金ナノ微粒子の強磁性を世界で初めて確認 - ナノ磁性微粒子材料の設計指針への期待 -(プレスリリース)
- 公開日
- 2004年09月09日
- BL39XU(磁性材料)
平成16年9月9日
北陸先端科学技術大学院大学
(財)高輝度光科学研究センター
北陸先端科学技術大学院大学(学長 潮田資勝)の山本良之助手と堀秀信教授らの研究グループは(財)高輝度光科学研究センター(理事長 吉良爽)の鈴木基寛副主幹研究員、小林啓介推進室長らのグループとの共同で、大型放射光施設(SPring-8)の高エネルギー放射光X線を用いた実験を行い、ナノメートルサイズの金微粒子が強磁性磁気偏極することの直接的な証拠を世界で初めてつかんだ。 (論文) |
1.研究の背景
金は酸化に極めて強く、化学的に安定であるため、常識的にはその性質は変わることはないと信じられてきた。しかし、そのサイズをナノメートルサイズまで小さくして微粒子化すると、融点が降下するなどバルク(塊)状態とは異なる現象が現れることが分かっている。同様に、金はバルクでは磁石につかない反磁性1) であるが、ナノ微粒子にすると異なった磁性を持つのではないだろうかという期待がもたれていた。近年、有機分子存在下で金属塩を還元することにより、極めて粒子径が揃っていて、一つ一つの微粒子が分離した有機分子被覆金属超微粒子材料(図1)が合成されるようになり、触媒、光学、電子デバイスなどナノテクノロジー分野での応用に向けて様々な材料の微粒子合成が行われている。この方法で実際にナノメートルサイズの有機分子被覆金ナノ微粒子を合成し磁化測定を行うと、驚くことに外部磁場の増加とともに磁化が増加する超常磁性2) 的な、正の磁化が観測された。これは金ナノ微粒子のひとつひとつが強磁性(=磁石にくっつく)であることを示している。しかしながら、通常の磁化測定では、微粒子とその被覆有機分子全体を測定してしまうため、試料中の微量な強磁性不純物を測定している可能性が指摘されており、金微粒子そのものから生ずる磁化を直接的に測定してこの現象を検証することが強く求められていた。
2.手法
放射光を用いたX線磁気円二色性(XMCD: X-ray Magnetic Circular Dichroism)3) の実験は上記のような困難を見事に解決することができる。XMCDの測定では特定の元素の吸収端における右偏光と左偏光の吸収の差からその元素の磁気的な分極を評価することができるため、金の吸収端(L3-edge = 11.919 keV、L2-edge = 13.734 keV)でのXMCD強度を外部磁場の関数として測定することにより、被覆有機分子あるいは不純物の影響を受けずに金ナノ微粒子そのものの磁化過程を測定することができる。本研究では、金ナノ微粒子の元素選択磁化(ESM: Element-Specific Magnetization)をXMCDにより測定し、ナノサイズ領域の磁気偏極現象を直接検証することを目的とした。実験は高輝度光科学研究センターの磁性材料ビームラインBL39XUでダイヤモンド移相子を使った偏光変調法による高精度XMCD測定を行った。測定した試料はアルキル直鎖状高分子の一種であるポリアリルアミン塩酸塩(PAAHC)被覆金ナノ微粒子(平均粒径1.9 nm)である。
3.今回明らかになったこと
温度2.6 K、外部磁場10 Tの条件下でAu L3、L2端で測定したXMCDスペクトル(図2)には、明らかにL3端で負、L2端で正の信号が見られ、金原子由来の磁気偏極が存在していることを示している。このXMCDの信号強度を磁場の関数としてプロットしたもの(ESM)をSQUID磁束計で測定した磁化過程に重ねて図3に示す。磁場の増加とともにXMCD強度の増加がみられ超常磁性的に振舞うことが分かった。XMCD強度の温度変化も帯磁率の振る舞いとほぼ一致しており、矛盾のない結果が得られた。また、粒径が大きくなるにつれ磁化が小さくなるという磁化測定の傾向と一致したXMCD強度が得られたところから、磁気偏極が純粋にサイズに起因していることが明らかとなった。
4.今回の成果が今後どのように展開していくか
今回の測定によりナノサイズ領域における金微粒子の磁気偏極が初めて確認された。最近、バルクでは化学的に不活性である金が粒径2〜3 nm程度の金微粒子にすると触媒活性が上がるという事実が報告されており、このサイズ領域での磁気偏極現象との関連に興味が持たれる。また、超高密度記録媒体用の磁性材料として磁性元素と貴金属元素の合金が優れた特性を持つことが知られており、本研究の結果が今後のナノ磁性微粒子材料の設計指針となると期待される。
<参考資料>
<用語解説>
1)反磁性
物質に外部から磁場を加えると磁場の向きと反対方向に磁化する現象。ほとんどの有機物質のほか、銅、金などの一部の金属でもこの現象が見られる。
2)超常磁性
ナノメートルサイズの磁性体にみられる磁気的な状態のひとつ。磁気エネルギーは磁性体の体積に比例するため、ナノ粒子の磁気エネルギーは非常に小さく、周囲の熱エネルギーによって磁化の向きがたやすく乱されてしまう。このため、ひとつひとつのナノ粒子が強磁性 (磁化) を持っている場合でも、異なる粒子間では磁化の向きはばらばらになろうとする。この状態を超常磁性とよぶ。磁場を加えたり、温度を変えて磁化測定をすることにより、超常磁性を通常の強磁性や反磁性と区別することができる。
3)X線磁気円二色性
磁化した物質に円偏光したX線を照射したとき,円偏光の回転方向によってX線の吸収強度に差が見られる現象のこと、あるいは吸収強度の差分量そのものを指す。X線磁気円二色性の大きさは、物質の磁化の大きさに比例する。物質に含まれるすべての元素は特定のエネルギーのX線を強く吸収し、そのエネルギー (吸収端) は元素の種類によってそれぞれ異なる。このことを利用し、X線のエネルギーを観測したい元素の吸収端エネルギーに同調させて磁気円二色性を測定することにより、特定の元素の磁性についての情報、とりわけ磁性の起源となる電子の状態を詳細に調べることができる。
<本研究に関する問い合わせ先> <SPring-8についての問い合わせ先> |
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