されています。この講座では、SACLAの特徴とその運転状況、応用分野についてわかりやすく説明します。
講義5.X線の強度を測る --- 八木 直人(高輝度光科学研究センター)
ほとんどすべての放射光実験では、X線の強度を測定しています。それではX線の強度を測るにはどんな方法があるでしょうか?X線検出器はどのような原理に基づいてX線強度を測定しているのでしょうか?そもそもX線の強度とは何でしょうか?X線強度を正確に測定するには、何に気をつけたらよいでしょうか?測定されたX線強度は、どのような過程を経てデータ処理されるのでしょうか?等々の疑問にお答えします。
講義6.XAFS --- 西畑 保雄(日本原子力研究開発機構/関西学院大学)
XAFSとは、物質中にある注目する元素の内殼電子がX線により励起され、周囲の原子と相互作用するために現れる吸収スペクトルの微細構造である。それを解析することにより、X線吸収原子の電子状態や、その周囲の局所構造を知ることができる。講義では、XAFSの基本原理と実験及び解析方法を述べ、応用例を紹介する。
講義7.軟X線スペクトロスコピー入門 --- 松田 巖(東京大学 物性研究所)
スペクトロスコピー(分光学)では、光を物質に照射することで物性情報を調べます。その中でも本稿では、物質の元素・化学種分析、構造決定、電子状態分析、スピン・磁性分析が可能な放射光軟X線を利用したものを取り上げます。まず半古典的量子論にもとづいた軟X線と物質の相互作用を説明します。そして種々の軟X線分析法のうち、代表的な光電子分光、軟X線吸収分光、軟X線発光分光を紹介します。