大型放射光施設 SPring-8

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クォーク5個から出来ている新しい粒子(新バリオン)発見- SPring-8の世界最高エネルギーのレーザー電子光を使って検出 -(プレスリリース)

公開日
2003年07月01日
  • BL33LEP(レーザー電子光)
大阪大学核物理研究センターの中野貴志教授を代表とするレーザー電子光(LEPS)研究グループは、大型放射光施設(SPring-8)において、中性子の1.7倍の質量の新しい粒子(新バリオン)の検出に成功した。

平成15年7月1日
大阪大学
日本原子力研究所
(財)高輝度光科学研究センター

 大阪大学、日本原子力研究所、高輝度光科学研究センター、その他の国内外の大学と研究所(19機関、52名)からなるレーザー電子光(LEPS)研究グループ(代表者は大阪大学核物理研究センターの中野貴志教授)は、大型放射光施設(SPring-8)において、新しい粒子(バリオン(注1))の検出に成功した。
 確認された新粒子は、クォーク5個からできているバリオンで、LEPSグループがSPring-8レーザー電子光ビームライン(BL33LEP)で得られる世界最高エネルギーのレーザー電子光(注2)中性子(注3)に照射し反応を分析した結果、中性子の1.7倍の質量(質量エネルギーにして15.4億電子ボルト)の新バリオンが生成されていることを発見した(図1参照)。
 本発見は、7月4日に Physical Review Letters 誌で発表される

(論文)"Evidence for a Narrow S = +1 Baryon Resonance in Photoproduction from the Neutron"
T. Nakano, D. S. Ahn, J. K. Ahn, H. Akimune, Y. Asano, W. C. Chang, S. Daté, H. Ejiri, H. Fujimura, M. Fujiwara, K. Hicks, T. Hotta, K. Imai, T. Ishikawa, T. Iwata, H. Kawai, Z. Y. Kim, K. Kino, H. Kohri, N. Kumagai, S. Makino, T. Matsumura, N. Matsuoka, T. Mibe, K. Miwa, M. Miyabe, Y. Miyachi, M. Morita, N. Muramatsu, M. Niiyama, M. Nomachi, Y. Ohashi, T. Ooba, H. Ohkuma, D. S. Oshuev, C. Rangacharyulu, A. Sakaguchi, T. Sasaki, P. M. Shagin, Y. Shiino, H. Shimizu, Y. Sugaya, M. Sumihama, H. Toyokawa, A. Wakai, C. W. Wang, S. C. Wang, K. Yonehara, T. Yorita, M. Yoshimura, M. Yosoi, and R. G. T. Zegers

 原子核は核子(陽子と中性子)から出来ている約1兆分の1センチメートルの世界である。その極微の世界の基本粒子である核子は、3つのクォーク(注4)から出来ている。核子の仲間である多くの粒子(バリオン)は、クォークとその間に働く力を媒介するグルーオン(注5)から構成される世界であり、今まで観測されたバリオンは、全て3個のクォークで構成されている。
 そのため、3個のクォークから成る粒子以外のバリオンは存在し得るのかという本質的な疑問があったと同時に、クォークが単独で観測された例はないため、「なぜ、クォークは粒子中に閉じ込められるのか」という疑問には答えることができなかった。
 今回確認された粒子は、1個の反sクォークと2個ずつのu, dクォークの5個のクォークで構成される全く新しいタイプの粒子であり、この疑問に対する世界ではじめての発見と言える。本発見は、7月4日に Physical Review Letters 誌で発表される

 LEPSグループが用いたレーザー電子光は、レーザー光をSPring-8の高エネルギー(80億電子ボルト)電子ビームに正面衝突(逆コンプトン散乱(注6))させることにより得られる高エネルギー光ビーム(高エネルギーガンマ線)である。大阪大学核物理研究センター(センター長 土岐 博)、日本原子力研究所(理事長 齋藤伸三)先端基礎研究センターと高輝度光科学研究センター(理事長 伊原義徳)を中心とするプロジェクトチームは、SPring-8にレーザー電子光実験施設を建設し、平成12年以来レーザー電子光を核子や原子核に照射し、発生する中間子等を測定する実験を行ってきた。
 今回の実験では、約20億電子ボルトのレーザー電子光を炭素原子核に当て、核反応で生成される正負の電荷を持つ2個のK中間子を同時測定した。データを詳細に解析することにより、原子核内の中性子が光を吸収した結果、まず負K中間子(注7)と新粒子が同時生成され、更に新粒子が中性子と正K中間子に崩壊していることを確認した。正K中間子は反sクォークとuクォーク、また中性子はuクォークと2個のdクォークで構成される。新粒子の質量は、光ビームと負K中間子のエネルギーから計算された。新粒子の質量は理論的にΘ+(シータプラス)粒子(注8)として予想されていたものに極めて近い(図2参照)。

 最近、米国のジェファーソン研究所やロシアの ITEP (INSTITUTE FOR THEORETICAL AND EXPERIMENTAL PHYSICS) 研究所から発見を追認する報告が寄せられており、世界の素粒子・原子核物理学者の注目を集めている。LEPSグループでも新粒子の性質を詳しく調べる実験が間もなく始まる。これによって理論の予言との対応が確認されれば、クォーク核物理の確立のための重要な礎石となる。

 


fig1.jpg
図1. SPring-8における蓄積電子ビームにレーザー光を照射し、
跳ね返された高エネルギーガンマ線(レーザー電子光)を原子核
標的に照射し、放出される粒子の観測を行ってクォーク5個から
なる新粒子を発見した。


fig2.gif
図2.5個のクォークからなると考えた時のクォーク配位。
Θ+粒子はピラミッドの頂点に位置する。
Sはストレンジネス(クォークがもつ香り量子数の一つ)を表す。

 



<用語説明>
    注1 バリオン
    重粒子とも呼ばれる質量の重い粒子。今まで見つかったバリオンは全て3個のクォークで構成されるが、理論的には(クォーク数)-(反クォーク数)が3であれば存在が許される。
    注2 レーザー電子光
    レーザー光線が電子ビームによって跳ね返された結果得られる高エネルギー光ビーム。逆コンプトンガンマ線ともいう。
    注3 中性子
    陽子とともに物質の原子核を構成する粒子。1個のuクォークと2個のdクォークで構成される。
    注4 クォーク
    それ以上細かく分割できない細分化できない究極の素粒子。陽子を始めとするバリオンやパイ中間子を始めとするメソンを構成する。通常の物質は第1世代のアップクォーク(uクォーク)とダウンクォーク(d クォーク)だけで構成されている。ストレンジクォーク(sクォーク)は第2世代に属し、u, dクォークより重い。現在、クォークは第3世代まで確認されている。反クォークはクォークの反粒子で質量以外の性質(電荷等)が逆。
    注5 グルーオン
    クォーク間の力を媒介する粒子。クォークとクォークを結びつけ、クォークをバリオンやメソン中に閉じ込める“糊”の役割をすると考えられている。
    注6 逆コンプトン散乱
    高速で運動している電子に光子が弾き飛ばされた結果、光子のエネルギーが高くなる散乱。
    注7 K中間子
    1個のクォークと1個の反クォークで構成されるメソンの1種。構成要素としてストレンジクォーク(sクォーク)または反ストレンジクォークを含んでいる。
    注8 Θ+粒子
    理論物理学者D. Diakonov等によって1997年に予言された粒子。2個のuクォーク、2個のdクォーク、1個の反sクォークの計5個のクォークで構成される。


 

<問い合わせ先>
大阪大学 核物理研究センター
中野 貴志 (実験全般)
E-mail: nakano@rcnp.osaka-u.ac.jp
Tel:06-6879-8938 / Fax:06-6879-8899

日本原子力研究所
藤原 守 (ビームライン)
  E-mail: fujiwara@rcnp.osaka-u.ac.jp
  Tel:06-6879-8914 / Fax:06-6879-8899

(財)高輝度光科学研究センター 広報部
原 雅弘 (全般的事項)
  E-mail: hara@spring8.or.jp
  Tel:0791-58-2785 / Fax:0791-58-2786

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