2023年夏の学校 講義概要
講義1.放射光発生の基礎 --- 正木 満博(高輝度光科学研究センター)
電子などの荷電粒子が加速度運動すると電磁波が放射される。特に、電子シンクロトロンと呼ばれる加速器で作られる高エネルギー電子が、磁場により偏向された際に発生する電磁波をシンクロトロン放射光と呼び、指向性に優れ、輝度が高く、マイクロ波から硬X線に至る幅広い波長領域をカバーするという特性を持つ。本講義では、代表的なシンクロトロン放射である偏向電磁石放射、アンジュレータ放射、コヒーレントシンクロトロン放射、自由電子レーザーなどについて、その発生原理と性質をなるべく直感的に理解できるように解説する。
講義2.ビームライン ~光源と実験ステーションを繋ぐもの~ --- 仙波 泰徳(高輝度光科学研究センター)
放射光利用実験では光源からの放射光をそのまま利用することはほとんどなく、ユーザーの用途に合わせてビームライン光学機器で様々な制御(例えば光のエネルギーやサイズの調整など)がなされたX線が提供される。講義ではX線光学の定性的な説明を行い、それらを利用したビームライン光学機器類について紹介した後、熱対策などの技術的な問題について触れる。
講義3.X線検出器の基礎 --- 今井 康彦(高輝度光科学研究センター/理化学研究所)
放射光X線は、ほぼ全ての種類の実験において検出器によって測定されています。実験の種類に応じて、X線の強度やX線のエネルギー、X線の到来時間、これらの組み合わせを測定するための検出器があります。近年では、X線回折の測定においてもX線の強度分布を2次元画像として撮影する画像検出器が広く用いられています。本講義では、各種X線検出器の原理から、先端的な画像検出器であるハイブリッド型ピクセル検出器の特徴までを簡単に紹介します。
講義4.X線自由電子レーザー入門 --- 久保田 雄也(理化学研究所)
X線の発見から約120年後の2009年に、米国のSLAC国立加速器研究所が人類最初のX線レーザーを実現させました。それから2年後の2011年には日本の理化学研究所が世界で2番目のX線レーザーを実現させ、SACLAと名付けました。その後世界各地でX線レーザーの建設が行われ、X線レーザーの時代が始まっています。これらのX線レーザーは「自由電子レーザー」と呼ばれるタイプの光源で、私達が普段イメージする可視光近傍のレーザーとは異なる方法で光を作り出しています。本講義では、X線レーザーの仕組みとX線レーザーによって可能になったサイエンスをSACLAでの取り組みを中心に紹介します。
講義5.X線イメージング --- 篭島 靖(兵庫県立大学)
X線の高い透過性はレントゲン写真のように物体内部の構造観察を可能にする。さらに、放射光X線の高輝度性は様々な新しい画像法(イメージング)を可能にした。屈折コントラスト法による高コントラスト動的観察、走査型X線顕微鏡による微量元素の二次元分布測定、X線顕微鏡トモグラフィーによる三次元内部構造の顕微観察、コヒーレントX線回折イメージング等を例に挙げ、SPring-8における応用例を紹介する。
講義6.X線回折入門 --- 高橋 功(関西学院大学)
物質の性質を理解する上で、原子配列は最も基本的かつ重要な情報の一つであり、放射光を用いた回折・散乱実験はそれを明らかにする有力な手段です。本講義では回折・散乱現象の基礎から出発し、原子によるX線の回折・散乱とそれを用いることでいかにして原子配列についての理解が可能になるのかについて概観します。理想的な結晶によるX線回折はわかりやすい例ですが、今回はそれに加えて薄膜結晶や周期性を持たない非晶質材料の構造を理解するための放射光実験の例についても時間があれば解説したいと思います。
講義7.XAFSの基礎 --- ⽥渕 雅夫(名古屋⼤学)
XAFS測定(X線領域の吸収分光測定)は、物質を構成する原子の化学的な状態(価数や電子軌道の状態)や局所的な構造(着目原子周辺の原子数、距離、原子種)を調べられる貴重な測定である。本講ではスペクトル発生の起源にまで遡り、そうした情報が含まれている理由を理解する。これによって解析で行なっている操作の意味を知り、より正しく/より良く解析を行うための基礎としたい。