BL46XU 硬X線光電子分光装置
問い合わせ番号
INS-0000001475
硬X線光電子分光装置
硬X線光電子分光法(Hard X-ray Photoemission Spectroscopy: HAXPES)は、従来の光電子分光法(Photoemission Spectroscopy: PES)よりも数倍深い分析深さを持ち、バルクの電子状態を非破壊で観測できる実験手法です。
PESは、試料に光を照射したときに生じる光電子の運動エネルギー分布を計測することにより、物質内の電子状態を調べる手法です。また、内殻準位スペクトルに現れるピークシフト(化学シフト)から、価数状態等、構成元素の化学状態についての情報を得ることもできます。従来のPESでは、励起光として主に、He放電管やAlやMgなどを陽極に用いたX線管、あるいは軟X線のシンクロトロン放射光を用いていました。しかし、これら紫外光や軟X線を励起光として用いる従来のPESでは、励起光エネルギーが高くともせいぜい1.5 keV程度であり、生じる光電子の運動エネルギーはそれ以下になります。PESにおける分析深さは、光電子が固体内で散乱されずに移動できる距離(非弾性散乱平均自由行程)に依存しますが、1.5 keV以下の光電子エネルギーでは、その距離は数nm以下となり、得られる電子状態の情報も試料表面からその程度の深さまでに限られます。物質の物性を特徴づける試料内部(バルク)の電子状態を観測するには、従来法の分析深さでは必ずしも十分でないとされています。また、例えばデバイスにおける電極の下の電極/半導体界面はデバイス特性を決める重要な要素の一つですが、このような埋もれた界面の電子状態を非破壊で分析するのは、従来法では非常に困難です。スパッタリングで表面を除去しながらPESを測定することにより深さ方向の情報を得ることもできますが、スパッタリングの過程でしばしば試料が変質してしまうという問題があります。
HAXPESでは、従来よりもエネルギーが高い、硬X線領域(6~10 keV程度)のX線を励起光として用います。そのため、生じる光電子の運動エネルギーが従来のPESに比べて数倍大きくなり、分析深さも数倍深くなります。HAXPESは、SPring-8に代表される第三世代放射光施設において高輝度なアンジュレータ光源が出現し、バンド幅の狭くかつ高フラックスな励起光が利用可能となったことと、分析器技術の進歩により高耐圧な電子エネルギー分析器が利用可能になったこととが相まって、近年実用的になった比較的新しい実験手法です。HAXPESを用いると、試料のバルクの電子状態の分析が非破壊で可能となります。また、電極下の埋もれた界面分析等にもHAXPESは威力を発揮します。
本装置に装備されるR-4000L1-10kVは半球(hemispherical)型の分析部を持つ電子分光器で10 keVまでの光電子の測定が可能です。制御ソフトはSES software(Scienta Omicron製)を用いており、モーターコントローラーと連動させることで複数の試料位置及びエネルギー領域に渡る連続自動測定が可能で効率のよい実験を行うことが可能です。
硬X線光電子分光装置