2015年夏の学校 実習概要
15件の実習課題を予定しています。受講者の皆さんにはこの中から2テーマを選択していただきます。ただし、特定のテーマに希望者が集中した場合、ご希望に添えるとは限りませんのでご了承下さい。また、装置故障等の不測の事態により予定が変更される場合がありますので、ご理解をお願い致します。
BL01B1:"その場" XAFS計測 --- 宇留賀 朋哉・新田 清文・加藤 和男・伊奈 稔哲(JASRI)
XAFS法は、結晶構造を形成していない物質や、濃度が希薄な試料に対しても、局所構造や電子状態を解析できる手法として、広い研究分野で利用されている。本実習では、まずXAFS計測を行うための試料調整と、放射光光学素子の位置調整について実習を行う。その後、触媒粒子の形成反応に対して、"その場"XAFS測定を行い、触媒粒子内でどのような構造変化や電子状態変化が起こるかを解析する。
BL02B1:単結晶構造解析の入門 --- 野上 由夫(岡山大学)、杉本 邦久・安田 伸広(JASRI)
単結晶は粉末結晶に比べ、以下の特徴を有する。1)晶系や結晶の対称性(空間群)の決定が容易である。2)並進対称性の破れ(格子変調)の検出も容易である。本実習では、単結晶構造解析の原理を解説し、CCD検出器を用いた回折装置で実際に測定をおこない、低分子単結晶の原子座標を精密に決定する。
BL07LSU:推理の放射光元素分析 --- 原田 慈久・松田 巖(東京大学)
化学反応などの自然現象の理解は基礎科学の発展だけでなく技術開発の設計指針も与えます。その中で構築されたモデルの実証には、今や科学的分析が不可欠であり、中でも放射光を用いた元素分析は様々な分野で利用されています。本実習では、見た目が同じでも化学組成の異なる合金の光電子分光による元素分析を実施してもらい、実験的証拠をもとに推理を働かせ、課題解決へと導く過程を学んでいただきます。
BL11XU:XAFSによる溶液内イオンの光酸化還元挙動解明 --- 塩飽 秀啓・矢板 毅・小林 徹(JAEA)
XAFS測定法は、測定試料の形態問わず目的元素の局所構造を解析できる手法として、広く利用されています。本実習では、アンジュレータ高輝度放射光とQuickXAFS測定法を利用して、光酸化還元反応によって徐々に変化する構造とスペクトルのその場観察を行い、さらにUV-VIS吸収スペクトルとの比較から考察します。また、XAFSデータ解析の基礎について学習します。
BL13XU:サブミクロン集光放射光ビームによる局所領域回折実験 --- 木村滋(JASRI/岡山大学)
SPring-8のような第三世代放射光源の最大の特長は輝度が高いことにあります。この特長は微小なX線ビームを形成する場合に威力を発揮します。本実習では、SPring-8の放射光をゾーンプレートと呼ばれる集光素子でサブミクロンサイズに集光するとともに、その集光ビームを利用したX線回折を実施します。この手法が局所領域構造を調べる上で非常に有効であることを、ミクロン領域に選択成長した化合物半導体細線構造を測定することで実感してもらいます。
BL14B2:XAFS分析の基礎 --- 本間 徹生・高垣 昌史・大渕 博宣(JASRI)
XAFS法は、結晶化していない物質や、濃度が希薄な材料に対しても、局所構造や電子状態を解析できる手法として、触媒、電池、発光材料など様々な研究分野で利用されています。本実習では、XAFS計測を行うための試料調整と、その原理に忠実な透過法による測定およびフリーの解析ソフトを用いたスペクトル解析を行い、XAFS分析の基礎について学んで頂く予定です。
BL17SU:軟X線でみる液体の世界 --- 徳島 高(理研)
液体中の分子や原子は、固体のように整列してはいないが、気体のようにばらばらに飛び回っているわけではない。このような中間的な系において分子を構成する電子はいったいどのようになっているのだろうか? この疑問への答えは実はまだないのだが、実験技術の進歩により可能となった軟X線を用いた元素選択的な観測によりその一端が明らかになりつつある。実習では軟X線吸収および軟X線発光による液体中の分子の電子状態観測実験を行い液体と電子状態について考える。
BL19B2:粉末X線回折 --- 渡辺 剛・井上 大輔・佐藤 眞直(JASRI)、廣沢一郎(JASRI/岡山大学)
粉末X線回折は、構造解析技術として物質科学研究での重要な技術であるばかりでなく、複数の化合物から成る材料の組成分析技術として産業界(企業)でも広く用いられています。高輝度な放射光を用いた粉末X線回折では、通常は検出が困難な微量成分も短時間で測定できるため、機能性セラミックスの開発などに盛んに用いられています。今回は、BL19B2の大型デバイシェラーカメラで良質なデータを取得するための装置調整と測定の実習を予定しています。
BL20B2:放射光X線画像計測の基礎 --- 上杉 健太朗(JASRI)
放射光X線を用いた画像計測では、空間分解能だけではなく感度や信号量の定量性なども重要な要素である。本実習ではいくつかのX線画像計測用の検出器を使用しその特性を測る事で、放射光X線の特徴や検出器の特性を知る事を目的とする。
BL22XU:高圧下における物質の状態変化 --- 綿貫 徹(JAEA)
日常では気体状態の物質も、1万気圧以上の高圧下では固体状態へと変化する。実習では、実際に1万気圧以上への加圧を体験し、放射光X線回折実験により希ガスが固体状態へと変化する様子を観察する。また、固化前の高密度流体状態のX線回折像と固化後の結晶状態の回折像の違いについて学び、固化前後において原子間距離がどのように変化していくかを決定する。
BL25SU:高分解能軟X線光電子分光 --- 横谷 尚睦(岡山大学)、中村 哲也・室 隆桂之(JASRI)
光電子分光は、光電効果を利用して物質の電子状態を観測する手法です。価電子帯の測定から物性発現の起源や機構を理解する事ができるとともに、内殻準位測定からは構成元素の種類やその化学結合状態を知る事が出来ます。SPring-8が発する高強度・高分解能軟X線は、実験室光源では難しかった微量元素の検出やその化学結合状態の観測を可能にしました。本実習では、不純物をドープしたダイヤモンド等を測定試料として用い、その中に含まれる微量不純物元素の同定や化学結合状態を調べる予定です。
BL26B1:単結晶回折(タンパク質) --- 熊坂 崇(JASRI/理研/関西学院大学)
BL26B2:単結晶回折(タンパク質) --- 引間 孝明・吾郷 日出夫(理研)
単結晶X線回折は、分子の立体構造を原子レベルで詳細に明らかに出来る強力な手法で、幅広い分野で利用されています。生命科学分野においてもタンパク質の構造から機能を明らかにする構造生物学研究の主要な手法として用いられていますが、分子量が大きいことや回折分解能が限られているために、さまざまな手法が開発され独自の発展を遂げています。本実習ではこの解析の一連の流れを習得するために、CCD検出器による結晶回折データ測定とSAD法による位相決定、計算機を用いた分子構造の構築と精密化を体験していただきます。
BL40B2:X線小角散乱法を用いたタンパク質分子の構造解析 --- 八木 直人・関口 博史(JASRI)
X線小角散乱法(SAXS)は、数nmから数µmの大きさや周期を持つ物質について、ダイレクトビーム近傍に観測される散乱X線の強度分布から、その構造を解析する手法です。これは高分子から粘土まであらゆる種類の物質に応用できる手法ですが、タンパク質溶液に適用することにより、“生きた状態”に近いタンパク質分子の構造を知ることができます。本実習ではタンパク質溶液からの散乱データ収集および分子構造予測に至る一連の解析を行い、タンパク質分子の構造-機能相関について考察します。SAXSの基礎と測定手法に関する知識は、タンパク質以外の試料にも役立つと思います。BL46XU:X線反射率 --- 小金澤 智之(JASRI)
可視光と同じようにX線も屈折率が変化する界面においてX線の反射・全反射・屈折が起こります。これらの現象を利用した分析手法がX線反射率です。X線反射率では膜厚が数nmの薄膜の密度や膜厚を評価することができます。実習ではシリコン基板やガラス基板に成膜された薄膜の膜厚評価を通して、X線の反射・全反射現象を体験していただきます。