SPring-8利用者懇談会研究会

研究会の名称

物質における高エネルギーX線分光研究会 / Study on electronic states of materials including atoms or molecules using High energy X-rays

代表者、副代表者

代表者
氏名 寺澤 倫孝 / Mititaka TERASAWA
所属 兵庫県立大学 高度産業科学技術研究所 / Laboratory of Advanced Science and Engineering for Industory, University of Hyogo
連絡先 terasawa( at )lasti.u-hyogo.ac.jp

副代表者
氏名 伊藤 嘉昭 / Yoshiaki ITO
所属 京都大学化学研究所 / Institute of Chemical Research, Kyoto University
連絡先 yosi( at )elec.kuicr.kyoto-u.ac.jp

研究会の活動目標・目的

 原子の内殻軌道に電子線やX線を用いて空孔を生成すると、外殻軌道からその空孔に対して電子の遷移が起きた時に、始状態と終状態のエネルギー差が光子として放出される。この光子は原子に固有の波長をもち、特性X線と呼ばれる。K殻に出来た空孔に対して遷移が起きた時に輻射される場合はK線、またL殻、M殻などの場合はL線、M線などと呼ばれる。一般に強度の大きな特性X線のスペクトルとともに、サテライトと呼ばれる強度の小さなピークが現れる。このようなサテライトピークの多くは、X線等による多重電離など複数の電子の遷移が関与する過程が原因であると考えられているが未だに原因のはっきりしないサテライトピークも少なくない。一般的には、サテライト線はspectator holeが存在する2重空孔状態と解釈されており、その発生機構に関する研究が進められてきた。この2重空孔状態を生成する過程としてshake過程及びCoster-Kronig遷移が考えられる。このうち後者の遷移にはその発生の可否に原子番号依存性があり、閾値が存在する。Coster-Kronig遷移が起こりうる組み合わせの数は、Coster-Kronig収率を変化させ、電子軌道の準位幅に影響を与える。このため閾値付近の元素は特に興味をもたれてきた。さらに、shake過程ではspectator hole が外殻に生成する過程ほど確率が高いのに対してCoster-Kronig過程はむしろ発生する条件を満たす限り、内殻電子の電離確率が高い。しかし、High-Zでは系全体の電子数が多く計算が複雑になることもあり、理論・実験両面からの研究が不可欠である。それゆえHigh-ZでのX線スペクトルとサテライトに関する研究は、原子物理学における開拓的な研究として位置づけられる。したがって、第3世代の挿入光源を有するSPring-8ではこの高分解能分光測定の分野において先駆的研究を進めることが期待される。

 現在、非破壊的に化学状態分析する方法としてはX線光電子分光法(XPS)が広く利用されている。しかし、この方法は基本的に光電子を用いる表面分析法であり、絶縁物に弱く、また超高真空が必要であるために含水物や有機物に対する応用が困難である等の問題がある。光電子の計測であるため、表面状態に敏感であり利点であるとともに欠点でもあり、深部あるいはバルクの定量分析には必ずしも最適な方法ではない。これに対して本研究会で現在開発している高分解能X線結晶分光器を利用する方法は、特性X線を直接高分解能で分光することで、これらの問題点をカバーすることが可能である。この方法では、とくにHigh-Zの元素の対してはK殻励起のための蛍光収率は高いので、微量の含有量であっても測定が可能となる。特にCdやPbなどの重元素環境汚染物質の極微量分析にはK殻励起の利用がきわめて有効である。

 われわれが今までに高分解能X線結晶分光器を使用して実施した研究の一例をあげると、環境汚染物質として注目され、RoHs指令などで近年使用が制限されている6価クロムの定量分析がある。Cr6+とCr3+の混合比を求め、Cr6+の存在量が少ないときでもこの分光装置による定量分析の信頼性と有用性が確かめられた。またイルメナイトをはじめ各種Ti化合物のKα線、Kβ線に対する化学結合の効果をしらべ、Tiの電子状態をあきらかにした。共鳴X線分光法による3d, 4f 電子系の電子状態の研究にもこの分光器を適用し、吸収端近傍での発光X線スペクトルの詳細な測定を実施し、多くの新しい知見を得た。溶岩中のFeの酸化状態解析も一実施例である。酸化状態分析ではこの他、Al, Si, Mg, S, P, Ca, Ti, V, Cr, Cu, Ge, Mo, Ag, そしてCeなどについても測定している。

 さらに、2009Bの申請課題では経産省の地域イノベーション創出事業で平成20年度に採択された「乾式低温粉砕技術を用いた粉末茶などの製造装置の研究開発と応用」の2年間のテーマの一環として、日常生活に欠かすことが出来ない飲料であると同時に、我が国固有の豊かな文化形成に大きな貢献をも果たしてきたお茶に注目した。特に日本茶は、人体に必要な微量金属元素(Ca, Fe, Mn, Cu, Zn)を茶葉の成分に含んでいることに大きな特徴があるため、優良な健康食品として大いに注目されている。

 本申請課題では同志社大学、京都大学、兜沁園、そしてJohnan鰍フ4社が開発中の低温乾式粉砕法による粉末茶を従来の「伝統的健康食品」としてだけでなく、「生活習慣病への薬効作用を有する食品」として利用できるようにするための必要な情報を収集する一環として「茶葉の主要元素の分析」を意図するものである。特に、茶葉中ミネラル元素で健康への影響が注目される Fe, Mnの電子状態に関する重要な知見をえた。この目的は、他に先駆けて「京都発の茶葉の元素分析」を行い、茶の一大産地である京都から茶飲料や茶を活用した健康食品の高付加価値化を提案することである。これに関して、昨年7月に開催されたSPring-8安全安心のための分析評価研究会 (第1回)で発表された。(http://www.spring8.or.jp/ext/ja/iuss/htm/text/06file/safety_security_anal_eval-1.htm


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