本講座では、放射光施設発展の歴史、SPring-8の加速器の構成、設計の概念、高輝度光源を実現するための条件、世界の放射光施設との比較、光源と しての蓄積リングの現状と特徴、マシンおよびビームラインの運転状況などを紹介する予定である。
放射光とは光速に近い速度を持った相対論的電子ビームが外部磁場により軌道を曲げられた時に発生する電磁波であり、指向性、波長連続性、偏光性、パルス 性などの優れた特徴を持っている。本講義では放射光の特徴、発生原理について解説する。また電子ビームを発生し加速する入射器および電子ビームを長時間 蓄えて放射光を発生させる蓄積リングについてSPring-8施設内にあるニュースバル電子蓄積リングを実例に説明する。 .
挿入光源とは、蓄積リングの偏向磁石の間にある直線部に設置される装置であり、偏向磁石からのシンクロトロン放射光よりさらに質の高い光を得るために考案された光源装置である。本講座では挿入光源からの放射光の特徴と、それらを定性的に理解するための基本的な知識について解説する。
ビームラインは, 挿入光源や偏向電磁石から放射されるシンクロトロン放射光に対して, フォトンエネルギーおよびそのエネルギー幅, 空間および角度的なビーム広がりなどの選択, 加工をして, ユーザの必要とする光を実験ステーションに導くためのものである.本講義では, フロントエンド, 光学系・輸送チャンネル, 遮蔽ハッチ, インターロック・制御系といった要素から構成されるビームラインの全体像について概説する.
応用講座概要
ー放射光粉末法による精密構造物性の研究ー
近年、新しい超伝導体MgB
2をはじめ、フラーレン関連物質、巨大磁気抵抗効果を示す強相関係物質等、様々な新奇構造及び物性を示す物質の創製が盛んに行われている。SPring-8のBL02B2で行われている粉末X線回折は、それらの先端材料について“物質の物性と関連した構造”を次々と電子のレベルで明らかにしてきた。講演では、放射光粉末回折法の紹介と金属内包フラーレン、マンガン酸化物、超伝導体MgB
2等の研究成果を中心に、精密構造物性の研究の一端を紹介する。
以前は専門家以外では最初の一歩を踏み込むことが難しかった生体高分子のX線結晶構造解析も構造ゲノム科学の推進もあってここ数年で様相が大きく変わってきた。現在では問題が無ければほとんどルーチン的に構造を得ることも可能となりつつあるが、一方でブラックボックス化という問題は避けられない。本講義では放射光を用いて行うX線結晶構造解析を中心として、構造解析を進めていく上で必要な知識やルーチン作業の中で初心者が見落としがちな注意すべき点について実例を紹介しながら解説する。
軟X線は 100 - 1000 eV 程度のエネルギーを持つ光であり、内殻の電子を励起できるため、物質の電子構造などを観測するのに適している。今回の講座では、二次元画像観測法、光電子分光法、しきい電子分光法を中心として、軟X線を用いて行われている様々な実験を例に軟X線分光の最先端を紹介する。
蛍光X線分析は試料にX線を照射した時発生する蛍光X線から組成分析を行う方法であるが、SPring-8放射光を利用するとfgレベルの超微量分析、1ミクロンレベルの微小領域分析、高エネルギーX線による重元素の高感度分析、蛍光XAFSによる高感度状態分析など従来のX線源では困難な分析が可能となる。生体試料、考古試料、鑑識試料など身近な応用例を通して、最先端の蛍光X線分析の魅力をわかりやすく解説する。
実習概要
粉末試料を用いた結晶構造解析は、SPring-8の放射光を用いることにより数mg程度の試料から原子配列だけでなく電子分布の様子も可視化できるまでに発展してきています。実習では、データの精度に直接関係する粉末試料作製からデータ測定及び解析までを行う予定です。
温度や圧力が変わると物質の状態(性質)は大きく変化する。我々の住んでいる地球の内部は高温高圧の世界であり、例えば地球内部の炭素は、ある条件下になるとダイヤモンドへと変化する。このように物質が条件によって変わっていく様子(構造相転移)は、高圧発生装置にX線を当てることによって観察することができる。実習では、実際に高圧発生装置を使って炭素に温度と圧力を加え、ダイヤモンドができる様子をX線回折法によって観察する。また、得られた結果からその生成過程について理解する。
磁気円二色性(Magnetic circular dichroism; MCD)とは、磁性体に円偏光X線を照射した時のX線吸収量が円偏光の向き (右回りあるいは左回り)によって異なる現象である。この現象を利用して、磁性化合物中のある特定の元素の特定電子軌道ごとに磁性状態を調べることができる。実習では、同一元素を含む磁性体と非磁性体についてX線吸収MCDを測定し、磁性体と非磁性体とでのX線吸収の応答の違いを観測する。
シリコンに代表される半導体デバイスの特性は、その結晶性に敏感である。このような半導体単結晶の結晶性評価には、高精度X線回折が有用である。さらに高輝度の光源を用いることで、微小領域の結晶性を高精度で評価することが可能になる。本実習では、微小領域高精度回折実験のための光学系の形成と、その応用例としてシリコン基板の結晶性評価を行う。
タンパク質の立体構造は機能に密接に関係していることから、その構造を明らかにすることは、生命現象を理解する上で重要である。そこで、BL38B1では多くのビームタイムを、タンパク質のX線結晶構造解析のために提供している。実習では、タンパク質の結晶化、X線回折強度データ収集実験を行った後、得られたデータの処理を行い、タンパク質の立体構造が得られるまでの一連の流れを体験する。
Thaumatinは分子量約2万2千の植物タンパク質である。このタンパク質はクズウコン科タウマトコッカス・ダニエリ(
Thaumatococcus daniellii)の種子より抽出、精製されたものである。甘味料として使用され、同重量のSucroseと較べて千倍の甘味を持つ。本実験実習ではThaumatin結晶をクライオループで掬い上げて、冷却窒素気流下で凍結する。この凍結結晶を用いてBL44B2において回折データ収集を行う。回折データからFoデータを作成し、構造解析はThaumatinの類縁タンパク質をモデルとして分子置換法で行う。電子密度図の計算後、各自、ミニマップを作成しタンパク分子の電子密度を観察する。
X線トポグラフィとは試料からのX線回折強度をフィルムなどの2次元検出器で撮影し、試料中の欠陥などを非破壊で調べる方法です。結晶中に欠陥がある場合、欠陥近傍で回折されたX線強度は、欠陥のない領域で回折されたX線の強度とは異なるため、回折像(トポグラフ)上でコントラストとなって表れます。実習では、シリコン単結晶などを試料としてトポグラフの撮影を行い、結晶中の欠陥について、その種類や性質を調べる予定です。
実習: X線イメージング BL47XU(都合によりキャンセルします)
実習: 軟X線分光 II BL25SU 脇田高徳(JASRI)テキスト当日配布
光電子顕微鏡は,X線の吸収量の強度分布をナノスケールの空間分解能で二次元的に表示することができます.X線吸収に対する磁気円二色性を利用すると,磁性体の磁区構造を可視化することができます.特に複数の元素からなる磁性体について,元素ごとの磁性を顕微的に調べることができます.これは光電子顕微鏡だけが可能とする測定です.実習では,高密度ハードディスク媒体として注目される垂直磁化膜に記録された磁区構造を可視化し,その磁気的性質を顕微的に明らかにします.
赤外分光装置は、以前から津々浦々の研究施設での基本設備となっている。それにもかかわらず、高輝度性のメリットを求めて、SPring-8という本来X線の施設に赤外線のビームラインがつくられた。BL43IRでは、その高輝度性を生かした微小領域分光と、通常の熱輻射光源では実用性の低い遠赤外領域分光に特化し成果をあげている。実習では、赤外分光、赤外放射光の解説につづいて、官能基分析をベースにした振動分光実験を行う予定である。
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参加申し込みについて
<申込方法>
下記の参加申込書の書式に従い、
(1)〜(11)の項目について記入して頂き、
件名を「SPring-8 夏の学校 参加申込」として、
事務局(e-mail: 2004summerschool@spring8.or.jp)まで、
メールにてお申込み下さい。
なお、項目(7)と(9)については下記のフローチャート(pdf)で 確認の上、
申込書をお書き下さい。
後日、必要書類についてお知らせ致します。
申込み締切りは、6月7日(月)です。(申込は終了致しました)
<参加申込書の書式>
「SPring-8 夏の学校 参加申込書」
(1) 氏名(ふりがな):
(2) 所属大学:
(3) 大学院・専攻/学部・学科:
(4) 研究室/指導教員名:
(5) 学年:
(6) 連絡先
住所:
電話:
ファックス:
E-mail:
(7) 所属大学での「放射線作業従事者」の今年度の登録について:*1
(8) 「学生教育研究災害障害保険」への加入について:*3
加入済 / 加入見込み(当日まで に)
(9) 宿泊希望日:チェックイン日-チェックアウト日 *4,*5
(SPring-8 研究交流施設[1泊2000円]または、兵庫県先端科学技術支援センター[1泊3000円]を利用して頂きますが、SPring-8 研究交流施設の空室には限りがあり、満室になり次第、兵庫県立先端科学技術支援センターに振り分けさせて頂きますのであしからずご了承下さい。)
(10) 「SPring-8 夏の学校」へ参加を希望する理由を簡潔にお書き下さい。
(11) その他 要望等があればお書き下さい。
<参加申込の注意事項>
*1 所属大学においてあらかじめ放射線作業従事者として登録されている場合、またはこれから登 録が可能な場合で夏の学校開校に間に合う場合は、それぞれ所属大学から(財)高輝度光科学研究センター書式の「
放射線業務従事者登録申請書兼放射線作業従 事承諾書」を提出して頂く 必要があります。
*2 所属大学において放射線作業従事者としての登録が不可能な場合は、(財)高輝度光科学研究 センターにおいて放射線作業従事者登録を行うことが出来ます。このためには、あらかじめ各人の責任で電離則に基づく健康診断(
診断項目参照のこと、用紙は
こちらからダウンロードして下さい)を受診し、医師から放 射線業務従事可能との診断を受けた健康診断書(10,000円程度)を提出していただく ととも に、
誓約書(フォーマットは
こちらからダウンロードして下さい)を提出して下さい。また、放 射線作業従事者教育訓練をSPring-8で受けて頂く必要が あります。夏の学校参加者のための放射線作業従事者教育訓練は、夏の学校の開校日の前日、7月9日午後から10日午前にかけて行いますので、7月9日午後 2時までにSPring-8へ集合して頂きます。なお、下記のフローチャート(pdf) を参考にして下さい。
*3 実習に参加するには、所属大学において「
学生教育研究災害障害保険」に加入していることが 必要です。所属の教務課などでご確認下さい。
*4 放射線作業 従事者教育訓練を受ける必要がある方は、前日からSPring-8に滞在する必 要がありますので、ご注意下さい。
*5 懇親会(会費1,500〜2,000円)は、放射光利用研究者との交流を目的としたもので あり、カリキュラムの一貫として参加して頂きます。
参加申し込みのフローチャート
(図をクリックするとPDF形式のファイルがダウンロードできます。)
事務局:
2004summerschool@spring8.or.jp
問合せ先:第4回SPring-8 夏の学校実行委員長
兵庫県立大学大学院物質理学研究科 鳥海幸四郎
E-mail:
sp8ss@sci.u-hyogo.ac.jp
電話/FAX: (0791)58-0155
第4回SPring-8夏の学校 委員一覧
校長 吉良 爽((財)高輝度光科学研究センター 理事長)
副校長 川村春樹(兵庫県立大学大学院物質理学研究科 研究科長)
実行委員会
委員長 鳥海幸四郎(兵庫県立大学物質理学研究科)
副委員長 鈴木芳生((財)高輝度光科学研究センター)
委員 安東愛之輔(兵庫県立大学高度産業科学技術研究所)
篭島 靖(兵庫県立大学物質理学研究科)
神谷信夫((独)理化学研究所播磨研究所)
神田一浩(兵庫県立大学高度産業科学技術研究所)
木村洋昭((財)高輝度光科学研究センター)
坂井信彦(兵庫県立大学物質理学研究科)
原 雅弘((財)高輝度光科学研究センター)
樋口芳樹(兵庫県立大学生命理学研究科)
馬越健次(兵庫県立大学物質理学研究科)
松井正典(兵庫県立大学生命理学研究科)
村松康司(日本原子力研究所関西研究所)
八木直人((財)高輝度光科学研究センター)
事務局 當眞一裕、仲田和代((財)高輝度光科学研究センター)