2018年夏の学校 実習概要
22件の実習課題を予定しています。受講者の皆さんにはこの中から2テーマを選択していただきます。ただし、特定のテーマに希望者が集中した場合、ご希望に添えるとは限りませんのでご了承下さい。また、装置故障等の不測の事態により予定が変更される場合がありますので、ご理解をお願い致します。
BL01B1:"その場" XAFS計測 --- 加藤 和男・伊奈 稔哲・宇留賀 朋哉(JASRI)
BL14B2:XAFS分析の基礎 --- 本間 徹生(JASRI)・廣沢 一郎(JASRI/岡山大学)
BL08B2:XAFSによる担持試料酸化及び還元反応のその場観察 --- 李 雷・篭島 靖・横山 和司(兵庫県立大学)
・本実習は3つのビームラインで行われます。実習内容は若干異なりますが、学習する手法は同じであるため、一緒にして希望を募ります。ビームラインを個別に選択して希望することはできませんが、もしいずれかのビームラインでの実習を強く希望する場合には、事務局へのコメント欄に理由を記述してください。
(BL01B1)
XAFS法は、結晶構造を形成していない物質や、濃度が希薄な試料に対しても、局所構造や電子状態を解析できる手法として、広い研究分野で利用されている。本実習では、まずXAFS計測を行うための試料調整と、放射光光学素子の位置調整について実習を行う。その後、触媒粒子の形成反応に対して、"その場"XAFS測定を行い、触媒粒子内でどのような構造変化や電子状態変化が起こるかを解析する。
(BL14B2)
XAFS法は、結晶化していない物質や、濃度が希薄な材料に対しても、局所構造や電子状態を解析できる手法として、触媒、電池、発光材料など様々な研究分野で利用されています。本実習では、XAFS計測を行うための試料調整と、その原理に忠実な透過法による測定およびフリーの解析ソフトを用いたスペクトル解析を行い、XAFS分析の基礎について学んで頂く予定です。
(BL08B2)
X線吸収分光(XAFS)法は古くから物質に含まれる元素の状態分析の手段として使われてきた。このX線吸収スペクトルには微細構造があり、その詳細な解析から物質の局所的な構造の情報を得ることができる。また吸収端近傍構造(XANES) から原子の化学状態(価数)などについての情報が得らる。X線吸収分光 (XAFS)のin-situ測定を用いて、X線吸収分光(XAFS)の基礎実験手法及び基本解析手順などについて、実験をしながら本講義を実施する。
BL02B1:単結晶構造解析の入門 --- 野上 由夫(岡山大学)・杉本 邦久・安田 伸広(JASRI)
単結晶は粉末結晶に比べ、以下の特徴を有する。1)晶系や結晶の対称性(空間群)の決定が容易である。2)並進対称性の破れ(格子変調)の検出も容易である。本実習では、単結晶構造解析の原理を解説し、CCD検出器を用いた回折装置で実際に測定をおこない、低分子単結晶の原子座標を精密に決定する。
BL04B1:大容量高圧プレスと白色X線を用いたX線回折実験 --- 肥後 祐司(JASRI)
BL04B1は川井型大型プレスと放射光硬X線を利用して、約100万気圧までの高圧下での相変化や各種物性を測定するビームラインです。本実習では塩化カリウムの高圧相転移を約2万気圧の高圧下でその場観察します。高圧実験の手順のほか、白色X線を光源としたエネルギー分散型X線回折法を実習します。
BL04B2:高エネルギーX線を用いたガラス・液体の構造解析 --- 尾原 幸治(JASRI)
最先端の機能性材料には、ガラスや液体が数多く存在します。ガラスや液体のような乱れた原子配列を解析するために、二体分布関数(Pair Distribution function, PDF)解析という手法が用いられます。 本実習では、SPring-8の高エネルギーX線を用いたPDF解析によって、一見無秩序に思えるガラスの原子配列の解析を行います。
BL07LSU:推理の放射光元素分析 --- 松田 巖・原田 慈久・和達大樹(東京大学)
実習の中に推理の要素を盛り込んでみました。実際、研究現場では様々なモデルが構築されますが、科学的検証によりそれらが淘汰されていきます。そこで本実習では古典的名作の推理小説を参加者に事前に読んでいただき、それぞれの推理結果を考えてきてもらいます。そして小説内の証拠品と同じ物質について光電子分光を勉強しながら実際の測定を実施してもらい、それぞれの推理結果を元素分析で確認します。BL07LSUではユーザーによる最先端軟X線実験装置が開発され、中にはX線自由電子レーザー用のものもあります。実習ではそれらの装置群も紹介する予定です。
BL13XU:サブミクロン集光放射光ビームによる局所領域回折実験 --- 木村 滋(JASRI/岡山大学)・隅谷 和嗣(JASRI)
SPring-8のような第三世代放射光源の最大の特長は輝度が高いことです。この特長は微小なX線ビームを形成する場合に威力を発揮します。本実習では、SPring-8の放射光をゾーンプレートと呼ばれる集光素子で数100 nmサイズに集光するとともに、その集光ビームを利用したX線回折実験を実施します。この手法が局所領域構造を調べる上で非常に有効であることを、ミクロン領域に選択成長した化合物半導体細線構造を測定することで実感してもらいます。
BL14B1:放射光を利用した高温高圧合成 --- 齋藤 寛之(量子機構)・城 鮎美(量子機構)
高温高圧合成法は新規物質実現のための有効な方法の一つです。ここに放射光その場粉末X線回折法を組み合わせると「見ながら合成」することが可能となり、非常に効率的に新規物質探索を進められる様になります。本実習ではこの手法を用いて常圧近くの圧力では合成することができない金属水素化物の合成を行います。高温高圧実験に必要なパーツの準備や組み上げも実習します。
BL19B2:粉末X線回折 --- 大坂 恵一(JASRI)、廣沢 一郎(JASRI/岡山大学)
粉末X線回折は、構造解析技術として物質科学研究での重要な技術であるばかりでなく、複数の化合物から成る材料の組成分析技術として産業界(企業)でも広く用いられています。高輝度な放射光を用いた粉末X線回折では、通常は検出が困難な微量成分も短時間で測定できるため、機能性セラミックスの開発などに盛んに用いられています。今回は、BL19B2のハイスループット粉末回折計で良質なデータを取得するための装置調整と測定の実習を予定しています。
BL19LXU:放射光時間分解X線回折法 --- 田中 義人(兵庫県立大学)
放射光のパルス時間構造を用いたピコ秒時間分解X線回折法により、物質の高速構造ダイナミクスを調べることができます。これは放射光パルスX 線をストロボのように使う手法です。さらに、X線自由電子レーザー施設ではフェムト秒時間分解での計測も可能です。これらの高速の時間分解XX線回折法はどのようにして行うことができるのか、フェムト秒パルスレーザーと放射光パルスX線の同期方法、観測方法などの技術についての実習 の機会をもち、放射光を用いた超高速計測法を体験していただきます。
BL20B2:放射光X線画像計測の基礎 --- 星野 真人・上椙 真之(JASRI)
放射光を利用したX線画像計測は、レントゲン撮影のように計測対象である試料の内部構造を単に可視化するだけでなく、得られた画像データを定量的に取り扱うことにより、様々な情報を引き出すことができます。本実習では、X線画像計測を行うための基本ツールである画像検出器の取り扱いについて習得するとともに、実際にX線画像データの取得を行い、得られた画像を解析するところまでを体験していただくことにより、放射光X線画像計測の基礎を習得することを目的とします。
BL23SU:放射光光電子分光による物質の電子状態分析 --- 竹田 幸治(JAEA)
物質の性質は物質内の電子構造によって決定されています。光電子分光法は、光電効果を利用して物質の組成と電子状態を直接的に調べることができる実験手法です。高輝度放射光の利用によって角度分解光電子分光を行うことも可能となり、 物質のバンド構造やフェルミ面を決定することもできます。実習では、光電子分光法による物質の組成分析について体験していただく予定です。
BL25SU:高分解能軟X線光電子分光 --- 横谷 尚睦(岡山大学)・室 隆桂之(JASRI)
光電子分光は、光電効果を利用して物質の電子状態を観測する手法です。価電子帯の測定から物性発現の起源や機構を理解する事ができます。一方、内殻準位の測定からは構成元素の種類やその化学結合状態を知る事が出来ます。SPring-8が発する高強度・高分解能軟X線は、実験室光源では難しかった微量元素の検出やその化学結合状態の観測を可能にしました。本実習では、不純物をドープしたダイヤモンド等を測定試料として用い、その中に含まれる微量不純物元素の同定や化学結合状態を調べる予定です。
BL33LEP:GeV光ビームと物質の相互作用 --- 與曽井 優・中野 貴志・郡 英輝・堀田 智明(大阪大学)
8 GeV蓄積電子ビームに紫外レーザー光を照射すると逆コンプトン散乱により1.5~2.4 GeVのレーザー電子光と呼ばれるGeV光ビームが得られる。本実習では、レーザー電子光の生成を確認するとともにGeV光ビームと物質の相互作用による電子・陽電子対の生成やハドロンと呼ばれるクォークや反クォークから構成される粒子の生成を確認する。
BL38B1:単結晶回折(タンパク質) --- 熊坂 崇(JASRI/関西学院大学)・馬場 清喜・河村 高志(JASRI)
BL44XU:単結晶回折(タンパク質) --- 中川 敦史・山下 栄樹・東浦 彰史(大阪大学)
単結晶X線回折は、分子の立体構造を原子レベルで詳細に明らかに出来る強力な手法で、幅広い分野で利用されています。生命科学分野においてもタンパク質の構造から機能を明らかにする構造生物学研究の主要な手法として用いられていますが、分子量が大きいことや回折分解能が限られているために、さまざまな手法が開発され独自の発展を遂げています。本実習ではこの解析の一連の流れを習得するために、二次元検出器による結晶回折データ測定とSAD法による位相決定、計算機を用いた分子構造の構築と精密化を体験していただきます。
BL39XU:硬X線磁気円二色性分光による磁性体試料の解析 --- 鈴木 基寛・河村 直己・水牧 仁一朗(JASRI)
X線磁気円二色性(XMCD)測定は、円偏光X線を使った吸収分光法です。この手法によって、試料の磁性の起源となる電子状態を元素別に観察することができます。実習では硬X線領域でのXMCD測定を題材とし、円偏光を作り出すための光学素子であるダイヤモンド移相子の原理、XMCDスペクトルの測定、ナノ集光ビームを用いた磁気イメージング測定について学びます。
BL40B2:X線小角散乱法を用いたタンパク質分子の構造解析 --- 八木 直人・関口 博史(JASRI)
BL45XU:X線小角散乱法を用いたタンパク質分子の構造解析 --- 引間 孝明(理研)
・本実習は2つのビームラインで行われます。実習内容は若干異なりますが、学習する手法は同じであるため、一緒にして希望を募ります。ビームラインを個別に選択して希望することはできませんが、もしどちらかのビームラインでの実習を強く希望する場合には、事務局へのコメント欄に理由を記述してください。
(BL40B2)
X線小角散乱法(SAXS)は、数nmから数µmの大きさや周期を持つ物質について、ダイレクトビーム近傍に観測される散乱X線の強度分布から、その構造を解析する手法です。これは高分子から粘土まであらゆる種類の物質に応用できる手法ですが、タンパク質溶液に適用することにより、“生きた状態”に近いタンパク質分子の構造を知ることができます。本実習ではタンパク質溶液からの散乱データ収集および分子構造予測に至る一連の解析を行い、タンパク質分子の構造-機能相関について考察します。SAXSの基礎と測定手法に関する知識は、タンパク質以外の試料にも役立つと思います。
(BL45XU)
X線小角散乱法(SAXS)は、数nmから数μmの大きさや周期を持つ物質について、小さい散乱角度域で観測される散乱X線の強度分布からその構造を解析する手法です。タンパク質溶液に適用することにより、”生きた状態”に近いタンパク質の分子構造やその会合状態を知ることができます。本実習では放射光BioSAXSで主流となりつつあるゲルろ過カラムからの溶出液を直接散乱測定を行うSEC(Size Exclusion Chromatography)-SAXS法を用いて散乱データ収集および溶液中に共存する複数の会合状態の分子構造予測に至る一連の解析を行い、タンパク質分子の溶液中での会合状態について考察します。
BL43IR:赤外顕微分光による組成分布と電子状態の解析 --- 森脇 太郎・池本 夕佳(JASRI)
X線などと比べて波長が長い赤外線を利用した分光実験を行います。赤外分光では、物質の組成・結合に関する情報や、電子状態に関する情報が得られます。放射光を利用した赤外分光では、特に、波長と同程度の狭い領域の分光が可能で、微小試料や分布状態の解明に威力を発揮します。実習では、繊維などの身近な素材を対象として、試料準備・調整・測定・解析を行います。
BL46XU:硬X線光電子分光 --- 安野 聡(JASRI)・小金澤 智之(JASRI)・廣沢 一郎(JASRI/岡山大学)
硬X線光電子分光は従来の光電子分光に比べて数倍以上大きい分析深さを有し、試料深部や界面における化学結合状態・電子状態を非破壊で調べることができる分析手法です。近年は電池材料や半導体を中心として、幅広い分野で利用が進んでいます。実習では様々な薄膜試料について、測定→元素の同定→化学結合状態の推定→試料構造の考察までの一連の分析の流れを体験して頂く予定です。