2016年夏の学校 実習概要
20件の実習課題を予定しています。受講者の皆さんにはこの中から2テーマを選択していただきます。ただし、特定のテーマに希望者が集中した場合、ご希望に添えるとは限りませんのでご了承下さい。また、装置故障等の不測の事態により予定が変更される場合がありますので、ご理解をお願い致します。
BL01B1:"その場" XAFS計測 --- 宇留賀 朋哉・加藤 和男・伊奈 稔哲(JASRI)
XAFS法は、結晶構造を形成していない物質や、濃度が希薄な試料に対しても、局所構造や電子状態を解析できる手法として、広い研究分野で利用されている。本実習では、まずXAFS計測を行うための試料調整と、放射光光学素子の位置調整について実習を行う。その後、触媒粒子の形成反応に対して、"その場"XAFS測定を行い、触媒粒子内でどのような構造変化や電子状態変化が起こるかを解析する。
BL02B1:単結晶構造解析の入門 --- 池田 直(岡山大学)、杉本 邦久・安田 伸広(JASRI)
結晶構造解析は、単結晶が形成する逆格子空間を探り、そのなかに存在するブラッグ点の精密な座標位置と回折線強度を集計して計算・解析される。この実習ではBL02B1 に整備された4軸回折計と振動写真装置両方を用いて、逆格子空間をどのように考えたら良いのかと言う基本を学び、実際の装置を用いデータの収集とその処理計算について実習する。
BL02B2:粉末X線構造解析の基礎 --- 杉本 邦久・河口 彰吾(JASRI)
物質の性質は、結晶構造、すなわち、構成原子の種類と配列によって決まります。例えば、ダイアモンドと黒鉛(グラファイト)は炭素の同素体ですが、ダイアモンドは透明で非常に硬いのに対して、黒鉛は黒色で劈開します(鉛筆で字が書けるのは劈開するためです)。実習では、ダイアモンドと黒鉛(鉛筆の芯)のX線回折プロファイルを測定し、測定したデータからリートベルト法による結晶構造解析を行います。その結果から、異なる特性の原因となる結晶構造の違いについて考察します。
BL04B2:高エネルギーX線を用いたガラスの構造解析 --- 尾原 幸治(JASRI)・小野寺 陽平(京都大学)
無秩序な構造を持つと言われているガラスの原子配列にも実は秩序が存在します。しかし、結晶のような長距離にわたる秩序ではないため、ガラスの原子配列を解析するためには二体分布関数(Pair Distribution function, PDF)解析という手法が用いられます。本実習では、SPring-8の高エネルギーX線を用いたPDF解析によってガラスの原子配列の観察を試み、“無秩序に見えるガラス構造の中に存在する秩序”を明らかにします。
※今回は特にガラスを対象とした解析を行います。
BL07LSU:推理の放射光元素分析 --- 松田 巖(東京大学)
実習の中に推理的要素を盛り込んでみました。実際、研究現場では様々なモデルが構築されますが、科学的検証によりそれらが淘汰されていきます。そこで本実習では古典的名作の推理小説を参加者に事前に読んでいただき、それぞれの推理結果を考えてきてもらいます。そして、小説内の証拠品と同じ物質について実際に光電子分光測定を実施してもらい、それぞれの推理結果を元素分析により確認します。本実習では、参加者と推理を楽しみながら、光電子分光の原理及び実験法を学ぶことができます。
BL11XU:半導体結晶成長のその場X線回折測定 --- 高橋 正光・佐々木 拓生(量子機構)
最先端の電子デバイスの作製においては、原子レベルで構造を制御した人工的な結晶を成長させることが必要とされています。高輝度放射光を用いると、結晶成長のような動的な現象にともなう物質の構造変化をその場測定することが可能になり、精密な構造制御につながる情報を得ることができます。本実習では、半導体の薄膜結晶を成長させながら、その表面構造を放射光X線回折で観察し、結晶成長のメカニズムを考察します。
BL13XU:サブミクロン集光放射光ビームによる局所領域回折実験 --- 木村 滋(JASRI/岡山大学)、隅谷 和嗣(JASRI)
SPring-8のような第三世代放射光源の最大の特長は輝度が高いことです。この特長は微小なX線ビームを形成する場合に威力を発揮します。本実習では、SPring-8の放射光をゾーンプレートと呼ばれる集光素子で数100 nmサイズに集光するとともに、その集光ビームを利用したX線回折実験を実施します。この手法が局所領域構造を調べる上で非常に有効であることを、ミクロン領域に選択成長した化合物半導体細線構造を測定することで実感してもらいます。
BL14B2:XAFS分析の基礎 --- 本間 徹生・大渕 博宣・内山 智貴(JASRI)
XAFS法は、結晶化していない物質や、濃度が希薄な材料に対しても、局所構造や電子状態を解析できる手法として、触媒、電池、発光材料など様々な研究分野で利用されています。本実習では、XAFS計測を行うための試料調整と、その原理に忠実な透過法による測定およびフリーの解析ソフトを用いたスペクトル解析を行い、XAFS分析の基礎について学んで頂く予定です。
BL17SU:光電子顕微鏡 ~ナノ分解能で見る元素分布と磁気構造~ --- 大河内 拓雄・保井 晃(JASRI)・大浦 正樹(理研/関西学院大学)
光電子顕微鏡(PEEM)は、ナノ~ミクロンのスケールで、物質表面の電子状態や磁気状態について2次元的に調べることが出来る装置です。エネルギー・偏光可変の軟X線放射光と組み合わせることで元素毎に磁気構造を調べることが可能で、先端物質科学の研究分野に広く活用されています。本実習では、標準試料を用いてPEEM測定の基礎を習得するとともに、応用例として鉄の単結晶試料を用いた磁区観察を体験して頂きます。
BL20B2:放射光X線画像計測の基礎 --- 上杉 健太朗(JASRI)
放射光X線を用いた画像計測では、空間分解能だけではなく感度や信号量の定量性なども重要な要素である。本実習ではいくつかのX線画像計測用の検出器を使用しその特性を測る事で、放射光X線の特徴や検出器の特性を知る事を目的とする。
BL23SU:放射光光電子分光法による物質の電子状態分析 --- 藤森 伸一(JAEA)
物質の性質は物質内の電子構造によって決定されています。光電子分光法は、光電効果を利用して物質の組成と電子状態を直接的に調べることができる実験手法です。高輝度放射光の利用によって角度分解光電子分光を行うことも可能となり、物質のバンド構造やフェルミ面を決定することもできます。実習では、光電子分光法による物質の組成分析について体験していただく予定です。
BL24XU:放射光X線計算機トモグラフィ(CT)法の基礎 --- 篭島 靖・漆原 良昌(兵庫県立大学)
医療診断や製品検査法として一般的に馴染みの深いX線CT法は、物体内部を非破壊で可視化できるために様々な分野で広く利用されています。大強度で平行性の高い放射光X線を利用することで、試料の大きさは限られますが、通常の吸収コントラスト法では観察が難しい構造を高空間分解能で迅速に取得できます。本実習では、放射光を利用したCT法について、その原理、装置について学ぶとともに、試料準備から測定までを実際に行い、その特性について理解していく予定です。
BL25SU:高分解能軟X線光電子分光 --- 横谷 尚睦(岡山大学)、寺嶋 健成(岡山大学)、中村 哲也・室 隆桂之(JASRI)
光電子分光は、光電効果を利用して物質の電子状態を観測する手法です。価電子帯の測定から物性発現の起源や機構を理解する事ができるとともに、内殻準位測定からは構成元素の種類やその化学結合状態を知る事が出来ます。SPring-8が発する高強度・高分解能軟X線は、実験室光源では難しかった微量元素の検出やその化学結合状態の観測を可能にしました。本実習では、不純物をドープしたダイヤモンド等を測定試料として用い、その中に含まれる微量不純物元素の同定や化学結合状態を調べる予定です。
BL33LEP:GeV光ビームと物質の相互作用 --- 中野 貴志・與曽井 優・郡 英輝(大阪大学)・新山 雅之(京都大学)
8GeV蓄積電子ビームに紫外レーザー光を照射すると逆コンプトン散乱により1.5~2.4 GeVのレーザー電子光と呼ばれるGeV光ビームが得られる。本実習では、レーザー電子光の生成を確認するとともにGeV光ビームと物質の相互作用による電子・陽電子対の生成やハドロンと呼ばれるクォークや反クォークから構成される粒子の生成を確認する。
BL38B1 :単結晶回折(タンパク質) --- 熊坂 崇(JASRI/理研/関西学院大学)
BL44XU:単結晶回折(タンパク質) --- 中川 敦史・山下 栄樹・東浦 彰史(大阪大学)
単結晶X線回折は、分子の立体構造を原子レベルで詳細に明らかに出来る強力な手法で、幅広い分野で利用されています。生命科学分野においてもタンパク質の構造から機能を明らかにする構造生物学研究の主要な手法として用いられていますが、分子量が大きいことや回折分解能が限られているために、さまざまな手法が開発され独自の発展を遂げています。本実習ではこの解析の一連の流れを習得するために、CCD検出器による結晶回折データ測定とSAD法による位相決定、計算機を用いた分子構造の構築と精密化を体験していただきます。
BL40B2:X線小角散乱法を用いたタンパク質分子の構造解析 --- 八木 直人・関口 博史(JASRI)
BL45XU:X線小角散乱法を用いたタンパク質分子の構造解析 --- 引間 孝明・吾郷 日出夫(理研)
X線小角散乱法(SAXS)は、数nmから数µmの大きさや周期を持つ物質について、ダイレクトビーム近傍に観測される散乱X線の強度分布から、その構造を解析する手法です。これは高分子から粘土まであらゆる種類の物質に応用できる手法ですが、タンパク質溶液に適用することにより、“生きた状態”に近いタンパク質分子の構造を知ることができます。本実習ではタンパク質溶液からの散乱データ収集および分子構造予測に至る一連の解析を行い、タンパク質分子の構造-機能相関について考察します。SAXSの基礎と測定手法に関する知識は、タンパク質以外の試料にも役立つと思います。
BL43IR:顕微赤外分光による種々の組成分布解析 --- 池本 夕佳・森脇 太郎(JASRI)
波長の長い赤外線を利用した実験を行います。利用する波長はおよそ2 ~ 12µmで、物質に含まれる様々な物質の振動を観測することができます。測定を通して、物質の組成や結合に関する情報が得られます。特に、放射光を利用した赤外分光では、波長と同程度の狭い領域の分光が可能で、微小試料や分布状態の解明に威力を発揮します。実習では、身近な素材を対象として、試料準備・調整・測定・解析を行います。
BL46XU:硬X線光電子分光 --- 安野 聡・小金澤 智之(JASRI)
硬X線光電子分光は従来の光電子分光に比べて数倍以上大きい分析深さを有し、試料深部や界面における化学結合状態・電子状態を非破壊で調べることができる比較的新しい分析手法です。近年は電池や半導体を中心として、幅広い分野で利用が進んでいます。実習では様々な薄膜試料について、測定→元素の同定→化学結合状態の推定→試料構造の考察までの一連の分析の流れを体験して頂く予定です。