「新型SnO2ナノ粒子/Pt3Co/C電極触媒の開発に成功」—次世代燃料電池触媒設計のガイドラインを提供—(プレスリリース)
- 公開日
- 2015年10月21日
- BL36XU(先端触媒構造反応リアルタイム計測)
2015年10月21日
国立大学法人 電気通信大学
2014 年12 月にトヨタ自動車から燃料電池車MIRAI が市場投入され、来年にはさらに国内外の他自動車メーカーから燃料電池車の市場投入が予定されている。無尽蔵な水素と空気から電気を得ることができる燃料電池は、エネルギー・資源が乏しく自然災害多発の我が国にとって、持続的社会を保証するエネルギー多様性の確保と水素社会の実現のために必須で基盤的な科学技術である。しかし、燃料電池自動車の本格普及にとって燃料電池電極触媒の性能・耐久性の大幅向上が緊急の最大の問題の一つであり、問題解決のための触媒機能最大限化と耐久性向上のメカニズムの解明と次世代触媒開発の設計指針の提示が強く求められている。 論文情報 |
Sn/Pt 比による触媒性能のチューニング(b)。
Pt3Co ナノ粒子は周期的格子像が観測される(a, b)のに対し、SnO2/Pt3Co ナノ粒子は格子が乱れ変位し格子間が縮み(c, d)スケルトン表面Pt 層が形成されている(e, f)ことが分る。
成果3.SnO2/Pt3Co/C 電極触媒は、通常のPt/C 電極触媒に比べ約5-8 倍の高い活性を示し、Pt3Co/C 電極触媒に比べても2 倍以上の質量活性を示す(a, b)。さらに、SnO2/Pt3Co/Cは1 万回の電圧負荷試験を行っても殆ど減少しない優れた耐久性を示す(c, d)。
《内容》
① 固体高分子形燃料電池(PEFC)はゼロエミッション可能なクリーンエネルギー発電装置としてわが国の持続社会発展を支える科学技術として期待されている。PEFC は低温で高電流密度が得られ、エネルギー変換効率が高いという利点を併せ持つ。 わが国は2009 年に世界に先駆けて定置用燃料電池の市場投入(エネファーム)に成功し、2014年12 月には燃料電池自動車MIRAI が世界で初めて市場投入され、他の自動車メーカーも2016 年の市場投入を予定している。
② 無尽蔵な水素と空気から電気を得ることができる燃料電池は、エネルギー・資源が乏しく自然災害多発の我が国にとって、持続的社会を保証するエネルギー多様性の確保と水素社会の実現のために必須で基盤的な科学技術である。
③ 2025 年以降の本格普及のためには、燃料電池カソード触媒の大幅な活性向上、業務車両向けに長期耐久性の大幅改善、および格段の低コスト化が求められている。これらの課題解決のために触媒機能最大限化と耐久性向上のメカニズムの解明と次世代燃料電池触媒開発の設計指針の提示が強く求められている。
④ 我々は、Pt3Co バイメタルナノ粒子表面に選択的にSnO2 ナノアイランドを形成させる手法を開発し(特許出願)、新型SnO2 ナノ粒子/Pt3Co/C 燃料電池電極触媒を設計・作製することに成功し、世界トップクラスの性能と高い耐久性を実現した(米国のJ. Am.Chem. Soc. 誌のon-line 版に掲載決定、2~3 か月後に冊子体掲載予定)。
⑤ 優れた性能の実現は、格子が縮んだスケルトン白金表面の反応サイト(Site 1)とSnO2 ナノ粒子界面の反応サイト(Site 2)の二つの活性サイトを作り出すことに成功したことによる。すなわち、本研究で表面構造と電子状態を同時にチューニングする方法を見出した。
⑥ 活性ナノ粒子の構造と電子状態は、大型放射光施設SPring-8 に電通大/NEDO が新たに建設した世界オンリーワン・世界最高性能の燃料電池計測用のX 線吸収微細構造(XAFS)ビームラインBL36XU、高分解能電子顕微鏡等により明らかにされた。
⑦ それによると、従来の燃料電池触媒Pt/C、Pt3Co/C 等は電位の上昇過程(0.4VRHE→1.0 VRHE)と下降過程(0.4 VRHE→1.0 VRHE)とで表面構造と電子状態の変化にヒステリシスを示すのが普通であるが、新型SnO2 ナノ粒子/Pt3Co/C 電極触媒はヒステリシスを示さない特徴を示す。また、新型SnO2 ナノ粒子/Pt3Co/C 電極触媒は、性能劣化の原因となる粒子成長や表面構造破壊などがほとんど見られない優れた特徴も示す。
⑧ 今後の燃料電池車本格普及のための燃料電池触媒設計の一つのガイドラインとなるものと期待される。
《研究経費》
本研究は主に下記NEDO プログラムにより行われた。
(1) 固体高分子形燃料電池実用化推進技術開発/MEA 材料の構造・反応・物質移動解析
“時空間分解X線吸収微細構造(XAFS)等による触媒構造反応解析”
(2) 固体高分子形燃料電池利用高度化技術開発/普及拡大化基盤技術開発/触媒・電解質・MEA 内部現象の高度に連成した解析、セル評価/MEA 劣化機構解明/時間空間分解XAFS 等計測技術を用いた燃料電池触媒構造反応解析
《用語解説》
1. 固体高分子形燃料電池(PEFC: polymer electrolyte fuel cell)
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、イオン伝導性を有する高分子膜(イオン交換膜)を電解質として用いる燃料電池です。初期はプロトン交換膜燃料電池(PEMFC:protonexchange membrane fuel cell)と呼ばれていましたが、1992 年に当時の通商産業省がニューサンシャイン計画を導入する際、米国における学術的呼称である"polymerelectrolyte fuel cell"の和訳として「固体高分子型燃料電池」という語を用いるようになってから固体高分子型という呼称が定着するようになり、さらに、JIS における標準用語を燃料電池に対して制定された際、タイプをしめす言葉として形が用いられ、このタイプの燃料電池のことを「固体高分子形燃料電池」と定められ、この用語が定着しました。しかし、ナフィオンなどのプロトン交換膜を用いた場合は、今日でもPEMFC と呼ばれることもあります。PEFC の基本構造は、燃料極(アノード)、固体高分子電解質膜、空気極(カソード)を貼り合わせて一体化した膜/電極接合体 (MEA :Membrane Electrode Assembly,)を、反応ガスの供給流路が彫り込まれた導電板で挟みこんだスタック構造をしているものです(図1)。アノード触媒とカソード触媒は、一般に、カーボン担体上に白金ナノ粒子を担持したものです。
2. X 線吸収微細構造(XAFS:X-ray Absorption Fine Structure)
燃料電池触媒等の固体触媒の多くが、結晶のような周期的構造を持たない微小ナノ粒子であり、それらが炭素のような担体の表面に分散した状態にあり、結晶構造解析法であるX 線回折(XRD)が適用できません。また、電子顕微鏡では高真空下での測定であり、化学結合など分子構造が不明です。このような物質の局所構造解析に極めて有効な手法がXAFS 法です。X 線を物質に照射するとX 線の吸収に伴い測定対象原子の電子が飛び出し、周辺に位置する原子によって散乱・干渉が起こります。この時、X 線吸収スペクトルに微細構造が観察され、X 線吸収微細構造(XAFS)と呼ばれます。
物質のX 線吸収スペクトルは、図2に示すようにX 線吸収端近傍構造(XANES:X-ray Absorption Near-Edge Structure)と広域X 線吸収微細構造(EXAFS: Extended X-rayAbsorption Fine Structure)から成ります。XANES から対象原子の酸化数、対称性、および混合物の場合その割合が分かり、EXAFS からは、対象原子の近傍に存在する原子の種類や数、距離に関する局所構造情報が得られます。
XAFS では透過力の強い硬X 線を用いるため、(1) 試料の形態、種類にはほとんど影響されない(結晶、非晶質、デバイス、液体、ガス、生体内物質など)、(2) in-situ 環境・反応条件下で計測可能など、測定雰囲気に制限されない、(3) 複数の元素が混じっていても測定に支障ない、(4) 感度が高い(ppm 濃度、0.1 nm 薄膜)という特長があります。
一方、(1) XAFS から得られる情報は平均構造情報である、(2) XRD ほど構造解析が精密でないという欠点もあります。これら欠点はありますが、担体表面に不均一に分散担持されているナノ金属粒子からなる化学プロセス触媒、自動車触媒、燃料電池触媒、環境触媒など多くの触媒の構造解析にはXRD などが適用できず、XAFS が唯一の分子レベルの構造解析手法です。特に他の分析法がほとんど適用できない燃料電池電極触媒の作動下でのin-situ 解析には極めて強力なツールとなります。放射光を用いたXAFS 計測は、今や多くの固体触媒の構造解析に必須の手法として定着しています。
《燃料電池と電極触媒解説》
○ SPring-8 Channel(YouTube) (動画)
https://youtu.be/WR_4gnMDMUU
○ 研究成果について (概略と動画)
http://commune.spring8.or.jp/finding/120601.html
<<問い合わせ先>> (SPring-8に関すること) |
- 現在の記事
- 「新型SnO2ナノ粒子/Pt3Co/C電極触媒の開発に成功」—次世代燃料電池触媒設計のガイドラインを提供—(プレスリリース)