大型放射光施設 SPring-8

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2016年夏の学校 講義概要

講義1.放射光発生の基礎 --- 金城 良太(理化学研究所)
放射光、特にシンクロトロン放射光は、高エネルギー電子が磁場により偏向を受けた時に発生する電磁放射で、指向性に優れ、輝度が高く、マイクロ波から赤外、可視光、紫外、真空紫外、軟X線、硬X線、ガンマ線までの幅広い波長領域をカバーする。本講義では、代表的なシンクロトロン放射である偏向電磁石放射、アンジュレータ放射、コヒーレントシンクロトロン放射、自由電子レーザーなどについて、その性質を述べるとともに発生原理の直感的な説明を試みる。

講義2.X線光学の基礎 --- 山崎 裕史(高輝度光科学研究センター/兵庫県立大学)
放射光ビームラインの多くには光学系と呼ばれる区域があり、分光器やミラー(反射鏡)等が配置されている。分光器は広帯域の放射光の中から特定の波長成分だけを抜き取る装置である。ミラーは、分光器で取りきれない高次光の除去や、集光の用途で用いられる。分光器やミラーは、散乱・屈折・反射というX線光学現象の基本要素の応用である。本稿では、X線光学現象の説明から始めて、分光器とミラーの原理を紹介する。

講義3.X線の強度を測る --- 雨宮 慶幸(東京大学)
X線は物質によって回折または散乱されるときは波として振る舞いますが、検出されるときは粒子(光子)として振る舞います。試料から回折・散乱されたX線の強度を測ることは、X線光子の数を数えることであり、その数を場所と時刻の関数として測定する装置がX線検出器です。最初に、光の波と粒子の二重性と光子統計について解説します。次に、1)X線検出器でX線が検出される原理、2)放射光用X線検出器に求められる性能、3)各種のX線検出器の構造と性能、について平易に解説します。

講義4.X線自由電子レーザー --- 大和田 成起(理化学研究所)
2011年3月、SPring-8にX線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」が完成し、同年6月にはレーザー発振を達成しました。SACLAでは、化学反応などの超高速現象の追跡、膜タンパク質など生理学上重要な物質の3次元構造の無損傷解析、高強度X線による極限状態生成などその特徴を生かした様々な研究がなされています。この講座では、SACLAの特徴と、運転状況、応用分野について説明します。

講義5.回折・散乱の基礎と物質科学研究への応用 --- 藤原 明比古(関西学院大学)
物質の性質を理解するうえで、原子配列は、最も基本的、かつ、重要な情報の一つであり、放射光を用いた回折・散乱実験はそれを明らかにする有力な手段です。本講義では、回折・散乱現象の基礎から出発し、原子によるX線の回折・散乱、回折・散乱実験による原子配列の理解について概観します。X線回折実験による結晶構造解析はわかりやすい例ですが、薄膜結晶や周期性を持たない非晶質材料、集合体の構造を理解するための放射光実験の例についても解説します。

講義6.X線分光の基礎 --- 水牧 仁一朗(高輝度光科学研究センター)
X線領域(数百eV程度から十数keV程度のエネルギー領域)の光は高エネルギーを持ち、特定の元素の内殻軌道の電子を伝導帯に励起させることが可能となる。これにより、物質構成原子の各々の電子状態を元素選択的に、詳細に知ることができ、これは他の分光法にはない特長である。講義では、X線分光の実験手法とその原理を解説し、「元素選択的」という特長を用いた研究例を紹介する。

講義7.軟X線を用いた磁性体研究入門 --- 和達 大樹(東京大学 物性研究所)
本講義では、軟X線を用いた磁性体の研究について紹介する。軟X線を用いることにより、3d遷移金属の2p→3dの吸収端での共鳴現象を使うことができ、2p内殻の大きなスピン軌道相互作用を利用して磁気的なシグナルが得られる。数多くある実験手法のうち主に、反強磁性体・らせん磁性体に対する共鳴軟X線回折と、強磁性体に対するX線吸収分光の磁気円二色性を取り上げる。最近の展開として、X線の時間構造を使う時間分解型の測定にも触れたい。