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2017年07月05日
2017年7月5日
国立大学法人 電気通信大学
公益財団法人 高輝度光科学研究センター
次世代燃料電池開発のための「世界オンリーワン・世界最高性能」解析用に電通大/NEDOが建設した大型放射光施設SPring-8のビームラインBL36XUにおいて、「世界オンリーワン」のその場/オペランド燃料電池マルチ同時計測システムの開発整備に成功し、それにより、その場/オペランド、時間軸、空間軸での3次元的な視点から燃料電池内の電極触媒の構造・電子状態の“生きた”情報を捉えることができるようになり、高活性・高耐久性を併せ持つ次世代燃料電池電極触媒PtNix/Cの開発設計指針の基盤因子を具体化することに成功した。
将来の水素社会、超スマート地域社会のクリーンなエネルギー源と期待される燃料電池内の電極触媒の作用は、いまだブラックボックスの状態であり、次世代燃料電池電極触媒の開発設計指針を得ることは依然として難しい。その障害を乗り越え触媒性能や劣化の因子とメカニズムを明らかにするためには、燃料電池触媒の働きがウエット状態下でダイナミックに起こるため、燃料電池作動下(“干物”や“釣った魚”でなく“泳いでいる生きた魚”)を評価・解析することが重要であって、それを実現できる新しい計測・評価法が必要であった。今回、「世界オンリーワン」世界最高性能ビームラインBL36XUにおいて、燃料電池内の電極触媒の “生きた”情報を捉えることができる「世界オンリーワン」のオペランド燃料電池マルチ同時計測システムの開発整備を実現した。また、BL36XUビームラインで明らかにした燃料電池電極触媒の振る舞いから、高活性・高耐久性を併せ持つ次世代燃料電池電極触媒開発に必要な設計指針の基盤的側面を具体化することに成功した。
2014年12月にトヨタから燃料電池車MIRAIが市場投入され、2016年3月にホンダから燃料電池車クラリティFUEL CELLが市場(リース)投入されたが、燃料電池自動車の本格普及にとって燃料電池電極触媒の耐久性の大幅向上が緊急かつ最大の問題の一つであるため、電極触媒の性能向上の要因と同時に触媒機能劣化の原因とメカニズムの解明が強く求められている。NEDO燃料電池プログラムで建設したBL36XUビームラインを用いて、我々はこれまで、実用燃料電池内電極触媒の詳細な電位依存構造変化をin-situ XAFS計測により解明してきており、また、ダイナミックな触媒作用をoperando時間分解XAFS法により解析を実現しており、さらに、2次元空間分解XAFS法により、大気圧飽和水蒸気下でナノ集光XAFSと電子顕微鏡との同一試料・同視野での計測に成功してきた(世界初)。BL36XUビームラインは昨年からNEDOプログラム参加者に公開しており、現在、世界オンリーワン・世界最高性能のBL36XUの計測技術・解析技術を利用して、多くの他大学・研究機関がNEDOプログラム開発研究を遂行している(電通大Grが支援・協力)。
次世代燃料電池電極触媒のための開発設計指針を得るためには、最先端計測手法といえども、一つの解析手法では高活性・高耐久性を併せ持つ電極触媒の開発設計指針を明らかにすることは難しい。また、燃料電池内の電極触媒層は不均一で試料ごとに違いが見られることも多く、異なる時期に別々の手法により別々に計測している従来の解析では、その結果が試料の違いによるのか試料の場所による違いなのか装置の条件による差なのか判断が難しく、特に燃料電池試料の場合、不均質な固体触媒以上に、再現性も含めて信頼性高く精度よく解明することが難しく、明確な結論を得るに至らないことも多い。
今回、BL36XUで開発してきた計測手法をさらに高度化(高性能化、効率化など)し、それらの手法を組合わせて同時計測できるシステムを設計開発整備し、BL36XUビームラインに、同一試料の同一箇所に対して同時に複数の手法による計測ができるマルチ同時計測システムを実現することに成功した。
一方、高活性・高耐久性を併せ持つ電極触媒の開発はどのように進めればよいのか、設計開発指針は依然として明らかでなく、これまで主に経験を頼りに議論・対応が図られてきた。今回、開発したマルチ同時計測システムにより、電位過渡応答過程における燃料電池電極触媒のダイナミックな構造変化を含む8つの素過程からなるメカニズムを詳細に明らかにすることに成功した。また、BL36XUビームラインでの計測を基礎にして、高活性と高耐久性を併せ持つ新規の湾曲型正8面体PtNix/C電極触媒を用いて、次世代燃料電池電極触媒の開発設計指針の基盤因子を具体化することに成功した。
世界オンリーワンの計測手法が開発整備されたBL36XUビームラインは、今後、多くの試料に展開可能である。他では得られない劣化機構解明と劣化抑制の解決に繫がる多角的情報を提供し、今後の燃料電池車本格普及のための次世代燃料電池触媒作用の理解を助け、開発設計を大幅に加速すると期待される。 |
成果
世界オンリーワン・マルチ同時計測システムの開発整備に成功
•世界オンリーワンの同時計測の組み合わせ
◇同時時間分解XAFS-XRD
◇同時HR-XANES-XRD-2次元空間分解投影イメージ
同一試料・同一箇所の同時計測が実現したことにより、異なる試料や異なる箇所、異なる時の計測に比べ、より高い精度で燃料電池触媒の解析が可能となった。
•同一箇所で同時系列in-situ/operando計測ができる世界オンリーワンのビームラインの開発整備
◇同一試料の同一箇所について、状態分析、時間分解分析、空間分解分析、結晶回折、発光分光など、マルチ計測が可能。
マルチ同時系列計測が実現したことにより、構造、電子状態、バルク結晶、2次元および3次元イメージング、吸着種などに関する多角的情報が得られ、1種類の情報だけでは分からない正確で詳細な燃料電池解析が可能となった。
次世代燃料電池電極触媒開発の設計指針の基盤因子を提供
•世界オンリーワン時間分解XAFS-XRD同時計測による燃料電池Pt/C触媒の電位過渡応答過程の触媒作用メカニズムの可視化
◇電位が0.4 Vから1.4 Vに上昇すると1~2秒でPt表面に酸素が飽和吸着し、その後10秒程度かけて表面PtO層が形成される。この時、Ptコアサイズが12%縮まる。逆に、電位が1.4 Vから0.4 Vに下降すると1~2秒でほとんどのPtO層が還元されPtナノ粒子に戻り、元のサイズに拡大、回復する。
触媒作用は、Ptナノ粒子とその表面のダイナミックな構造変化を伴う8つの素過程により組み立てられている詳細が明らかになった。これにより、次世代燃料電池システムの設計開発のための触媒材料特性とシステム制御の時間スケールの基盤情報を提供できた。
•新規湾曲型正八面体PtNix/C電極触媒を用いた次世代燃料電池触媒の開発設計指針の具体化
◇湾曲型正八面体PtNix/Cは、高活性と高耐久性を併せ持つ特徴を持つ。当該触媒の構造をBL36XUビームラインXAFS等を用いて詳細に解析。
高活性と高耐久性を併せ持つ特性は、正8面体の8つの(111)面の凹湾曲形状、2~3.6%の格子圧縮歪み、PtNi金属間化合物コア、PtとNiの対称的分布から生み出されていることが明らかになった。これにより、高活性、高耐久性を併せ持つ次世代燃料電池触媒の開発設計指針の基盤因子を具体化することができた。
問い合わせ先
(研究内容)
国立大学法人 電気通信大学 燃料電池イノベーション研究センター
センター長・特任教授 岩澤 康裕
TEL:042-443-5921
E-mail:iwasawapc.uec.ac.jp
(報道関係)
国立大学法人 電気通信大学 総務課広報係 [担当:金子、渡辺]
TEL:042-443-5019
E-mail:kouhou-koffice.uec.ac.jp
(SPring-8 / SACLAに関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課
TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
E-mail:kouhou@spring8.or.jp |