大型放射光施設 SPring-8

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放射光を利用したサブミクロン領域の結晶歪の高感度検出技術を開発(プレスリリース)

公開日
2003年09月01日
  • BL16XU(サンビームID)
富士電機株式会社は、大型放射光施設SPring-8を利用する新しいX線回折法により、半導体結晶の微小領域の歪みを、従来の10倍以上の高感度に検出する技術を開発し、歪み測定において空間分解能1μm以下と検出感度10のマイナス5乗を両立することに世界で初めて成功した。

平成15年9月1日
富士電機株式会社

富士電機株式会社(社長:沢邦彦)は、大型放射光施設SPring-8を利用する新しいX線回折法により半導体結晶の微小領域の歪みをこれまでに比べて10倍以上高感度に検出する技術を開発しました。この技術により、歪み測定において空間分解能1μm以下と検出感度10のマイナス5乗を両立することに世界で初めて成功しました。

<特長>
 結晶の歪みの測定には従来からX線回折法が使われていました。この方法は結晶内で格子状に規則正しく並んだ原子により、照射したX線が特定の角度に回折される性質を利用します。歪みにより原子の位置がずれるとX線の回折角が変化し、この変化量から歪みを測定することができます。これまで微小領域の歪みを測定するためには、X線ビームを狭い領域に集光する方法が用いられました。ところがこの方法ではビームの平行度が低下して歪みの検出感度が低下してしまい、これまでは空間分解能を1μm以下にすると歪の検出感度は10のマイナス4乗が限界でした。
 そこで当社は、従来のように入射ビームを縮小するのではなく試料で回折されたX線の像を拡大して高分解能化するという逆転の発想によりこの問題を解決しました。X線像の拡大にはフレネルゾーンプレートという一種のレンズを用います(フレネルゾーンプレート拡大法、図1)。この方法では入射X線ビームを平行のまま用いるので検出感度の低下を招きません。また、X線像を拡大すると検出器に到達するX線の強度は低下してしまうのですが、SPring-8のアンジュレータ光源から発生するX線は一般的なX線装置に比べ1億倍程度の輝度を有するので、この高輝度X線を利用することにより歪みに対する感度と空間分解能を両立することが出来ました。この方法による歪み測定で、空間分解能1μm以下と検出感度10のマイナス5乗を同時に達成した例を図2に示します。

<適用例>
 半導体素子の性能や信頼性は半導体結晶の歪に大きく左右されます。例えば、表面に溝(トレンチ)構造を持つMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)は、プレーナ型素子に比べて高集積化できる特長があることから、当社はパワー半導体製品への適用を拡大しています。この素子の電気的な特性はトレンチ加工の影響を受け易く、トレンチ部の歪による応力が大きいとリーク電流が増加して素子の性能が損なわれます。今回開発した結晶歪検出技術を適用することにより、従来法では分解能不足のため測定困難だったトレンチ構造の部分毎の歪みを高感度に測定できます。これを用いて残留歪と素子特性との関係を詳しく解明でき、また、歪み除去工程やゲート酸化工程等での条件の違いによる歪みへの影響を定量的に把握できるようになりました。その結果、各工程の最適化が可能となり、MOSFET素子の信頼性を向上させることができます。

<学会等での発表>
 この成果の詳細は8月30日~9月2日に福岡大学(福岡市)で開催される第64回応用物理学会学術講演会にて発表する予定です。

 

 
fig1.gif

図1 フレネルゾーンプレート拡大法の原理

 この方法では、大型放射光施設SPring-8が発生する平行に揃ったX線を集光せずに用いる。目的とする微小領域から回折したX線をフレネルゾーンプレートにより拡大して検出する。図に示すように、試料の傾斜角ωを変化させながら測定した回折X線強度分布のピーク位置のずれから歪の大きさを求める。

fig2.gif

図2 トレンチ加工Siの歪測定結果

 Si基板上に幅0.8μmのトレンチ(溝)を加工した試料を測定した例
(a)傾斜角ωを変えながら測定した回折X線の強度を明暗で表したもので、トレンチの位置を明確に識別できる。
(b)(a)を基に試料の各位置においる回折強度のピーク位置のずれから歪の大きさを算出した結果で、トレンチに対応して10のマイナス5乗以下の歪が周期的に変化する様子を捉えている。


 

<本件に関する問い合わせ先>
(株)富士電機総合研究所 材料技術研究所 田沼良平
E-mail: tanuma-ryohei@fujielectric.co.jp
電話番号 046-857-6727  FAX番号 046-857-4270

<SPring-8についての問い合わせ先>
(財)高輝度光科学研究センター 広報部 原 雅弘
E-mail: hara@spring8.or.jp
電話番号 0791-58-2785  FAX番号 0791-58-2786

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