2019年夏の学校 実習概要
21件の実習課題を予定しています。受講者の皆さんにはこの中から2テーマを選択していただきます。ただし、特定のテーマに希望者が集中した場合、ご希望に添えるとは限りませんのでご了承下さい。また、装置故障等の不測の事態により予定が変更される場合がありますので、ご理解をお願い致します。
BL01B1:"その場" XAFS計測 --- 加藤 和男・伊奈 稔哲・宇留賀 朋哉(JASRI)
BL14B2:XAFS分析の基礎 --- 渡辺 剛・大渕 博宣 (JASRI)・廣沢 一郎(JASRI/岡山大学)
BL22XU:XAFSによる溶液内イオンの光酸化還元挙動解明 --- 小林 徹(JAEA)
・本実習は3つのビームラインで行われます。実習内容は若干異なりますが、学習する手法は同じであるため、一緒にして希望を募ります。ビームラインを個別に選択して希望することはできませんが、もしいずれかのビームラインでの実習を強く希望する場合には、事務局へのコメント欄に理由を記述してください。
(BL01B1)
XAFS法は、結晶構造を形成していない物質や、濃度が希薄な試料に対しても、局所構造や電子状態を解析できる手法として、広い研究分野で利用されている。本実習では、まずXAFS計測を行うための放射光光学素子の位置調整と、試料調製について実習を行う。その後、触媒粒子の形成反応に対して、"その場"XAFS測定を行い、触媒粒子内でどのような構造変化や電子状態変化が起こるかを解析する。
(BL14B2)
XAFS法は、結晶化していない物質や、濃度が希薄な材料に対しても、局所構造や電子状態を解析できる手法として、触媒、電池、発光材料など様々な研究分野で利用されています。本実習では、XAFS計測を行うための試料調整と、その原理に忠実な透過法による測定およびフリーの解析ソフトを用いたスペクトル解析を行い、XAFS分析の基礎について学んで頂く予定です。
(BL22XU)
XAFS測定法は、測定試料の形態を問わず目的元素の局所構造を解析できる手法として広く利用されています。本実習では、溶液内イオンが光酸化還元反応によって徐々に変化する様子をアンジュレータ高輝度放射光とQuickXAFS測定法を利用してその場観察し、その化学状態や局所構造の変化について考察します。また、XAFSデータ解析の基礎について学習します。
BL02B1:単結晶構造解析の入門 --- 野上 由夫(岡山大学)・杉本 邦久・安田 伸広(JASRI)
単結晶は粉末結晶に比べ、以下の特徴を有する。1)晶系や結晶の対称性(空間群)の決定が容易である。2)並進対称性の破れ(格子変調)の検出も容易である。本実習では、単結晶構造解析の原理を解説し、CCD検出器を用いた回折装置で実際に測定をおこない、低分子単結晶の原子座標を精密に決定する。
BL04B1:大容量高圧プレスと白色X線を用いたX線回折実験 --- 肥後 祐司(JASRI)
BL04B1は川井型大型プレスと放射光硬X線を利用して、高圧下での相変化や各種物性を測定するビームラインです。本実習では塩化カリウムの高圧相転移を約2万気圧の高圧下でその場観察します。高圧実験の手順のほか、白色X線を光源としたエネルギー分散型X線回折法を実習します。
BL04B2:高エネルギーX線を用いたガラス・液体の構造解析 --- 尾原 幸治(JASRI)
最先端の機能性材料には、ガラスや液体が数多く存在します。ガラスや液体のような乱れた原子配列を解析するために、二体分布関数(Pair Distribution function, PDF)解析という手法が用いられます。
本実習では、SPring-8の高エネルギーX線を用いたPDF解析によって、一見無秩序に思えるガラスの原子配列の解析を行います。
BL07LSU:推理の放射光元素分析 --- 松田 巌・原田 慈久(東京大学)
実習の中に推理の要素を盛り込んでみました。実際、研究現場では様々なモデルが構築されますが、科学的検証によりそれらが淘汰されていきます。そこで本実習では古典的名作の推理小説を参加者に事前に読んでいただき、それぞれの推理結果を考えてきてもらいます。そして小説内の証拠品と同じ物質について光電子分光を勉強しながら実際の測定を実施してもらい、それぞれの推理結果を元素分析で確認します。BL07LSUではユーザーによる最先端軟X線実験装置が開発され、中にはX線自由電子レーザー用のものもあります。また超短パルスレーザーも整備されています。実習ではそれらの装置群も紹介し、最先端光源を用いた実験を系統的に解説します。
BL13XU:サブミクロン集光放射光ビームによる局所領域回折実験 --- 木村 滋(JASRI/岡山大学)・隅谷 和嗣(JASRI)
SPring-8のような第三世代放射光源の最大の特長は輝度が高いことです。この特長は微小なX線ビームを形成する場合に威力を発揮します。本実習では、SPring-8の放射光をゾーンプレートと呼ばれる集光素子で数100 nmサイズに集光するとともに、その集光ビームを利用したX線回折実験を実施します。この手法が局所領域構造を調べる上で非常に有効であることを、ミクロン領域に選択成長した化合物半導体細線構造を測定することで実感してもらいます。
BL14B1:放射光を利用した高温高圧合成 --- 齋藤 寛之(QST)
高温高圧合成法は新規物質実現のための有効な方法の一つです。ここに放射光その場粉末X線回折法を組み合わせると「見ながら合成」することが可能となり、非常に効率的に新規物質探索を進められる様になります。本実習ではこの手法を用いて常圧近くの圧力では合成することができない金属水素化物の合成を行います。高温高圧実験に必要なパーツの準備や組み上げも実習します。
BL19B2:粉末X線回折 --- 大坂 恵一(JASRI)、廣沢 一郎(JASRI/岡山大学)
粉末X線回折は、構造解析技術として物質科学研究での重要な技術であるばかりでなく、複数の化合物から成る材料の組成分析技術として産業界(企業)でも広く用いられています。高輝度な放射光を用いた粉末X線回折では、通常は検出が困難な微量成分も短時間で測定できるため、機能性セラミックスの開発などに盛んに用いられています。今回は、BL19B2のハイスループット粉末回折計で良質なデータを取得するための装置調整と測定の実習を予定しています。
BL20B2:放射光X線画像計測の基礎 --- 星野 真人・上杉 健太朗(JASRI)
放射光を利用したX線画像計測は、レントゲン撮影のように計測対象である試料の内部構造を単に可視化するだけでなく、得られた画像データを定量的に取り扱うことにより、様々な情報を引き出すことができます。本実習では、X線画像計測を行うための基本ツールである画像検出器の取り扱いについて習得するとともに、実際にX線画像データの取得を行い、得られた画像を解析するところまでを体験していただくことにより、放射光X線画像計測の基礎を習得することを目的とします。
BL24XU:X線"レンズ"による結像の基礎とソフトマテリアルの顕微CT --- 高山 裕貴・漆原 良昌・篭島 靖(兵庫県立大学)
X線結像顕微CTは、試料内部を100 nm前後の分解能で三次元観察できる強力な手法です。X線領域では物質の屈折率がほとんど1のため、X線の結像素子には屈折レンズではなく回折を利用した“レンズ”(ゾーンプレート)が多く用いられます。指向性の高い放射光を用いれば、吸収差が僅かな構造もその境界での屈折効果により明瞭に観察できます(屈折コントラスト)。本実習では、X線結像顕微CTでの試料観察を通じて、ゾーンプレートの結像特性や屈折コントラスト、計算機による三次元再構成の原理を学びます。
BL25SU:高分解能軟X線光電子分光 --- 横谷 尚睦(岡山大学)・室 隆桂之・小谷 佳範(JASRI)
光電子分光は、光電効果を利用して物質の電子状態を観測する手法です。価電子帯の測定から物性発現の起源や機構を理解する事ができます。一方、内殻準位の測定からは構成元素の種類やその化学結合状態を知る事が出来ます。SPring-8が発する高強度・高分解能軟X線は、実験室光源では難しかった微量元素の検出やその化学結合状態の観測を可能にしました。本実習では、不純物をドープしたダイヤモンド等を測定試料として用い、その中に含まれる微量不純物元素の同定や化学結合状態を調べる予定です。
BL26B1:単結晶回折(タンパク質) --- 熊坂 崇(JASRI/関西学院大学)・馬場 清喜・河村 高志(JASRI)
BL44XU:単結晶回折(タンパク質) --- 中川 敦史・山下 栄樹・櫻井 啓介(大阪大学)
単結晶X線回折は、分子の立体構造を原子レベルで詳細に明らかに出来る強力な手法で、幅広い分野で利用されています。生命科学分野においてもタンパク質の構造から機能を明らかにする構造生物学研究の主要な手法として用いられていますが、分子量が大きいことや回折分解能が限られているために、さまざまな手法が開発され独自の発展を遂げています。本実習ではこの解析の一連の流れを習得するために、二次元検出器による結晶回折データ測定とSAD法による位相決定、計算機を用いた分子構造の構築と精密化を体験していただきます。
BL29XU:蛍光X線分析 --- 香村 芳樹(理研)・志村 まり(国立国際医療研究センター)
X線を物質に照射すると、電子と相互作用し、その結果、様々な信号が原子から発生する。例えば、原子の内殻電子とX線の相互作用では、元素特有のエネルギーを有する蛍光X線が生じることが知られている。本実習では、放射光X線を励起光として用い、発生する蛍光X線によって様々な試料の元素分析を行うための放射光蛍光X線分析を実施する。細胞など生体試料、その他の観察を計画している。生命の維持に必要な様々な必須元素が核に局在する様子などを観察する予定である。
BL33LEP:GeV光ビームの生成と粒子・反粒子対の測定 --- 與曽井 優(大阪大学)・村松 憲仁・宮部 学・時安 敦史(東北大学)
GeV光ビームは、X線に比べて10万倍程度高いエネルギーを持ち、素粒子・原子核の研究に利用されています。本実習では、レーザー光をSPring-8蓄積電子と逆コンプトン散乱させてエネルギー増幅し、GeV光ビームの生成を確認します。また、GeV光ビームと物質の相互作用を理解するため、大型荷電スペクトロメーターを使って電子・陽電子対の生成を測定します。
BL39XU:硬X線磁気円二色性分光による磁性体試料の解析 --- 鈴木 基寛・河村 直己・水牧 仁一朗・大沢 仁志(JASRI)
X線磁気円二色性(XMCD)測定は、円偏光X線を使った吸収分光法です。この手法によって、試料の磁性の起源となる電子状態を元素別に観察することができます。実習では硬X線領域でのXMCD測定を題材とし、円偏光を作り出すための光学素子であるダイヤモンド移相子の原理、XMCDスペクトルの測定、ナノ集光ビームを用いた磁気イメージング測定について学びます。
BL40B2:X線小角散乱法を用いたタンパク質分子の構造解析 --- 八木 直人・関口 博史(JASRI)
X線小角散乱法(SAXS)は、数nmから数µmの大きさや周期を持つ物質について、ダイレクトビーム近傍に観測される散乱X線の強度分布から、その構造を解析する手法です。これは高分子から粘土まであらゆる種類の物質に応用できる手法ですが、タンパク質溶液に適用することにより、“生きた状態”に近いタンパク質分子の構造を知ることができます。本実習ではタンパク質溶液からの散乱データ収集および分子構造予測に至る一連の解析を行い、タンパク質分子の構造-機能相関について考察します。SAXSの基礎と測定手法に関する知識は、タンパク質以外の試料にも役立つと思います。
BL43IR:赤外顕微分光による組成分布と電子状態の解析 --- 森脇 太郎・池本 夕佳(JASRI)
SPring-8はX線から赤外線まで広い帯域の光を利用することができますが、このうち、波長が最も長い赤外線を利用した分光実験を行います。赤外分光では、有機・無機の様々な試料について、その組成や結合状態・電子状態に関する情報が得られます。放射光を実験した場合には、微小な領域の赤外分光が行われていますが、実習では、実験室装置を利用して、繊維などの身近な素材のスペクトル測定を行います。また、測定前の重要な過程である試料作成についても実習を行います。
BL46XU:X線反射率 --- 小金澤 智之・安野 聡(JASRI)・廣沢 一郎(JASRI/岡山大学)
可視光と同じようにX線も屈折率が変化する界面においてX線の反射・全反射・屈折が起こります。これらの現象を利用した分析手法がX線反射率です。X線反射率では膜厚が数nmの薄膜の密度や膜厚を評価することができます。実習ではシリコン基板やガラス基板に成膜された薄膜の膜厚評価を通して、X線の反射・全反射現象を体験していただきます。