Speaker: 上田大貴
Language: 日本語
Affiliation: 理化学研究所 放射光科学研究センター
Title: 共鳴回折による磁気ドメイン観察に基づいた六方晶フェライトが示すマルチフェロイック特性の解明
Abstract:
強誘電性や強磁性といった複数の強的(フェロイック)秩序を併せ持つマルチフェロイック物質は、電気分極や磁化などの秩序変数が互いに絡み合うことで非自明な電気磁気応答を示すことが知られており、基礎研究のみならず応用を見据えた研究も展開されている[1]。しかしながらこれまでに報告されている多くのマルチフェロイック物質の動作温度は室温よりはるかに低温であり、これが実用化への大きな障壁の一つとなっている。六方晶フェライトと総称される物質群では、室温動作可能なマルチフェロイック物質(例えばY型六方晶フェライトBaSrCoZnFe11AlO22 [2]、Z型六方晶フェライトSr3Co2Fe24O41 [3])がいくつか報告されており、実用化への障壁を乗り越え得る材料として注目を集めている[4]。が、非常に複雑な結晶・磁気構造を有するためにマルチフェロイック特性に関しては主に巨視的な電気磁気応答に基づいて議論されており、その詳細については踏み込み切れていなかった。
本講演では、複雑な磁気構造が物質中で形成する不均一な秩序状態、すなわち磁気ドメインとその外場応答の可視化といった実験結果をもとに、巨視的な電気磁気応答とともに包括的に議論することで、六方晶フェライトが示すマルチフェロイック特性の起源を解明するに至った研究[5-7]について示す。対象物質はY型六方晶フェライトBa1.3Sr0.7CoZnFe11AlO22とZ型六方晶フェライトSr3Co2Fe24O41である。これらの物質はそれぞれAlternating longitudinal conical (ALC)構造、Transverse conical (TC)構造と称されるコニカル磁気構造を示す。これらのコニカル構造はともに、異なる2種類の波数ベクトルで記述される磁気構造成分によって構成され、各成分が独立した磁気衛星反射、もしくはBragg反射に寄与する。これらの反射を個々に調べることで、複雑な磁気構造を2つの成分へ分離して議論することが可能となる。
SPring-8 BL17SUにて入射X線として集光した円偏光X線(ビーム径:~ 15x30 μm2)を用いた共鳴回折実験(Fe L3端)を行った。共鳴条件における磁気散乱、および電荷散乱との干渉効果に起因した回折強度の円偏光依存性を利用することで、Y型六方晶フェライト中のALC構造(=ヘリカル+↑↑↓↓共線的反強磁性)、Z型六方晶フェライト中のTC構造(=サイクロイダル+フェリ磁性)において各磁気構造成分が形成するドメインの分離観測に成功した。各ドメイン構造への外部磁場印加効果を調べることで2種類の磁気ドメイン間の結合の有無、すなわち一方の磁気ドメイン制御を介して他方のドメイン構造が同時に制御されるか否か、をそれぞれの六方晶フェライトに対して明らかにした。これらの結果に巨視的な電気磁気応答測定結果とLandau理論に基づいた対称性の議論を組み合わせ、両物質の室温動作可能なマルチフェロイック特性の起源を解明した。
参考文献
[1] Y. Tokura et al., Rep. Prog. Phys. 77, 076501 (2014).
[2] S. Hirose et al., Appl. Phys. Lett. 104, 022907 (2014).
[3] Y. Kitagawa et al., Nat. Mater. 9, 797-802 (2010).
[4] T. Kimura Annu. Rev. Condens. Matter Phys. 3, 93-110 (2012).
[5] H. Ueda et al., Appl. Phys. Lett. 109, 182902 (2016).
[6] H. Ueda et al., Phys. Rev. B 98, 134415 (2018).
[7] H. Ueda et al., in preparation.
担当者: 理化学研究所 放射光科学研究センター 田中良和
e-mail:ytanakariken.jp/PHS: 3347
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