ダイカスト材の疲労破壊現象の解明に成功 - 自動車部品のさらなる信頼性向上と高性能化への期待 -(プレスリリース)
- 公開日
- 2011年06月02日
- BL47XU(光電子分光・マイクロCT)
平成23年6月2日
国立大学法人 豊橋技術科学大学
株式会社 アーレスティ
財団法人 高輝度光科学研究センター
豊橋技術科学大学(学長 榊 佳之)と(株)アーレスティ(社長 高橋 新)は、高輝度光科学研究センター(以下「JASRI」、理事長 白川哲久)と共同で、金属疲労の原因である、アルミニウム合金の鋳造の際に金属の表面に発生する気孔の配列パターンと疲労き裂の発生に関係があることを、大型放射光施設SPring-8※1 の高輝度X線を用いて世界で初めて明らかにしました。 金型鋳造法のひとつで、金型に溶融した金属を圧入するダイカスト法※2は、優れた寸法精度と高い生産性を有することから、薄肉部品を中心に自動車、家電、建築、産業機械などの製品に使われています。最近、ダイカスト法の工法開発が進み、自動車の足回り品のような信頼性が要求される部品を製造することができる工法が開発され、実用化されています。しかし、疲労試験において亀裂生成の時期、場所にバラツキが生じており、航空部品のようにさらに信頼性を要求される部品への適用にまでは至っていません。また、気孔と金属疲労に大きな関係があることが指摘されていましたが、これまでそれを解析する計測ないし観察手法がなく、それを調べることができない状態でした。しかし、SPring-8の高輝度X線によって、その解析が可能となりました。 研究グループは、SPring-8の高輝度X線CTスキャンによって、気孔が高密度に集まった状態と金属材料の疲労特性の関係を統計的に解析し、その配列パターンと疲労き裂の発生に関係があることを明らかにしました。これにより、ダイカスト法のさらなる信頼性の向上と高性能化により、従来適用が困難であった自動車部品や航空機部品への適用の可能性が出てきました。 今回の研究成果は、豊橋技術科学大学 戸田裕之 教授、(株)アーレスティ 技術部 青山俊三 主席研究員、小野寺真人 課長、古澤良介 係員、JASRI 上杉健太朗 研究員、竹内晃久 副主幹研究員、鈴木芳生 副主席研究員らのグループの共同研究によるもので、2011年6月2日に科学雑誌 「Acta Materialia」のオンライン版に掲載されます。 (論文) |
1.研究の背景
金型鋳造法のひとつで、金型に溶融した金属を圧入するダイカスト法は、優れた寸法精度と高い生産性を有することから、薄肉部品を中心に自動車、家電、建築、産業機械などの分野で広く普及している生産方法である。その高い生産性は、高速で金属の溶湯を金型に充填するプロセスによってもたらされる。しかし、この高速での充填は、製品へのガスや介在物の混入をももたらすため、高い信頼性を必要とする製品への適用は困難であった。しかし、近年では、高速充填とガスや介在物の混入防止を両立できるNI(New Injection)鋳造法などの特殊ダイカスト法が実用化されている。これによって作られる高品位ダイカスト製品は、高い強度などの特性と優れた信頼性を有する。これにより、部品に不具合が生じた場合に直接人命に影響を及ぼし、従来のダイカスト法では製造できなかった、自動車のサスペンションアームなどの足回り部品なども製造されるようになっている。
豊橋技術科学大学と(株)アーレスティは、ダイカスト材の信頼性をさらに向上させるため、2007年度より共同研究を開始した。2008年4月には、(財)高輝度光科学研究センターが運転管理する大型放射光施設SPring-8の光電子分光・マイクロCTビームライン(BL47XU)で高輝度放射光を用いたX線CTスキャン(コンピューター断層撮影)を適用し、ダイカスト材の3D高分解能内部観察、およびその疲労破壊プロセスの鮮明な4D観察(3Dの連続観察)に成功した。これにより、これまで見つかっていなかったダイカスト材表面直下に高密度に分布するポア※3(直径数ミクロンの微細なポアの集合体:1ミクロンは1mmの1/1000)が発見された。さらに、この高密度ポアの有無が疲労破壊する場合の製品の寿命に大きな影響を及ぼすことを突き止めた。この共同研究成果は、(社)日本鋳造工学会の論文誌「鋳造工学」に発表されている(「熱処理したアルミニウム合金ダイカストで新たに見つかった鋳肌欠陥とその疲労特性への影響」、鋳造工学、Vol.81、No.10、2009、475-481)。この論文は、2010年5月22日付で日本鋳造工学会論文賞を受賞するなど高く評価されている。
2. 研究内容と成果
先に見つかったダイカスト材の表面直下の高密度ポアは、アルミニウムの液体と固体の水素含有量に大きなギャップがあるという物理的な原因に基づいて発生し、いかなる製造手法を用いても完全には取り除くことはできないと考えられる。そこで、豊橋技術科学大学と(株)アーレスティは、SPring-8での高輝度放射光X線CTスキャンを用いた共同研究をさらに進め、ポアが高密度に集まった状態と金属材料の疲労特性の関係を統計的に解析した。その結果、ポアの配列パターンと疲労き裂の発生に関係があることが明らかになった。つまり、複数のポアが局部的に近接しており、かつそれが表面に近い場合に疲労き裂が発生する傾向が認められた。
3.今後の展開
前述のように、高密度ポアの発生を完全に抑止することは物理的に困難と思われるが、ポアの配列パターンを評価し制御できれば、自動車の足回り部品であるサスペンションアームなど多くの鋳造製品について、さらなる製造プロセスの変更や高価な材質への変更なしに製品の疲労特性や信頼性の向上が達成できる可能性が示唆された。
この成果は、材料工学で最も権威のある英文誌である科学雑誌 「Acta Materialia」のオンライン版に、2011年6月2日に掲載される。
4.論文掲載
雑誌名:Acta Materialia, 第59巻
論文題名:"Statistical assessment of fatigue crack initiation from sub-surface hydrogen micropores in high-quality die-cast aluminium"
(高品位ダイカストアルミニウム材における表面直下の水素ミクロポアからの疲労き裂発生の統計的解析)
著者:Hiroyuki Toda, Shotaro Masuda, Rafael Batres, Masakazu Kobayashi, Shunzo Aoyama, Masato Onodera, Ryosuke Furusawa, Kentaro Uesugi, Akihisa Takeuchi and Yoshio Suzuki
《参考資料》
SPring-8のシンクロトロン放射光X線CTスキャンによる。
SPring-8でのシンクロトロン放射光X線CTスキャンを用いた。
上図のP1~P4は疲労破壊のもととなるき裂を発生させた近接ポア。
表面に近く、近接する度合いの強いものほど疲労き裂を発生させ易い。
µmオーダーのポアが集合し、かつそれが表面から3~4µm以内の
範囲に存在すれば疲労破壊につながる。
《用語解説》
※1 大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、その運転管理は高輝度光科学研究センターが行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。
※2 ダイカスト法
金型鋳造法のひとつで、金型に溶融した金属を圧入することにより、高い寸法精度の鋳物を短時間に大量に生産する鋳造方式。自動車のエンジンやトランスミッションといったパワートレイン関連の部品の製造に多用されている。
※3 ポア
気孔であり、ひとまとまりの物体に含まれる微小な空洞である。
《問い合わせ先》 (SPring-8に関すること) |
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