BL40XU 概要
問い合わせ番号
INS-0000000537
ビームラインの概要
高フラックスビームライン(BL40XU )はヘリカルアンジュレータを光源とし、分光器を用いず垂直水平2 枚のミラーで集光を行う、高輝度なX 線の利用を目的としたビームラインである。アンジュレータから放射される一次光は非常にシャープなエネル ギー幅であるため準単色光として扱うことができ、この一次光だけを取り出すことによって二結晶分光 器を用いて単色化された光の100 倍以上の輝度を持つX 線の利用が可能になる。このような高輝度のX 線を利用することにより、回折・散乱法による蛋白質分子の機能発現時における構造変化を追う時分割 実験、蛍光X 線分析あるいはスペックル実験(X-ray intensity fluctuation spectroscopy )のような新しい手法の開発研究などが行われることが期待される。
研究分野
- 高速時分割回折および散乱実験
- X線光子相関分光法
- 蛍光X線分析
- マイクロビームを用いた回折および散乱実験
- 微小単結晶構造解析
キーワード
- 研究分野
高輝度X線, 構造生物学, X線小角散乱/回折, 時分割実験, 蛍光X線分析 - 装置
X線シャッター, 高速CMOSカメラ, X線イメージインテンシファイア, YAG laser, 小角散乱用真空パス, 光子計数型検出器
光源と光学系
ビームライン光学系の模式図
- 光源
本ビームラインのヘリカルアンジュレータは、周期長36 mm で一次光として8 keV から17 keV(波長:1.5 Åから0.7 Å)のエネルギー範囲で光を出すことができる。本ビームラインには分光器がないので、実験に使用できるX 線のエネルギー範囲はこのアンジュレータから出る光のエネルギー範囲によって既定される。ヘリカルアンジュレータは元来、円偏光の放射光を得るためのものである。このアンジュレータの最大の特色として、軸上ではほとんど一次光しか観測されず、高調波は軸外に放射されるということがあげられる。このため、アンジュレータ放射X線の中心部だけを取り出せば、準単色光である一次光が輝度を損なうことなく利用できる。この基本概念を実現するために最も重要な光学要素が光源から33 m の距離にあるフロントエンドスリットである。このフロントエンドスリットの開口を調整することで一次光だけを取りだし、同時に大部分の高調波を除去し、それによって大部分の熱を取り除くことができる。フロントエンドスリットは現在、通常水平15 µrad×垂直5 µrad の開口で使用している。さらに輝度が必要な実験のためには50 µ rad 程度までの開口で使用できる設計になっている。
- 実験に使うX線
フロントエンドスリットによって一次光のみに切り出されたX 線は、水平集光ミラーおよび垂直集光ミラー(水平集光ミラー:長さ70 cm 、幅50 mm 、厚さ50 mm 、垂直集光ミラー:長さ40 cm 、幅50 mm 、厚さ50 mm )によって集光される。アンジュレータからの光を直接受けるので、母材には熱特性の優れたシリコン単結晶を使用し、どちらのミラーにも側面に間接冷却機構を取り付けた。さらにミラー上でのビームのフットプリントを大きくして熱負荷を下げるために一枚目は水平ミラーとし、3 mrad の視射角で使用することとした。水平ミラーの反射方向は下流に向かって右側である。垂直方向は4 mradの視射角で下はねとなっている。4 mrad のロジウムコーティングのミラーでは、16 keV 以上のX 線の反射率は非常に低く、22 keV 以上では二枚のミラーによる反射率は0.1 %以下になる。どちらのミラーも視射角が固定であることからミラーより下流のコンポーネントは、下流に向かって右側(実験ホール側)に6 mrad 、下に8 mrad の傾きで設置され、実験ハッチにも同様の傾きでX 線が導入される。ミラーは光源とフォーカス点を4 :1 に分ける位置に設置されるので、全体として4 :1 の縮小光学系となっている。このように二枚のミラーで水平垂直双方向に集光されたX 線はその後二つの水冷スリットにより整形されたのち実験ハッチへと入射される。Fig.1に示すようにフォーカスされたX線のビームサイズはおおよそ水平250 µm、垂直40 µmである。フラックスはTable1に示すように蓄積電流が100 mAのとき、7×1014 photons/sec(8 keV)、9×1014 photons/sec(10 keV)、1×1015 photons/sec(12 keV)および6×1014 photons/sec(15 keV)である。フラックス密度はおおよそ1017 photons/sec/mm2台であると見積もっている。エネルギースペクトルをFig.2に示す。各エネルギー領域において高次光は観測されず、エネルギー幅はそれぞれ1.8 %(8 keV)、1.8 %(10 keV)、1.7 %(12.4 keV)および2.0 %(15 keV)である。
- Table 1. フラックス
Energy (keV) Flux (photons/sec) 8 7 × 1014 10 9 × 1014 12 1 × 1015 15 6 × 1014 Fig. 1. ダイレクトビーム
Fig. 2. エネルギースペクトル
- X-rays at Sample
Energy range 8 ~ 17 keV Energy resolution 0.02 Photon flux 1015 (12 keV) photons/s Beam Size 0.25(H) × 0.04(V) mm2
(with focusing mirrors)
実験ステーション
実験ハッチ1はおおよそ4 m×6 mの大きさで、検出器等の配置は実験によって自由に選択、変更できるようになっている。現在、実験ハッチ最上流にある水冷ベリリウム窓のすぐ下流に、アルミニウムのアッテネータ(厚さの異なる2 種類)、ソレノイドX線シャッター、回転チョッパー式高速シャッター(Fig.4)、および試料直前に位置する四象現スリットが定常的に設置されている。また必要に応じてガルバノ式高速X線シャッターを設置可能である。ソレノイドシャッターとガルバノ式シャッターを同期 させて開閉させることにより、実験に適したパルス幅を持つX 線を切り出すことができる。また、これ らのシャッターは必要なければX 線の経路上から退避させることもできる。これらのコンポーネントを うまく組み合わせて用いることにより、試料へのダメージを避けつつ、効率よくデータ収集ができる最 適な実験条件を実現することができる。実験ハッチにはこのほかにYAGレーザー(Fig.6)が定常的に設置されており、経路調整さえすればいつでも試料に照射できる状態にある。さらに最長3m程度の長さが確保できる小角散乱用の真空パイプが用意されている(Fig.3)。検出器としてはフラットパネル検出器、Pilatus 100Kのほか、低残光型X 線イメージインテンシファイア(Fig.5)と組み合わされる冷却CCDカメラ、高速CMOSカメラが用意されている。後者の時間分解能は1024×1024ピクセル6,400フレーム/秒であるが、画素数を低減させることにより更に高い時間分解能が得られる。
Fig. 3. 小角散乱用真空パス
Fig. 4. X線シャッター
Fig. 5. X線イメージインテンシファイア
Fig. 6. YAG laser
実験ハッチ 2 は 5 m x 4 m x 3.3 m の大きさで BL40XU ビームラインの下流側にある。 通常 X 線の減衰をなくすため上流の実験ハッチに 4m の真空パスまたはヘリウムパスを設 置して使用する。ハッチ内には X 線チョッパー (Fig.7)、Si(111)チャンネルカットモノク ロメータ(Fig.8)、精密回折計(Fig.9)、窒素吹付け型低温装置およびフェムト秒レーザー(波 長 800 nm)を設置している。X 線チョッパーにより 1000 または 2000 Hz の X 線パルスを 使用でき、その周波数でレーザーを同期させ光照射することができる。このシステムによ りポンプ&プローブ法による時分割 X 線測定が可能である。
Fig. 7. X線チョッパー
Fig. 8. Si(111)チャンネルカットモノクロメータ
Fig. 9. 精密回折計
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中村 唯我
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一柳 光平
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