隕石中に小惑星の氷の痕跡を発見 -氷が抜けてできた空間を放射光X線CTで発見-(プレスリリース)
- 公開日
- 2019年11月21日
- BL47XU(光電子分光・マイクロCT)
2019年11月21日
国立大学法人 東北大学大学院理学研究科
国立大学法人 京都大学大学院理学研究科
学校法人立命館 立命館大学 総合科学技術研究機構
国立研究開発法人 海洋研究開発機構
公益財団法人 高輝度光科学研究センター
【発表のポイント】
• 小惑星由来の炭素質コンドライト(注1)の内部を大型放射光施設SPring-8(注2)の光電子分光・マイクロCTビームライン(BL47XU)のX線CTによりナノスケールで観察し、氷が抜けてできたと考えられる空間を多数発見。
• 隕石中の氷の痕跡の分布をもとに、隕石母天体内の氷分布を推定。
• これらの発見をもとに、小惑星が太陽系内を外側から内側へ移動しながら、氷を含む塵を集積して成長する新たなモデルを提案。
東北大学院理学研究科地学専攻の松本恵助教と共同研究チーム(京都大学、立命館大学、中国科学院、海洋研究開発機構、高輝度光科学研究センター、ロンドン自然史博物館など)は、放射光X線CT(注3)を使って炭素質コンドライトの一つAcfer 094隕石の内部を観察し、氷が抜けてできたと考えられる小さな空間を多数発見しました(図1)。 論文情報 |
【詳細な説明】
太陽系は今から約45.7億年前に誕生しました。それから数千万年の間に、宇宙の氷や塵が集まって小さな天体をつくり、それらが衝突合体を繰り返して原始惑星が形成され、さらに現在の惑星に進化したと考えられています。このような太陽系初期の天体形成過程に関する情報を現在も記録しているのが、小惑星や彗星といった太陽系の小天体です。昨今、「はやぶさ計画」をはじめ、小惑星や彗星をターゲットとする探査ミッションが多く計画・実行され、観測とリターンサンプル分析の両面から、太陽系天体の初期進化過程の解明が進められています。
小惑星から飛来する隕石もまた、太陽系初期の情報を記録している貴重な試料です。その中でも、炭素質コンドライトは、水や有機物を多く含むことから、地球の水や生命の起源を探る重要な手掛かりとされています。隕石中の水は、含水鉱物の構造水として含まれています。含水鉱物は、小天体内の氷が融けて生じた水と岩石との相互作用によって形成されるため、炭素質コンドライトの母天体(の一部)は、太陽系の低温領域で形成した氷–岩石天体と考えられています。しかし、氷が小惑星内にどのように分布していたのかは、これまでよくわかっていませんでした。
今回我々は、放射光X線CTにより、炭素質コンドライトの一つAcfer 094隕石の内部を観察し、マイクロサイズの空洞を多数発見しました(図1)。他の多くの隕石には、このような空洞は見られません。これは、隕石母天体形成時の圧密作用により鉱物粒子間の空間が潰れてしまうためと考えられます。Acfer 094隕石中に空洞が見られたことは、隕石母天体形成時に空洞を埋めて支えた固体物質が存在したことを示しています。その候補として考えられるのが、氷と揮発性の有機物です。今回、空洞周辺を詳細に観察した結果、有機物が抜けた痕跡は見られず、一方で氷が融けて生じた水と岩石の相互作用の痕跡が見られたことから、空洞にはもともと氷が存在していた可能性がきわめて高いことがわかりました。これら氷の痕跡は、隕石母天体内の氷の分布を知る上で重要な手掛かりとなります。
氷が抜けてできたと考えられる空間は直径10 µm程度で、隕石中に万遍なく見られました(図3)。このような大きさの氷の塊は、宇宙の塵(氷–ケイ酸塩粒子の多孔質な集合体)が、太陽系の雪線付近で焼結作用を被ることにより形成されます。このことから、氷は雪線付近で隕石母天体内に取り込まれ、その後、それらの氷が融けて無くなることで、今回観察されたマイクロサイズの空間が生じたと考えられます。
実際にAcfer 094隕石中には、氷が融けて生じた水により含水化したケイ酸塩粒子が多く含まれていました。一方で、これらケイ酸塩粒子中の水の量を全て賄うためには、観察された氷の量より遥かに多量の氷が必要であることがわかりました。このことは、母天体内の氷の分布は不均質であり、隕石が放出された場所とは別の所に、もっと多量の氷が存在していたことを示唆しています。
これらの発見をもとに、本研究では、Acfer 094隕石の母天体形成について以下のようなモデルを提案しました(図4)。
- ①母天体の小惑星は、塵を集積して成長しながら太陽系内を外側から内側に雪線を越えて移動。雪線より外側では氷–ケイ酸塩粒子からなる多孔質な塵が、内側では氷を含まないケイ酸塩粒子からなる多孔質な塵が集積。
- ②雪線付近では、氷–ケイ酸塩粒子からなる多孔質な塵が温度上昇による焼結作用を受けて、氷とケイ酸塩粒子の(隙間のない)塊を形成。それらは、氷を含まない塵と共に隕石母天体表面に集積する。
- ③隕石母天体内で氷が融けて水が生じ、ケイ酸塩粒子の一部が含水化。このとき、氷が融けて無くなることで、今回観察されたマイクロサイズの空間が生じる。
- ④母天体の一部が破砕され、その破片が宇宙空間に放出され隕石となって地球に飛来。
①の過程により、母天体内部に氷に富むコアと氷に乏しいマントルが形成され、氷の分布は不均質となります。③の過程でケイ酸塩粒子を含水化させた水の大部分は、母天体内部の氷に富むコアから供給されたと考えられます。近年、太陽系初期に、木星型惑星の軌道変化の影響を受けて、①のような小惑星の太陽系動径方向の移動が起こっていたことが、理論的研究からも示唆されています。
このような太陽系初期の氷–岩石天体の形成過程に関する新たなモデルは、今後の隕石やリターンサンプル分析結果の解釈に新たな視点を加える点で重要です。
【参考図】
図1:箱型に成形した隕石試料のX線CT (8 keV)による断面像。白色の点線で囲まれた部分に、黒色の空隙が多く含まれている。もともと在った氷が抜けてできた空間と考えられる。明るい灰色~暗い灰色の物質はケイ酸塩粒子。白い物質は硫化鉄粒子。Copyright: Megumi Matsumoto et al.
図2:雪線付近での焼結作用により、宇宙の塵(氷–ケイ酸塩粒子の多孔質な集合体;左)は、隙間のない氷とケイ酸塩粒子の塊(右)に形を変える。Copyright: Megumi Matsumoto et al.
図3:(A)氷の痕跡の電子顕微鏡写真、暗い灰色の空隙が多く見られる。(B)Acfer 094隕石試料の広範囲の電子顕微鏡写真と(C)試料内の氷の痕跡の分布の様子。氷の痕跡は、隕石内に万遍なく見られる。Copyright: Megumi Matsumoto et al.
図4:Acfer094隕石母天体の形成過程の模式図。Copyright: Megumi Matsumoto et al.
【謝辞】
本研究は独立行政法人日本学術振興会の科学研究費補助金(科研費)No.15H05695, No.18H04468, No.18K18795の助成を受けて行われました。また放射光分析は、公益財団法人高輝度光科学研究センター SPring-8の共同利用課題No.2016A1245, No.2016A1253, No.2016B1350, No.2016B1351, No.2017A1442, No.2017A1496, No.2017B1517のもとで行われました。
【用語説明】
(注1)炭素質コンドライト
太陽系誕生当時やそれ以前の物質を保存している隕石グループの総称であり、水や有機物を多く含んでいる。日本の探査機はやぶさ2が着陸した小惑星リュウグウは、これまでの観測から炭素質コンドライト質の物質でできていると予想されている。
(注2)大型放射光施設SPring-8
理化学研究所が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある大型放射光施設で、利用者支援は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8では、放射光と呼ばれる非常に強いX線を用いて生命科学・惑星科学・材料科学・産業利用まで幅広い利用研究が行われている。
(注3)放射光X線CT
高速の電子ビームが磁場の中でローレンツ力により曲げられた時に発生する光を放射光と呼び、赤外線、可視光、紫外線、X線など様々な波長の光が含まれている。本研究では、このうちX線を利用して隕石の内部構造を観察するX線CT実験を、大型放射光施設SPring-8の光電子分光・マイクロCTビームライン(BL47XU)で行った。
(注4)雪線
ここでの雪線とは、太陽系内でH2Oが水蒸気から氷となる領域の太陽からの距離を指す。雪線よりも外側の低温領域ではH2Oは氷として存在する。太陽からおよそ3 AU(1 AU=地球と太陽の間の距離)の位置が雪線位置とされている。
(注5)焼結作用
太陽系の雪線より少し外側の領域では、温度上昇により宇宙の塵(氷–ケイ酸塩粒子の多孔質な集合体)に含まれる氷が昇華し、再び塵の表面に凝縮する現象が起こると予想される。ここでは、この現象を焼結作用と呼ぶ。焼結作用により、スカスカの宇宙の塵は、隙間のない氷とケイ酸塩粒子の塊に形を変える。
【問い合わせ先】 (報道に関すること) (SPring-8 / SACLAに関すること) |
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